日中関係史 1500年の交流から読むアジアの未来の感想
日本が中国に学んだ時代、中国が日本に学んだ時代、抗日の時代、再び中国が日本に学んだ時代、そして日中関係が悪化した現在という構成。中立性は意識されているようだが、やや日本側を贔屓しているというか、日本側の見解に拠っているかなという印象。近代の部分では、「シナ通」の活動や功罪について1節分程度割いても良かったのではないかと思う。中国の抗日ドラマについて触れている部分もあるが、このジャンルが映画において抗日戦争当時から存在していたことを失念しているのではないか。
読了日:03月06日 著者:エズラ・F・ヴォーゲル
木簡 古代からの便りの感想
新聞連載をまとめたものということで取っつきやすい。木簡と紙の併用と用途の違い、木簡の様々な形状と機能、時期による書風の違い、保管と削り櫛の接合による現形の復元といった話題が面白い。多方面に行き届いた内容になっていると思う。
読了日:03月08日 著者:
ジャポニスム 流行としての「日本」 (講談社現代新書)の感想
19世紀中頃から20世紀初頭にかけてモネやゴッホらの絵画に影響を与えたジャポニスム、その展開や影響の詳細を語る。絵画だけでなく扇子や団扇といった工芸品への注目、ジャポニスム愛好者に女性が多かったことの影響、ジャポニスムは単独の河川のようなものではなく、モダンアートなどと同様の当時の西洋画壇の海流のようなものであったこと、色彩・構図・線といった技法面での影響の詳細、そして日本画壇への環流など、総合的な概説となっている。
読了日:03月10日 著者:宮崎 克己
韓国 現地からの報告: セウォル号事件から文在寅政権まで (ちくま新書 (1483))の感想
セウォル号事件から映画『パラサイト』までの韓国あるいは日韓関係の時評を収める。韓国社会の問題点や日本人の目から見た違和感に触れつつも、韓国人の民主主義に対する思い入れ、真摯さが伝わってくる。韓国人が日本政府や日本の戦争犯罪に反発しつつも目の前の日本人を気遣う態度に触れたり、池上彰や武藤元駐韓大使の意見にツッコミを入れたりと、韓国社会・韓国人への最低限のリスペクトを持った上での論評になっているのがよい。(日本の韓国論に対して、こんな当然のことを特筆して褒めなければいけないのは悲しむべきことだが)
読了日:03月12日 著者:伊東 順子
中国と東部ユーラシアの歴史 (放送大学教材)の感想
通常は隋唐時代の国際関係について用いられる「東部ユーラシア」概念を全時代的に押し出しているが、実際の所は魏晋南北朝までは「多元的」「多元化」、近現代は「中華民族」をキーワードとしている。「中国と東部ユーラシア」というよりは「中国と中華民族の歴史」といった方が中身としては近いような気もする。
読了日:03月15日 著者:佐川 英治,杉山 清彦
子どもたちに語る 日中二千年史 (ちくまプリマー新書 346)の感想
ヴォーゲルのものとは対称的に前近代の日中関係の比重が大きい。寧波に関するものなど、著者が関わった研究が生かされた内容。近現代の部分についても、「暴支膺懲」という言葉がそもそも漢語から成る点など、日本人が現実の中国を忌み嫌いながらも古い中国には憧れを持ち、かつそのことを充分に自覚していないという矛盾をうまく突いている。
読了日:03月18日 著者:小島 毅
百年戦争-中世ヨーロッパ最後の戦い (中公新書 2582)の感想
イングランド王とフランス王との戦争として始まった百年戦争が、イングランド人とフランス人との戦争として終わるまでの過程を描く。「百年戦争」のネーミングをめぐる問題、英側による交渉ガードとしての性質が濃厚であったという仏王位継承問題、英仏の直接対決は意外に多くなく、「代理戦争」として展開されることが多かったという戦争の経過、ジャンヌ・ダルクの言動から見て取れる愛国主義といった話題を面白く読んだ。
読了日:03月21日 著者:佐藤 猛
草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書)の感想
鮮卑からモンゴルまで、遊牧王朝の興亡を軸に「東方ユーラシア史」を描き出す。農耕・遊牧境界地帯、拓跋国家、沙陀系王朝、澶淵体制といった重要項目や近年の研究の成果を簡潔明快にまとめている。日本への密教の伝来や大元治下での朱子学の交流と高麗・日本への伝播など、文化面に目配りが効いているのも良い。欲を言えば、専著・類書があるとはいえ、秦漢時代の匈奴にも一章程度を割いて欲しかった気もするが。
読了日:03月23日 著者:古松 崇志
歴史総合パートナーズ 4 感染症と私たちの歴史・これからの感想
「細菌による世界の統一」、「コレラの伝播こそが日本の開国」といった印象的なフレーズを使用しつつ古今東西の感染症の歴史を簡潔にまとめる。地名を冠した病名が差別的な感覚と表裏一体という指摘は、今まさにCOVID-19で問題になっていることである。インドや中国は人口規模が多いので、感染症による死者が多くても必ずしも人口動態に影響を及ぼさず、こうした問題が大きな研究課題になっているという点が気になるところだが…
読了日:03月24日 著者:飯島 渉
月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)の感想
前作よりは短い作品が多い印象。中国で隆盛のタイムスリップ物のパロディ「晋陽の雪」、時系列が実際の歴史とは逆方向に進んでいくという趣向の「金色昔日」の二篇を特に面白く読んだ。「晋陽の雪」は、王朝の滅亡を眼前にしてネットでのやりとりに没頭する人々が描かれているが、これは新型コロナウイルス禍を前にネットに没頭している我々の姿を連想させる。「金色昔日」の方も、ネットが廃れ、かつてグローバルにやりとりしていた頃のことが懐かしく回想されるのが印象的。
読了日:03月29日 著者:劉 慈欣
日本が中国に学んだ時代、中国が日本に学んだ時代、抗日の時代、再び中国が日本に学んだ時代、そして日中関係が悪化した現在という構成。中立性は意識されているようだが、やや日本側を贔屓しているというか、日本側の見解に拠っているかなという印象。近代の部分では、「シナ通」の活動や功罪について1節分程度割いても良かったのではないかと思う。中国の抗日ドラマについて触れている部分もあるが、このジャンルが映画において抗日戦争当時から存在していたことを失念しているのではないか。
読了日:03月06日 著者:エズラ・F・ヴォーゲル
木簡 古代からの便りの感想
新聞連載をまとめたものということで取っつきやすい。木簡と紙の併用と用途の違い、木簡の様々な形状と機能、時期による書風の違い、保管と削り櫛の接合による現形の復元といった話題が面白い。多方面に行き届いた内容になっていると思う。
読了日:03月08日 著者:
ジャポニスム 流行としての「日本」 (講談社現代新書)の感想
19世紀中頃から20世紀初頭にかけてモネやゴッホらの絵画に影響を与えたジャポニスム、その展開や影響の詳細を語る。絵画だけでなく扇子や団扇といった工芸品への注目、ジャポニスム愛好者に女性が多かったことの影響、ジャポニスムは単独の河川のようなものではなく、モダンアートなどと同様の当時の西洋画壇の海流のようなものであったこと、色彩・構図・線といった技法面での影響の詳細、そして日本画壇への環流など、総合的な概説となっている。
読了日:03月10日 著者:宮崎 克己
韓国 現地からの報告: セウォル号事件から文在寅政権まで (ちくま新書 (1483))の感想
セウォル号事件から映画『パラサイト』までの韓国あるいは日韓関係の時評を収める。韓国社会の問題点や日本人の目から見た違和感に触れつつも、韓国人の民主主義に対する思い入れ、真摯さが伝わってくる。韓国人が日本政府や日本の戦争犯罪に反発しつつも目の前の日本人を気遣う態度に触れたり、池上彰や武藤元駐韓大使の意見にツッコミを入れたりと、韓国社会・韓国人への最低限のリスペクトを持った上での論評になっているのがよい。(日本の韓国論に対して、こんな当然のことを特筆して褒めなければいけないのは悲しむべきことだが)
読了日:03月12日 著者:伊東 順子
中国と東部ユーラシアの歴史 (放送大学教材)の感想
通常は隋唐時代の国際関係について用いられる「東部ユーラシア」概念を全時代的に押し出しているが、実際の所は魏晋南北朝までは「多元的」「多元化」、近現代は「中華民族」をキーワードとしている。「中国と東部ユーラシア」というよりは「中国と中華民族の歴史」といった方が中身としては近いような気もする。
読了日:03月15日 著者:佐川 英治,杉山 清彦
子どもたちに語る 日中二千年史 (ちくまプリマー新書 346)の感想
ヴォーゲルのものとは対称的に前近代の日中関係の比重が大きい。寧波に関するものなど、著者が関わった研究が生かされた内容。近現代の部分についても、「暴支膺懲」という言葉がそもそも漢語から成る点など、日本人が現実の中国を忌み嫌いながらも古い中国には憧れを持ち、かつそのことを充分に自覚していないという矛盾をうまく突いている。
読了日:03月18日 著者:小島 毅
百年戦争-中世ヨーロッパ最後の戦い (中公新書 2582)の感想
イングランド王とフランス王との戦争として始まった百年戦争が、イングランド人とフランス人との戦争として終わるまでの過程を描く。「百年戦争」のネーミングをめぐる問題、英側による交渉ガードとしての性質が濃厚であったという仏王位継承問題、英仏の直接対決は意外に多くなく、「代理戦争」として展開されることが多かったという戦争の経過、ジャンヌ・ダルクの言動から見て取れる愛国主義といった話題を面白く読んだ。
読了日:03月21日 著者:佐藤 猛
草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書)の感想
鮮卑からモンゴルまで、遊牧王朝の興亡を軸に「東方ユーラシア史」を描き出す。農耕・遊牧境界地帯、拓跋国家、沙陀系王朝、澶淵体制といった重要項目や近年の研究の成果を簡潔明快にまとめている。日本への密教の伝来や大元治下での朱子学の交流と高麗・日本への伝播など、文化面に目配りが効いているのも良い。欲を言えば、専著・類書があるとはいえ、秦漢時代の匈奴にも一章程度を割いて欲しかった気もするが。
読了日:03月23日 著者:古松 崇志
歴史総合パートナーズ 4 感染症と私たちの歴史・これからの感想
「細菌による世界の統一」、「コレラの伝播こそが日本の開国」といった印象的なフレーズを使用しつつ古今東西の感染症の歴史を簡潔にまとめる。地名を冠した病名が差別的な感覚と表裏一体という指摘は、今まさにCOVID-19で問題になっていることである。インドや中国は人口規模が多いので、感染症による死者が多くても必ずしも人口動態に影響を及ぼさず、こうした問題が大きな研究課題になっているという点が気になるところだが…
読了日:03月24日 著者:飯島 渉
月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)の感想
前作よりは短い作品が多い印象。中国で隆盛のタイムスリップ物のパロディ「晋陽の雪」、時系列が実際の歴史とは逆方向に進んでいくという趣向の「金色昔日」の二篇を特に面白く読んだ。「晋陽の雪」は、王朝の滅亡を眼前にしてネットでのやりとりに没頭する人々が描かれているが、これは新型コロナウイルス禍を前にネットに没頭している我々の姿を連想させる。「金色昔日」の方も、ネットが廃れ、かつてグローバルにやりとりしていた頃のことが懐かしく回想されるのが印象的。
読了日:03月29日 著者:劉 慈欣