永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(241)

2008年12月04日 | Weblog
12/4  241回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(19)

 年の暮になって、玉鬘のお部屋のご設備の事や、女房たちの衣装のことなどを、紫の上や花散里のような身分の高い方々と同じように、源氏はお扱いになります。 紫の上は、御匣殿(みくしげどの)で、仕立てたものと、こちらでお作らせになったものも、細長、小袿など皆そこにおとり出しになります。紫の上は、染色の方面もことにお上手で、世にも珍しい色合いや、ぼかしをお染になります。

 源氏は歳をとった上臈女房たちに、これはあちらへ、これはあの方へと御衣櫃(みぞびつ)にお分けになります。

紫の上が、
「いずれも、劣りまさるけぢめも見えぬものどもなめるを、着給はむ人の御容貌に、思ひよそへつつ奉れ給へかし。着たるもののさまに似ぬへ、ひがひがしくもありかし」
――どれも良い悪いの差別のないお品のようですので、お召しになる方の御容貌(お顔、かたち)に合わせてお上げになってくださいませ。お召物がその方に似合わないのは、見苦しいものですから――

 と申し上げますと、源氏は「何気ないふりをして、人々の容貌を推量しようとの魂胆らしいね」などとお笑いになって、ご衣裳をそれぞれにお選びになりましたものは、

紫の上に、
「紅梅のいと紋浮きたる葡萄染の御小袿、今様色のいとすぐれたるとは、かの御料」
――紅梅の浮紋を特に施した葡萄染(えびぞめ=表蘇芳、裏縹(はなだ))の打掛けと、今風の立派な衣――

明石の姫君に、
「桜の細長に、艶やかなる掻練とり添へて」
――桜(表白、裏濃赤)の細長に艶の濃い掻練(かいねり)をとり添えて――

花散里には、
「浅縹の海賦の織物、織ざまなまめきたれど、のほひやかならぬに、いと濃き掻練具して」
――浅色の縹(はなだ)の波に海藻魚介を配した模様の、織方は優美ですが、色は目立たない上着に、濃い赤色の掻練を添えて――

◆御匣殿(みくしげどの)=宮中の貞観殿の中にあって、内蔵寮でつくる以外の装束を裁縫・調達したところ。また貴人の家で装束を調達する所。この場面では六条院内。

◆艶やかなる掻練=練って膠質(にかわしつ)を落とし、柔らかにした絹。冬から春にかけて用いる。

ではまた。