406138595X">安全保障入門 (星海社新書)の感想
集団的自衛権や自衛隊の文官統制といった時事的な話題も盛り込み、地政学に対して平和学もちゃんと紹介するといった具合に、網羅的かつ比較的片寄りのない入門書になっていると思う。中国に関して、日中両国がお互いを戦後レジームや現在の国際秩序に対する挑戦者と非難し合う関係にあるという指摘が印象的。
読了日:9月2日 著者:石動竜仁
ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)の感想
浦賀に先立つ琉球来航(第2章)と、ペリー来航を庶民がどう受け取ったかという話(第5・6章)を面白く読んだ。特に日米修好条約とは別に琉球王国がアメリカと琉米修好通商条約を結んでいたことは、昨今の沖縄をめぐる情勢を考えると、重要な事項になるかもしれない。
読了日:9月2日 著者:西川武臣
鄭成功―南海を支配した一族 (世界史リブレット人)の感想
鄭芝龍の時代からの鄭氏政権の興亡、南明諸政権との関わり、天地会の結成や『国性爺合戦』など、鄭成功に関するトピックをコンパクトにまとめている。金庸『鹿鼎記』でおなじみ陳永華(陳近南)についても詳しく触れられている。鄭成功の同母弟次郎左衛門には、福松(鄭森・鄭成功)とは違って漢名はなかったのだろうか。鄭芝龍と田川氏の子供たちは「マージナル・マン」的な倭寇の末裔として興味深い存在である。
読了日:9月2日 著者:奈良修一
【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)の感想
本書で印象に残ったのは、本題より第4章-6の難民の話。「あってはならないこと」と断りを入れつつ、中東各国の少数民族が難民化することで、彼らの犠牲と引き替えに、結果的にこの地域の少数民族問題が解決に向かっていると指摘している。日本でもシリアなどからの難民に対して否定的な意見が目立つが、こういう「現実」をどう考えるのか聞いてみたい。また、我々は「ゲルマン民族の大移動」に匹敵するような難民の流入を経験しているのではないかと思った。
読了日:9月5日 著者:池内恵
ケマル・アタテュルク―トルコ国民の父 (世界史リブレット人)の感想
トルコ共和国成立後の文字改革などの近代化の詳細のほか、祖国解放運動以来の戦友・同志を次々と切り捨てていく独裁者としての側面も描く。個人的に興味深かったのは、即位前のメフメト6世と懇意であったということと、ローザンヌ条約締結後にギリシアとの和平が成立した際に、イスメト首相とギリシアのヴェニゼロス首相との間に信頼関係が成立し、ヴェニゼロスがイスメトをノーベル平和賞候補として推薦したという話。中公新書の『物語近現代ギリシャの歴史』では、ヴェニゼロスがひたすらトルコにしてやられた話しか載っていなかったと思うが。
読了日:9月6日 著者:設楽國廣
大元帥と皇族軍人 大正・昭和編 (歴史文化ライブラリー)の感想
「大元帥と皇族軍人」とあるが、皇族軍人よりは大元帥、特に昭和天皇の動向の比重の方が重い。また、尾張徳川家の徳川義親や、東条英機との対立で知られる前田利為といった華族軍人についても取り上げる。皇族軍人については伏見宮博恭王や閑院宮載仁親王が「老害」化していたこと、また敗戦後に戦犯となってもおかしくない立場であったのに、おそらくは昭和天皇の身代わりとして収監された梨本宮守正王以外は赦免されたことなどを指摘する。
読了日:9月8日 著者:小田部雄次
古墳の古代史: 東アジアのなかの日本 (ちくま新書)の感想
日本の古墳を中国・朝鮮のそれと比較して、その特色を見出そうという趣旨。中国で王墓を築く風習が衰退するのと対応するかのように、朝鮮・日本で大型墳墓の発達が始まるという対応関係は面白い。日本の古墳が墳丘にこだわるが、陵園の存在が見出せない、副葬品として日常生活用品が乏しいといった点は、中国あるいは朝鮮から、儒教的な祭祀を(少なくとも積極的に)取り入れなかったということを示しているのではないか。
読了日:9月10日 著者:森下章司
日本国民であるために: 民主主義を考える四つの問い (新潮選書)の感想
改憲論などの問題に現状維持を求める、「右」でもなく「左」でもない「自称中立」のための政治思想論。九条をめぐって、「右」にも「左」にも本書が指摘するようなジレンマが存在することについては同意だが、日本国憲法制定をめぐる「事実問題」については、佐々木案も含めれば二度「自主憲法」制定のチャンスがあったことなど、色々言いたいことはある。また、交戦権を欠くので日本の主権が不完全ということなら、共和制を採用するかわりに軍隊を残すという選択肢もあったのではないだろうか。
読了日:9月12日 著者:互盛央
学術書を書くの感想
京都大学学術出版会の「中の人」による著書だが、正直なところその提言は学術書と一般書の中間、学生や一般向けの概説書とか選書などにあてはめるべきものが多い。再校時に修正箇所が1文字でも存在するページが全体の3分の1を越えると追加料金が発生する印刷所も存在するとか、「すぐに直せる」「いつでも直せる」は禁句といった、耳に痛い提言も盛り込まれてはいるが…
読了日:9月15日 著者:鈴木哲也,高瀬桃子
シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)の感想
高校世界史では第一次世界大戦のついでとして、日本史では米騒動とセットで語られがちなシベリア出兵。しかしその詳細を見ていくと、「バスに乗り遅れるな」とばかりに諸国と共同出兵しながら、政治と軍事の対立といった内部の事情に足を引っ張られて撤兵の時期をずるずると逃し、シベリア撤兵のために満洲へと兵を増派するといった、一見しただけでは訳の分からない事態に陥ったり、「犠牲者の死を無駄にしないため」と、手ぶらでの撤兵を決断できなかったりと、現在の「教訓」になりそうな事柄が見えてくる。
読了日:9月19日 著者:麻田雅文
落日の豊臣政権: 秀吉の憂鬱、不穏な京都 (歴史文化ライブラリー)の感想
文禄年間、豊臣秀次の死や文禄の大地震の前後の京都の世相というか雰囲気を写しだそうという試み。秀次一族が処刑された後、方形二層のピラミッド状の塚が造られたということだが、これに聚楽第・方広寺大仏殿と合わせると、当時の京はかなり異様な雰囲気を醸し出していたのではないかと思う。
読了日:9月19日 著者:河内将芳
麻雀の誕生の感想
麻雀の中国での源流、アメリカでのブームと規格化、日本での受容と紹介など、委細を尽くした解説となっている。「筒子」「索子」「万子」のデザインがすべて銭に由来すること、夏目漱石『満韓ところどころ』の、現地での麻雀遊びに関するものとされる記述が、実は今で言う麻雀ではないのではないかというツッコミなどが個人的な読みどころ。
読了日:9月21日 著者:大谷通順
真田信之 父の知略に勝った決断力 (PHP新書)の感想
信之の前半生、「犬伏の別れ」(本書によると「天明の別れ」が正しいのではないかということだが)までの歩みは昌幸・信繁とほぼ共通しているので、読みどころとしてはそれ以降、特に第五章以降となる。信之配下にも大坂方となる昌幸・信繁を支援したり内通した者がいたこと、真田領のキリシタンの存在、終盤の、松代・沼田それぞれの跡目相続の話を面白く読んだ。
読了日:9月24日 著者:平山優
オリエント世界はなぜ崩壊したか: 異形化する「イスラム」と忘れられた「共存」の叡智 (新潮選書)の感想
「寛容」をキーワードにイスラム以前から現代までのオリエント史を通覧。前後して同じく新潮選書から出た池内恵『サイクス=ピコ協定百年の呪縛』を読む前提となる知識が提供されてている。概説としても問題提起としてもこちらの方がわかりやすい。
読了日:9月28日 著者:宮田律
集団的自衛権や自衛隊の文官統制といった時事的な話題も盛り込み、地政学に対して平和学もちゃんと紹介するといった具合に、網羅的かつ比較的片寄りのない入門書になっていると思う。中国に関して、日中両国がお互いを戦後レジームや現在の国際秩序に対する挑戦者と非難し合う関係にあるという指摘が印象的。
読了日:9月2日 著者:石動竜仁
ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)の感想
浦賀に先立つ琉球来航(第2章)と、ペリー来航を庶民がどう受け取ったかという話(第5・6章)を面白く読んだ。特に日米修好条約とは別に琉球王国がアメリカと琉米修好通商条約を結んでいたことは、昨今の沖縄をめぐる情勢を考えると、重要な事項になるかもしれない。
読了日:9月2日 著者:西川武臣
鄭成功―南海を支配した一族 (世界史リブレット人)の感想
鄭芝龍の時代からの鄭氏政権の興亡、南明諸政権との関わり、天地会の結成や『国性爺合戦』など、鄭成功に関するトピックをコンパクトにまとめている。金庸『鹿鼎記』でおなじみ陳永華(陳近南)についても詳しく触れられている。鄭成功の同母弟次郎左衛門には、福松(鄭森・鄭成功)とは違って漢名はなかったのだろうか。鄭芝龍と田川氏の子供たちは「マージナル・マン」的な倭寇の末裔として興味深い存在である。
読了日:9月2日 著者:奈良修一
【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)の感想
本書で印象に残ったのは、本題より第4章-6の難民の話。「あってはならないこと」と断りを入れつつ、中東各国の少数民族が難民化することで、彼らの犠牲と引き替えに、結果的にこの地域の少数民族問題が解決に向かっていると指摘している。日本でもシリアなどからの難民に対して否定的な意見が目立つが、こういう「現実」をどう考えるのか聞いてみたい。また、我々は「ゲルマン民族の大移動」に匹敵するような難民の流入を経験しているのではないかと思った。
読了日:9月5日 著者:池内恵
ケマル・アタテュルク―トルコ国民の父 (世界史リブレット人)の感想
トルコ共和国成立後の文字改革などの近代化の詳細のほか、祖国解放運動以来の戦友・同志を次々と切り捨てていく独裁者としての側面も描く。個人的に興味深かったのは、即位前のメフメト6世と懇意であったということと、ローザンヌ条約締結後にギリシアとの和平が成立した際に、イスメト首相とギリシアのヴェニゼロス首相との間に信頼関係が成立し、ヴェニゼロスがイスメトをノーベル平和賞候補として推薦したという話。中公新書の『物語近現代ギリシャの歴史』では、ヴェニゼロスがひたすらトルコにしてやられた話しか載っていなかったと思うが。
読了日:9月6日 著者:設楽國廣
大元帥と皇族軍人 大正・昭和編 (歴史文化ライブラリー)の感想
「大元帥と皇族軍人」とあるが、皇族軍人よりは大元帥、特に昭和天皇の動向の比重の方が重い。また、尾張徳川家の徳川義親や、東条英機との対立で知られる前田利為といった華族軍人についても取り上げる。皇族軍人については伏見宮博恭王や閑院宮載仁親王が「老害」化していたこと、また敗戦後に戦犯となってもおかしくない立場であったのに、おそらくは昭和天皇の身代わりとして収監された梨本宮守正王以外は赦免されたことなどを指摘する。
読了日:9月8日 著者:小田部雄次
古墳の古代史: 東アジアのなかの日本 (ちくま新書)の感想
日本の古墳を中国・朝鮮のそれと比較して、その特色を見出そうという趣旨。中国で王墓を築く風習が衰退するのと対応するかのように、朝鮮・日本で大型墳墓の発達が始まるという対応関係は面白い。日本の古墳が墳丘にこだわるが、陵園の存在が見出せない、副葬品として日常生活用品が乏しいといった点は、中国あるいは朝鮮から、儒教的な祭祀を(少なくとも積極的に)取り入れなかったということを示しているのではないか。
読了日:9月10日 著者:森下章司
日本国民であるために: 民主主義を考える四つの問い (新潮選書)の感想
改憲論などの問題に現状維持を求める、「右」でもなく「左」でもない「自称中立」のための政治思想論。九条をめぐって、「右」にも「左」にも本書が指摘するようなジレンマが存在することについては同意だが、日本国憲法制定をめぐる「事実問題」については、佐々木案も含めれば二度「自主憲法」制定のチャンスがあったことなど、色々言いたいことはある。また、交戦権を欠くので日本の主権が不完全ということなら、共和制を採用するかわりに軍隊を残すという選択肢もあったのではないだろうか。
読了日:9月12日 著者:互盛央
学術書を書くの感想
京都大学学術出版会の「中の人」による著書だが、正直なところその提言は学術書と一般書の中間、学生や一般向けの概説書とか選書などにあてはめるべきものが多い。再校時に修正箇所が1文字でも存在するページが全体の3分の1を越えると追加料金が発生する印刷所も存在するとか、「すぐに直せる」「いつでも直せる」は禁句といった、耳に痛い提言も盛り込まれてはいるが…
読了日:9月15日 著者:鈴木哲也,高瀬桃子
シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)の感想
高校世界史では第一次世界大戦のついでとして、日本史では米騒動とセットで語られがちなシベリア出兵。しかしその詳細を見ていくと、「バスに乗り遅れるな」とばかりに諸国と共同出兵しながら、政治と軍事の対立といった内部の事情に足を引っ張られて撤兵の時期をずるずると逃し、シベリア撤兵のために満洲へと兵を増派するといった、一見しただけでは訳の分からない事態に陥ったり、「犠牲者の死を無駄にしないため」と、手ぶらでの撤兵を決断できなかったりと、現在の「教訓」になりそうな事柄が見えてくる。
読了日:9月19日 著者:麻田雅文
落日の豊臣政権: 秀吉の憂鬱、不穏な京都 (歴史文化ライブラリー)の感想
文禄年間、豊臣秀次の死や文禄の大地震の前後の京都の世相というか雰囲気を写しだそうという試み。秀次一族が処刑された後、方形二層のピラミッド状の塚が造られたということだが、これに聚楽第・方広寺大仏殿と合わせると、当時の京はかなり異様な雰囲気を醸し出していたのではないかと思う。
読了日:9月19日 著者:河内将芳
麻雀の誕生の感想
麻雀の中国での源流、アメリカでのブームと規格化、日本での受容と紹介など、委細を尽くした解説となっている。「筒子」「索子」「万子」のデザインがすべて銭に由来すること、夏目漱石『満韓ところどころ』の、現地での麻雀遊びに関するものとされる記述が、実は今で言う麻雀ではないのではないかというツッコミなどが個人的な読みどころ。
読了日:9月21日 著者:大谷通順
真田信之 父の知略に勝った決断力 (PHP新書)の感想
信之の前半生、「犬伏の別れ」(本書によると「天明の別れ」が正しいのではないかということだが)までの歩みは昌幸・信繁とほぼ共通しているので、読みどころとしてはそれ以降、特に第五章以降となる。信之配下にも大坂方となる昌幸・信繁を支援したり内通した者がいたこと、真田領のキリシタンの存在、終盤の、松代・沼田それぞれの跡目相続の話を面白く読んだ。
読了日:9月24日 著者:平山優
オリエント世界はなぜ崩壊したか: 異形化する「イスラム」と忘れられた「共存」の叡智 (新潮選書)の感想
「寛容」をキーワードにイスラム以前から現代までのオリエント史を通覧。前後して同じく新潮選書から出た池内恵『サイクス=ピコ協定百年の呪縛』を読む前提となる知識が提供されてている。概説としても問題提起としてもこちらの方がわかりやすい。
読了日:9月28日 著者:宮田律