博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

絵本楊家将 第3章 楊継業帰宋(前編)

2012年01月18日 | 絵本楊家将
第3章 楊継業帰宋(前編)

潘虎が死んだ後、潘仁美は犯人が北漢の楊令公の子であることをつきとめて激怒し、必ずや楊家一門を皆殺しにして息子の仇を討ってやると誓いを立てました。

西暦976年3月、宋の太祖は自ら10万の大軍を率いて北漢を攻めることにし、潘仁美を監軍に任じました。しかし楊継業の率いる楊家軍が無類の勇猛さを誇っており、宋兵は大敗してしまいます。宋の太祖は軍を帰国させるほかありませんでした。

宋の太祖は戦いに敗れて戻った後に病に倒れ、ほどなく亡くなってしまいました。臨終の前に、宋の太祖は皇位を弟の趙光義に譲りました。これこそが歴史上有名な宋の太宗です。宋の太宗は即位した後も、兄の太祖皇帝の遺志を忘れず、この年の春に二十万の兵馬を動員し、兵を三路に分け、呼延賛を先鋒官とし、怒濤のごとく晋陽へと進撃させました。

宋軍の出兵は突然であったので、大軍が晋陽城下に押し寄せて来て、北漢の主劉鈞はようやく宋軍がやって来たことを知ったのでした。彼はたちまち驚きのあまり顔が土気色になり、慌てふためいて文武百官を招集して敵を退けさせる対策を討議させました。文武百官は周章狼狽し、ただ丁貴のみが落ち着きはらい、劉鈞をなだめて言いました。「こうなってしまったからには、命がけで戦うほかありません。陛下はすぐに楊令公を援軍に呼び寄せてください。私めは兵を率いて城を出、宋軍に命を賭して決戦を挑みたいと思います。」

二日目、両軍の前線で、宋軍からは呼延賛が出撃し、北漢の側からは丁貴が自ら出陣して迎え撃ちます。二人は三十合あまり打ち合いましたが、丁貴は次第に力が尽きてしまいました。呼延賛はなんとか丁貴を生け捕りにしようと思うものの、本領を発揮できないでいるうちに、丁貴が隙を突いて馬を走らせ逃げ出してしまいます。宋軍は勢いに乗じて襲撃をかけ、北漢の兵士の大半が死傷者となってしまいました。

まさにその時、楊令公が五郎楊延徳と六郎楊延昭を引き連れ、兵を率いて駆けつけました。五郎は手に大斧を持ち、大声で叫びました。「宋将よ早く退却するのだ、さもなくば自ら身を滅ぼすことになるぞ!」呼延賛は駆けつけたのが誰だかわからず、思わず激怒し、鞭を振るって馬を走らせ、楊延徳に勝負を挑みます。二人は四十合あまり打ち合いましたが、それでも勝負が着きません。呼延賛は心の中で密かに舌を巻き、もう一度戦おうとしましたが、二人の馬はどちらも持ちこたえられなくなってきていたので、両人とも兵を収めて軍営に戻るほかありませんでした。

三日目の朝、両軍の陣に戦鼓が鳴り響きました。楊令公は刀を横たえて馬を止め、五郎と六郎が左右に控えます。宋の太宗は陣前で観戦し、楊家の父子が威風堂々としているのを見て、にわかに惚れ惚れとして才能を惜しむ気持ちとなり、誤って彼らを傷つけるのを恐れて軍を引き上げるよう命令を下しました。

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絵本楊家将 第2章 七郎殺潘虎(後編)

2012年01月15日 | 絵本楊家将
第2章 七郎殺潘虎(後編)

この時突然台上から悲鳴が聞こえましたが、なんと尤天保に潘虎の暗器が命中しているではありませんか。悪辣な潘虎は尤天保が倒れるのを見るや、すぐさま駆け寄って蹴りを十数発食らわし、そうして彼をつかんで演武台から放り投げたのでした。六郎と七郎は期せずしてともに台へと押し寄せ、手を伸ばして触れてみましたが、尤天保は既に息が絶えていました。

この時、潘虎はまた台上で雄叫びをあげました。七郎は居ても立ってもおられず、両足を地面につけ、サッと放たれた矢のように演武台に飛び上りますと、台の下の観客たちは声を揃えて喝采をおくります。七郎は大声を張り上げて言いました。「私は姓は木易、排行は七番目、死んだ好漢のために仇討ちに来てやったぞ!」言い終わると、猛虎が獲物を捕らえようとするがごとく、潘虎へと飛びかかりました。

潘虎は攻撃を避けようとしましたが、七郎が足払いをかけ、潘虎はどうしようもなくドサッと台上につまずき倒れました。潘虎はすぐさま恥ずかしさのあまり真っ赤になり、またもや暗器で七郎を傷つけようとしますが、七郎はとっくに用心をしており、身をかわして潘虎のかかとをつかんで引っ張り上げ、潘虎の靴をつかみ取ります。潘虎は仰向けになって台上に倒れてしまいました。

七郎が靴を引き裂いて見てみると、驚いたことに、靴の先端に鉄の刃物がはめ込まれているのが見えました。七郎は靴を持ち上げ、台の下に向けて大声で叫びました。「観客のみなさん見て下さい、これこそが潘家の若様のやり口です。数十人の好漢の命がこのようにしてこいつの手によって失われてしまったとは、本当に理不尽ではありませんか!」

潘虎はしっぽをつかまれ、恥ずかしさのあまり真っ赤となり、必死に起き上がろうとします。七郎はいっそのこと毒を喰らわば皿までだとばかりに、潘虎の片足を踏みつけ、もう片方の足を肩まで担ぎ上げ、全身にピンと力を込めました。悲鳴があがると、潘虎は既に真っ二つになっていました。

怒りが収まりきらない七郎はまたもや台前にやって来て左右の鉄拳を伸ばし、二本の木の柱を両断してしまい、柱に掛かっていた対聯も音を上げて地面に落下します。この時六郎が馬に乗って駆けつけ、七郎が馬に跳び乗り、台下の観客たちの騒ぎが収まらないうちに、二人は馬を走らせて北へと飛ぶように去って行きました。

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絵本楊家将 第2章 七郎殺潘虎(前編)

2012年01月15日 | 絵本楊家将
第2章 七郎殺潘虎(前編)

冬が去って春が到来し、花が満開となってそろそろ散ってしまうという頃、六郎楊延昭と七郎楊延嗣は武当山で武芸を学んで三年となっていました。彼らは師匠に別れを告げ、代州の我が家へと急ぎます。

二人が何日か進むと、河南洛陽の境までたどり着きました。やんちゃな楊七郎は、大宋の都の汴梁城が非常ににぎやかであると聞いており、見てみたいと思いました。楊六郎もそう思っていましたが、以前に宋の軍と戦ったことがあり、人に見られるのを恐れていました。二人は相談のうえ、城内に入って人に尋ねられたら、自分たちが木易六・木易七であると名乗ることにしました。相談がまとまると、嬉しそうに汴梁城へと駆けて行きます。

汴梁城に入ると、二人は城門の前にお触れ書きがあるのが目に入りました。お触れ書きにはこう書いてあります。「我が大宋の神威を昂揚させ、楊家将を打ち破るため、特に潘虎に命じて酸棗門の外に演武台を設け、武芸を磨き、天下の英雄を募集させることにした。ともに大宋の天下が永久に続くように守っていこうではないか。」

七郎はこれを見ると、怒りで肺が破れそうになりました。六郎は弟がもめ事を起こすのではないかと不安になり、向きを変えて去っていきます。七郎は急いで兄を追いました。二人は街を通り抜けて食堂にたどり着きました。店員はおしゃべりで、二人が潘虎について尋ねると、こう答えました。「あいつですか、あの有名な潘太師潘仁美の二番目の若様で、少林寺での修業から戻ったばかりです。父親の方は朝廷で我が物顔で、息子の方はその虎の威を借りる狐、都でやりたい放題にやってますよ。最近皇帝陛下があいつに演武台を設けさせましたが、あいつは悪辣で、口では武芸を磨くと言いながら、既に何十人もの好漢があいつの手で殺されているんですよ。」言い終わるとぶんぶんと首を振ります。

七郎はこの話を聞くや、顔を真っ赤にして、六郎に対してこう言いました。「オレはあの野郎を引き裂かないと、気持ちが収まらないぞ!」二日目の朝、六郎と七郎は人の流れに着いて行って酸棗門までたどり着くと、演武台の両脇に対聯が掛かっているのが見えました。上の句は「芸は天下に冠たりて敵手無し」、下の句は「功は寰宇を蓋いて威名有り」で、「奉旨会武」という扁額があります。七郎は「あの野郎がこんな大ぼらを吹くとは、よくも舌が回るものだ。」とこっそり罵りました。六郎は弟の怒りが収まらないのではと思い、そっと彼の袖を引っ張り、演武台の北側の人気が少ない場所へと連れ出しました。

しばらくすると、潘虎は殺気をみなぎらせて台へと上り、「命が惜しくないやつはいくらでも上ってこい!」と叫びました。声が消えないうちに、一人の男がさっと演武台に跳び乗って言うには、「拙者は尤点保。わざわざお前のような無頼者を懲らしめに来てやったぞ!」彼がまだ言い終わらないうちに、潘虎は足を揚げて尤点保の急所を蹴りつけます。尤点保は落ち着いて受け流し、二人は五十数合打ち合いましたが、勝負が着きません。

六郎は注意深い人間なので、とっくに潘虎の足に仕掛けがあるのを見破っていました。彼は七郎に言いました。「七弟、私が見たところこの潘虎の脚力は平凡なものなのに、ずっと蹴りを用いている。奴は靴の中に暗器を隠しているに違いない。お前が台に上って腕比べをするならば、奴の両足に気をつけなければいけないぞ!」七郎はうんうんとうなずきました。

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絵本楊家将 第1章 楊門将帥

2012年01月14日 | 絵本楊家将
第1章 楊門将帥

唐朝が滅亡した後の五代十国の時期に、我が国の北方で契丹と呼ばれる少数民族が勃興し、大遼国を築きました。彼らは中原での連年の混戦に乗じて、しばしば南方に侵入し、東は幽州(今の北京市)から西は雲州(今の山西省大同市)に至る十六州の土地を併呑しました。中原で北方の障壁が失われると、契丹人は長駆して直接侵入するようになり、到る所で放火や殺人、略奪が行われ、中原の人々の苦しみは言葉にできないほどでした。この天下大乱の歳月の中で、北漢の国で天下を震わせる抗遼の名将楊継業が現れたのでした。

楊家は代々山西河曲県でくらし、そこでは常に北方の遊牧民族の侵略を受けていました。楊継業は小さい時から父親に着いて抗遼の戦いに参加し、胆力と識見は群を抜き、智勇は人並み優れていました。二十数歳の時、楊継業と妻の佘賽花は雁門関で二万人あまりの遼兵を大敗させ、有名な「雁門関の大勝利」を勝ち取りました。それ以後、楊継業の威名は四海に広まりました。楊継業のいる北漢の国主劉鈞は人材を大切にし、楊継業を加増して中書令とし、かつ金塗りの大刀を与え、彼の妻佘賽花を鎮国夫人に封じました。人々は楊家を敬愛し、楊継業を「金刀楊令公」と呼びました。

楊令公の武芸は世に抜きん出ており、佘賽花の女傑ぶりは男性にも劣りませんでした。俗に虎の父に犬の子はいないと言いますが、楊令公夫婦の子供たちもそれぞれが百人に一人いるかないないかというほどの、衆に抜きん出た才能を持っていました。夫婦からは全部で七男二女が生まれました。大郎楊延平、二郎楊延定、三郎楊延輝、四郎楊延朗、五郎楊延徳、六郎楊延昭、七郎楊延嗣、八姐楊延、九妹楊延瑛に、義子として引き取られた八郎楊延順を加え、楊家は多士済々であると言えましょう。子供たちが成年になると、楊令公夫婦はまた彼らにそれぞれ結婚させましたが、娶ったのはすべて武門の娘で、八姐・九妹を含めて、楊門女将はみな戦争に慣れていました。楊令公夫婦は楊家将を率いて北方の鋼鉄の長城とも言うべき雁門関を鎮守しました。

西暦960年、後周の大将趙匡胤がクーデタをおこし、皇位を奪い取って、宋朝を築きました。彼こそが歴史上有名な宋の太祖です。宋の太祖は雄才大略を具えた皇帝で、即位するや、東西への征討を開始し、分裂して五十年あまりとなる国土を統一しようとしました。十五年の征討を経て、宋の太祖は次々と中原の小国を滅亡させていきましたが、ただ北漢のみは楊家将が鎮守しているので、進軍するたびに大敗を喫して帰還していました。

そして北方の大遼では、実権が野心満々の女傑の手中に落ちていました。彼女こそが12歳の皇帝耶律隆緒の母親の蕭太后蕭綽です。この女性は武芸こそできませんが、知恵は人より優れていて、手腕は巧みで、世にも稀な女中の豪傑です。彼女は自分の弟である蕭天佐と蕭天佑を抜擢してそれぞれ左右の元帥とし、また武芸に巧みな韓徳昌を丞相として、三軍を統率させ、絶えず大宋を滅ぼして中原の主となる準備をさせていました。

千古より伝えられる楊家将の物語はこのような時代に発生したのです。

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絵本楊家将 はじめに

2012年01月14日 | 絵本楊家将
先日twitterで、「最近『楊家将伝記』(原題『少年楊家将』)など『楊家将』ドラマの日本語版が出ている割には、原典の内容を詳しく紹介した本が無い。北方謙三が『楊家将』の小説を出しているが、あれは話の筋からテーマに至るまですべてが別物だし……」という話題が出まして、原典の翻訳は私の手にあまるものの、子供向けの『楊家将』とかなら何とかなるんじゃね?と思い立ち、「そういや中国に留学してた時に『楊家将』の絵本を買ってたわ。これを訳してみるか」と思い立った次第です。

底本にするのは雲南教育出版社が2009年に出版した世界経典文学名著シリーズのひとつで趙蘭輝・申哲宇の改筆による『楊家将』。



このシリーズは全30作中20作がアンデルセン童話・グリム童話など西洋の童話・名作が占めていますが、残り10作は『三国演義』『西遊記』など中国の古典小説が占めており、その中に『楊家将』が紛れ込んでいるというわけです。本の中身は以下の画像のような感じです。



画像ではわかりにくいと思いますが、文章にピンインのフリガナがついています。対象年齢はたぶん幼稚園から小学校低学年までといったところでしょう。子供向けということで、適当にいいように話がまとめられていたり、描写がマイルドになっていたり、原典とは違って「めでたし、めでたし」で話が終わっていたりしますが、大体の話の流れと有名なエピソードを把握する分にはこれでも充分ではないかと思います。

ということでこれを少しずつ訳していくことにするわけですが、本書は全24章から成っており、各章の分量が割とバラバラということで、各章を1~3回ぐらいに分けてアップしていく形になると思います。あと、言うまでもなく更新ペースは不定期です。イヤになったらやめます。と、予防線を張ったところで早速「第1章 楊門将帥」へとゴー!
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『ROME』その4(完)

2012年01月13日 | その他映像作品
『ROME』第17~最終22話まで見ました。

ローマに入って執政官となったオクタヴィアヌスはアントニウス・レピドゥスと結び、フィリッピの戦いでブルートゥス・カッシウスの軍を打ち破ります。ここでカッシウスから撤退を進言されたブルートゥスが「いや、私はもう逃げない(キリッ」なんていい顔をして言ってますが、そこはむしろ逃げろよと……

そしてアントニウス・レピドゥスとともに第2回三頭政治を開始したオクタヴィアヌスですが、ユダヤのヘロデ王子からの献金をめぐって仲違いを始め、(この2人が対立するのはいつもお金絡みなんですなあ)ならば政略結婚だ!ということで、なぜかアントニウスと長年愛人関係にある母のアティアではなく姉のオクタヴィアを娶せますが、結局は双方の仲が決裂し、アントニウスはローマを離れてエジプトへ。

さて、子供たちを取り戻したヴォレヌスは元通りアヴェンティヌス地区のボスの座に収まりますが、奴隷として辛酸を舐めた娘たちは彼に心を開かず、傷心のヴォレヌスはアントニウスの副官としてともにエジプトへ。一方、相棒のプッロは以前からのツテでオクタヴィアヌスの側に加わり、親友同士が敵味方に引き裂かれることになりますが……

ということでカエサルのガリア遠征からオクタヴィアヌスがローマの初代皇帝となるまでを描いた本作もいよいよ完結。個人的にはアクティウムの海戦があっさりスルーされたのが遺憾ですが、もう海戦シーンを撮るだけの予算が残ってなかったということでしょうか……

そしてオクタヴィアヌスも子役からサイモン・ウッズに選手交代したところですっかりキャラが変わってしまったようで、新妻のリヴィアに「私は時々手もしくは鞭で理由も無く君を殴るかも知れない。それは怒りのせいではなく快楽を得るためだ。」と、自分がドSであることを告白したり、アントニウスの死後にクレオパトラと会見し、自分では申し分なくやさしく接したつもりが、当のクレオパトラからは半泣きになりながら「あいつは怪物よ!」と罵られたりしています。前半部では素直で頭の良い少年だったはずなんですが、家庭環境というか母親の教育が悪かったのでしょうか(^^;)
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『靖国史観』/『国家と歴史』 

2012年01月11日 | 日本史書籍
小島毅『靖国史観 幕末維新という深淵』(ちくま新書、2007年)

今まで何となくスルーしてましたが、年末に読んだ『中国化する日本』で取り上げられていたので、読んでみることに。靖国問題がメインテーマと思いきや、靖国問題をとっかかりとして明治維新の意義について問い直すという内容で、「明治維新って、ぶっちゃけ起こらなくてもよかったんじゃね?」(大意)と、物凄い問題提起をしています(^^;)

そして薩長は幕府側に勝ったから官軍となったわけですが、その順序をねじまげて自分達が官軍(=正義)だから勝ったと解釈し、それを押し通したことが靖国問題の根源であったと説いています。すなわち靖国神社とは正義を体現する官軍(皇軍)側の犠牲者を祀る機関であり、正義が敗れるはずがないということで、靖国神社も当然皇軍が敗北するという事態を全く想定していなかった。しかし第二次世界大戦でその敗れるはずのない皇軍が敗北したことで、すべての歯車が狂ってしまったというわけです。

波田野澄雄『国家と歴史 戦後日本の歴史問題』(中公新書、2011年11月)

そしてこちらでは靖国問題を含めた歴史問題について概観。本書では割と印象的なフレーズが多かったので、以下に2~3挙げておきます。

「歴史認識の共有はほぼ不可能であるとしても、歴史資料を共有することは可能」(199頁)

たとえ違うところを見ていても、共有できるものは確かにあると。

スタンフォード大学アジア太平洋研究センターが取り組む「日中韓の教科書比較のプロジェクト」の中間報告は、日本の教科書は全般的に、戦争を賛美することに最も抑制的であるが、事実を解釈するストーリー性には欠けており、単なる年代記(クロノロジー)のようだと批評している。(273頁)

何となく日本の歴史教育は歴史用語の暗記が中心となるが、中国の歴史教育は歴史解釈の暗記が中心となるという話が思い出されます。

異質なものを絶えず同質化するというかたちでしか問題を解決できない社会は、他の問題にも同様の解決を図るであろう。(96頁)

……(´・ω・`)
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『ROME』その3

2012年01月07日 | その他映像作品
『ROME』第12~16話まで見ました。

闘技場で死ぬ一歩手前だったプッロを助け出したことで、てっきり政務官をクビになってローマから追放されると思っていたヴォレヌスですが、カエサルからは元老院議員への推挙という予想外の裁定が。実はこれは不穏な空気を感じ取ったカエサルがヴォレヌスをボディガード替わりにしようという深謀遠慮(?)なのでありました。

しかしセルウィリアはヴォレヌスをカエサルから引き離すべく、カエサル暗殺決行の当日に侍女に命じてヴォレヌスに「孫のルキウスは実は妻と浮気相手との間に生まれた子だ」と耳打ちさせ、激怒したヴォレヌスは彼女の思惑通り職務放棄をし、自宅に舞い戻ります。そしてその隙を突いてブルートゥスらはカエサルを殺害。一方、ヴォレヌスに問い詰められた妻は彼の目の前で自害。衝撃のあまりヴォレヌスが自宅を離れた隙に娘達も姿を消してしまいます。娘達はアヴェンティヌスの暗黒街のボスのエラステスに殺害されたと知ったヴォレヌスはエラステスを殺害。

カエサルの遺書により養子に指名されたオクタヴィウス改めオクタヴィアヌスは、アントニウスに入れ知恵してブルートゥス一派と手打ちすると見せかけて追い落とし、カエサルの遺産をめぐってアントニウスと対立するようになると、単身ローマを離れて地方で自らの勢力を築き上げます。

アヴェンティヌス地区は元締めのエラステスが死んだことで『北斗の拳』のような無法地帯となりますが、そこへアントニウスの後ろ盾を得たヴォレヌスが新たなボスとして君臨。一気に妻と娘を失ったことで行動が荒みまくりますが、プッロから娘達が生きているらしいという情報を得ると、生きる希望を取り戻して家族捜索の旅へ。しかしようやく探し当てた娘達は鉱山の奴隷として男達の慰み者となっていたのでした……

一方、オクタヴィアヌスはアントニウスの軍を打ち破り、キケロと連絡を取り合ってローマで凱旋式を挙行しようとしますが……

ということで、特にヴォレヌスが関わる部分では予想の斜め上を行く展開が待ち受けていました(^^;) 政務官→元老院議員→暗黒街のボスと、身分の変転が激しすぎます…… 更に言うとカエサルはこの人のせいで死んだようなものですが、このことについてはあまり反省していないようです…… 

おまけに相変わらずアントニウスさんがDQNすぎて見るのが辛いw オクタヴィアヌスの母のアティアについては、「実際のアティアはこんな悪女ではなかったろう」と思えるのですが、(で、実際悪女ではなかったわけですが)アントニウスさんのブレのないDQNっぷりについては「さもありなん」と思ってしまうのはなぜなんでしょうか……
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『ROME』その2

2012年01月03日 | その他映像作品
『ROME』第6~11話まで見ました。

プッロとオクタヴィウスが妻の浮気相手を人知れず抹殺したことで家庭の平穏を取り戻したヴォレヌスですが、アントニウスに従って再び出征することに。今回の目的はギリシアに駐屯するカエサルの救援ですが、ここでヴォレヌスとプッロの乗った船が出航するやいなや暴風雨に巻き込まれて難破し、無人島に漂着したりしてます。今まで散々見てきた武侠物でもお馴染みの展開ですが、海に出ると取り敢えず難破して無人島に漂流するというのは、洋の東西を問わず歴史物のデフォルトな展開なんでしょうか(^^;)

で、逃亡したポンペイウスを追ってエジプトに到着するカエサルですが、ここでクレオパトラが登場。このドラマのクレオパトラは期待に違わずエロエロです。しかも無人島から生還したプッロに種付けをさせ、首尾良く妊娠して子供を産むとそれをカエサルの子と偽ったり、色々と陰謀を画策。このドラマのクレオパトラは後々あんまり同情できなさそうですw

その後、ローマに帰還したカエサルはガリア遠征の凱旋式を挙行し、終身独裁官に就任。ついでに退役したヴォレヌスをアヴェンティヌス地区の政務官にスカウト。軍人から政治家に首尾良く転進を遂げたヴォレヌスですが、相棒のプッロは同じく退役後、痴情のもつれからヴォレヌスの奴隷を殺害したことでケチがつきはじめ、アヴェンティヌスの地元のボスに雇われて殺しの仕事に従事→うっかり殺しの現場を老婆に見られて殺人犯として逮捕→裁判の結果、闘技場で剣闘士と戦うことに(事実上の死刑)と、一気に転落人生へ……

一方、ポンペイウス派として一度はカエサルに刃向かったブルートゥスですが、以前からの交遊によりカエサルによって赦免されることに。しかしすっかりヤンデレ化した母のセルウィリアはポンペイウスの息子を匿ったり、反カエサル派の勢力を糾合したりして着々とカエサル暗殺の布石を打っていきます。そして本人も知らない間に反カエサル派の頭目に祭り上げられていることを知り、驚愕するブルートゥス。当初は必死にカエサル暗殺の動きを阻止しようとするものの、当のカエサルからも反対派として疑われていることを知り、段々精神的に追い詰められていくのでありました……

ということで、次回は「ブルータス、お前もか!」な展開になるはず。あと、詳細は省きますが(省かざるを得ないほど酷い展開があったと察して下さい)、オクタヴィアが相変わらず不憫すぎる(´;ω;`)
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『白蛇伝説』/『譲子弾飛』

2012年01月02日 | 映画
『白蛇伝説』

程小東が監督、李連杰(ジェット・リー)が法海和尚、黄聖依が白素貞、林峰(レイモンド・ラム)が許仙、蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)が青青、そしてなぜかビビアン・スーも友情出演と、豪華スタッフ&キャストで送る『白蛇伝』映画です。正月に見るのにふさわしいアクション大作でしたが、頑張ってたのは役者さんではなくCG制作班ではないかという気も(^^;)

『白蛇伝』と言えば、元々は男をたぶらかす白蛇の精を高僧が退治するという話だったはずが、後に善玉と悪玉が入れ替わってしまい、妖怪の身で人間の男性を愛してしまった白素貞が健気なヒロイン、「人と妖は所詮相容れぬ!」と杓子定規に白素貞を倒そうとする法海が人の恋路を邪魔する悪役という役回りになり、自分のやることに疑問を感じない正義の味方とはどういうものなのかを、まざまざと我々に見せつけてくれる話になっちゃったわけです。

で、今回の映画も基本的な設定や流れは今までのものと変わらないのですが、ネタバレすると今回の法海和尚は一応反省しますw

『譲子弾飛』

姜文監督・主演の、去年の正月映画。民国八年の四川、姜文演じる匪賊の親分張麻子は、葛優演じる新任の県令馬邦徳夫妻が乗る汽車を襲撃。馬邦徳は身の安全を守るため、敢えて県令の師爺(相談役)と身分を偽り、張麻子一党とともに赴任地の鵞城へ。張麻子はこれまた身分を偽って県令のふりをしますが、鵞城は周潤発(チョウ・ユンファ)演じる街の顔役の黄四郎が牛耳っており……

ということで、張麻子・馬邦徳・黄四郎の3人が互いに丁々発止の騙し合いと暗闘を繰り広げるのが作品の見所となります。四川が物語の舞台とあって、通常の中文音声のほかに四川方言による音声モードがあるのも特色です。しかしこちらの語学力不足もあいまって細部がイマイチつかめなかったのが何とも残念。日本語版の劇場公開もしくはDVDリリースが望まれるところです。所々で陳凱歌の『無極』(邦題『PROMISE』)を思わせるような微妙なギャグが挿入されているので、実は物凄く評価に困る作品なのではないかという疑いも捨てきれないのです(^^;)

というか、EDのクレジットに思い切り「日本語字幕担当 水野衛子」とか出てるので、制作段階で既に日本での公開を念頭に置いてたのではないかと思われるのですが……
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