自然を尋ねる人

自然の素晴らしさ、豊かさ、人と自然の係わり合いを求めて!自然から私たちにくれる贈り物を見つけるために今日も歩く。

民話 マンガとカッパ

2010-02-01 20:12:54 | Weblog
むかし、広島県深安郡の北部に山野と言う集落があった
この集落へ行くには岡山県の井原市から行く道もある



この集落に松石定衛門さんが住んでいた
猿もキーと鳴き叫ぶ山の中の一軒家
草木も眠る静けさが包む丑三つ刻
「お頼み申しあげやんす。助けてくれんきゃーのー」
家の木戸をたたく音に主人の定衛門は驚いてはね起きた
ちょうどその晩は女房がホボロを売って実家へ帰っていたので



一人じゃった
きょうてい(怖い)気持ちが先に立ったのじゃが仕方がなく
「だれじゃー」と戸口にたち、表を見ると異様な人のような濡れた影が見えた
「わしゃーこの先の淵に住どる河童ですらー。
こにゃーだの大雨で淵んなきゃーマンガ(馬鍬)が流れ込んできたんじゃ
へーでまいっとるんじゃ。わしの身がマンガにあたる肉がくさるんじゃ
なんとしてもマンガを陸へ引っ張りあげてもらえんきゃーのー」
切実に訴えられた定衛門さんは
「わしゃーは夢をみとるんじゃろうか」と思うたが
「わかった。あしたん朝淵へ行くけへーもういね~(帰れ)」と約束をした
河童は



目を白黒させながら淵へいんだ
次の日の朝
定衛門さんは昨日の晩のことがたいそう気になり
「約束したんじゃけー、行ってみるきゃー」
淵に着くと赤く錆びたマンガが川底に沈んでおった
「これきゃー、昨日の河童が言うとったんはー」
と言いながら淵からマンガを引き上げた


推定の今の馬鍬淵

馬鍬(馬鍬=まくわが何時かなまってマンガと呼ばれるようになった)


へーで、その晩のことじゃ
また、木戸をどんどんたたく音がした
へえじゃが定衛門さんはまた河童に何か言われるのはおもろうにゃーけー
戸を開けんかった
小さな声がして
「今日はおせわになりゃんした。お礼言うても何が好きなんかわからんけー
アユをここへ置いときぁんすけー、食うてくれまへんか」
縁側でなんかの音がしたが朝まで外へでんかった
へえでも日が昇る頃に戸をあけてみるとぎょうさんのアユが置いてあった
「河童が恩返ししてくれたんじぁ」
と喜んでアユは集落の皆に分けてやった
へーから
女房に逃げられて一人で住むとこぎゃーにきょうていめをするなら
女房に頭を下げて家へ戻ってもらわんといけん
早速、女房の実家へ迎えに行ったというお話です。

馬鍬は大正の中ごろから昭和の20年代に牛や馬に引っ張らせて
田圃を鋤でひいた後、土を細かくする道具である
大正の話が民話になっていると思うと河童の伝説は最近まで
気にしている人が多いのだなーと感じたのであります