永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(262)

2008年12月25日 | Weblog
12/25   262回

【胡蝶(こてふ)】の巻】  その(10)

玉鬘のこのご様子は、素直でもっともなことと、源氏はうなづかれて、それならば、と、

「さらば、世の譬の、後の親をそれと思ひて、疎かならぬ志の程も、見あらはしはて給ひてんや。」
――それでは、世間に言う後の親と思って、私の並々ならぬ心を認めてくださいませんか――

 心の内にこの姫君を愛おしくお思いになっておいでのことは、打ち明けかねていらっしゃるけれども、玉鬘は気づかぬご様子で振舞われていられるので、溜息がちにお帰りになるのでした。
玉鬘は、何時になったら、父君にお会いできるのかしらと、気が気ではないものの、源氏のご親切なお心づかいに、気兼ねもあって、この世の中は思い通りにはならないものとお思いになります。

 源氏は、玉鬘をいよいよ可愛いとお思いになって、こらえきれず、紫の上にもお話しになります。

「あやしうなつかしき人の有様にもあるかな。かのいにしへのは、あまりはるけ所なくぞありし。この君は、ものの有様も見知りぬべく、気近き心ざま添ひて、うしろめたからずこそ見ゆれ」
――妙に心を惹きつけるあの人の様子だなあ。あの死んだ夕顔はあまり明朗なところのない人だった。玉鬘は物分かりも良いだろうと見えるし、親しみやすい気性も持ち合わせていて、とても信頼できる人だ――

 と、たいそうお褒めになります。紫の上は、源氏が玉鬘に無関心では居られないことを見抜いていらっしゃいますので、さては、とお思いになって、

「ものの心えつべくはものし給ふめるを、うらなくしもうちとけ、頼み聞こえ給ふらむこそ心苦しけれ」
――ものの分かった人のようですが、あなたを心から打ち解けて、信頼しておられるとは、お気の毒ですこと――

源氏は、
「など、たのもしげなくやはあるべき」
――どうして私が信頼するに足りないことがあるでしょうか――

◆はるけ所・晴るけ所=思いの晴れるところ。気晴らしできる。
◆うらなく=心のうちを隠さない。ざっくばらん。

ではまた。