12/9 246回
【初音(はつね)】の巻】 その(2)
源氏は先ず、幼い明石の姫君のところへお出でになりますと、丁度今日は元日でしかも「子の日」で、女童や下仕えの女などがお庭で小松を引いて遊んでいます。じっとしていられないほどの楽しさにみえます。
「北のおとどより、わざとがましくし集めたる髭籠ども、破子など奉れ給へり。えならぬ五葉の枝に、うつる鶯も、思ふ心あらむかし。」
――北の御殿の明石の御方(明石の姫君の生母)から、わざわざ苦心して集められた髭籠(ひげこ)や破子(わりご)などが贈られてきておりました。何ともいえぬ良い形の五葉の松の枝に、作り物の鶯にも、思う心のおありの様子です――
お文には、
「年月をまつにひかれて経る人にけふうぐいすの初音きかせよ」
――長い年月ご成長を待ち焦がれている母に、初のお便りをください――
おとずれもない里から……とお歌に添えられていますのを、源氏はご覧になって、今さらながら、長い年月、母子を対面させずに置いたことも罪作りのようで、明石の御方を気の毒にお思いになり、
「この御返り、自ら聞こえ給へ。初音惜しみ給ふべき方にもあらずかし」
――お返事はご自分でお書きなさい。書き惜しみなさるのはいけませんよ――
と、硯をご用意されます。
姫君のお歌
「ひきわかれ年は経れども鶯のすだちし松の根をわすれめや」
――長い間お別れしていましても、生みのお母様をお忘れいたしましょうか――
お返事は、稚ないお心にまかせて、何やかやくだくだとお書きのようです。
◆髭籠(ひげこ)=細く削った竹で編んだ籠。編み残しの端が髭のように見えるゆえ。
◆破子(わりご)=ヒノキの木で中に仕切りのある食器。
ではまた。
【初音(はつね)】の巻】 その(2)
源氏は先ず、幼い明石の姫君のところへお出でになりますと、丁度今日は元日でしかも「子の日」で、女童や下仕えの女などがお庭で小松を引いて遊んでいます。じっとしていられないほどの楽しさにみえます。
「北のおとどより、わざとがましくし集めたる髭籠ども、破子など奉れ給へり。えならぬ五葉の枝に、うつる鶯も、思ふ心あらむかし。」
――北の御殿の明石の御方(明石の姫君の生母)から、わざわざ苦心して集められた髭籠(ひげこ)や破子(わりご)などが贈られてきておりました。何ともいえぬ良い形の五葉の松の枝に、作り物の鶯にも、思う心のおありの様子です――
お文には、
「年月をまつにひかれて経る人にけふうぐいすの初音きかせよ」
――長い年月ご成長を待ち焦がれている母に、初のお便りをください――
おとずれもない里から……とお歌に添えられていますのを、源氏はご覧になって、今さらながら、長い年月、母子を対面させずに置いたことも罪作りのようで、明石の御方を気の毒にお思いになり、
「この御返り、自ら聞こえ給へ。初音惜しみ給ふべき方にもあらずかし」
――お返事はご自分でお書きなさい。書き惜しみなさるのはいけませんよ――
と、硯をご用意されます。
姫君のお歌
「ひきわかれ年は経れども鶯のすだちし松の根をわすれめや」
――長い間お別れしていましても、生みのお母様をお忘れいたしましょうか――
お返事は、稚ないお心にまかせて、何やかやくだくだとお書きのようです。
◆髭籠(ひげこ)=細く削った竹で編んだ籠。編み残しの端が髭のように見えるゆえ。
◆破子(わりご)=ヒノキの木で中に仕切りのある食器。
ではまた。