12/22 259回
【胡蝶(こてふ)】の巻】 その(7)
源氏は右近をお呼びになって、「こうして手紙を寄こす人には、よく選んでから返事を書かせなさい。一体に浮気な当世男が不都合なことをしでかすのも、男の罪とばかりではないものだ。」
「私の経験では、女が返事をしないときには、ああ無情な、何という恨めしい仕打ちかと思ったこともありました。女がじらすように返事をしないと、かえって男は熱中してくるものです。一方返事がなくて男が忘れてしまうのは少しも女の罪ではありませんよ」
さらに、
「物の便りばかりのなほざりごとに、口とう心得たるも、さらでありぬべかりける、後の難とありぬべきわざなり。」
――何かのついでのような男の言葉に、すぐ返事をするのは不必要な、また必ず後の
煩いとなることなのです。――
「すべて女のものづつみせず、心のままに、もののあはれも知り顔つくり、をかしき事をも見知らむなむ、そのつもりあぢきなかるべきを」
――たいてい、女が遠慮なく気ままに、ひとかどの通人ぶった顔をして、風情を見逃さぬというのは良い結果をもたらさないものだが――
と、源氏はつづけて右近に「兵部卿の宮や、髭黒の大将には、そのお心の程度によって、判断し、その熱心さも察した上でお返事のことなども、姫君に教えてあげてください」と、仰せられますのを、傍で玉鬘は、恥ずかしそうにお聞きになっていらっしゃる横顔が、まことにお美しい。
なでしこ(表紅梅、裏青)の細長に、この頃の花の色の御小袿を着た玉鬘は、この六条院に来てからいっそう、洗練されて上品にしかもしとやかなご様子は、華やかでお美しく、源氏は、
「他人と見なさむは、いとくちをしかべう思さる。右近もうち笑みつつ見奉りて、親と聞こえむには、似げなう若くおはしますめり、さし並び給へらむはしも、あはひめでたしかし、と思ひ居たり。」
――この美しい人を、他人の妻にしてしまうのは、どんなに残念であろうと源氏はお思いになるようです。右近もお二人をほほえましくお見上げして、殿は親と申し上げるには、ふさわしくない若さでいらっしゃる。夫婦としてお並びになった方がお似合いなのに、と思っています。――
ではまた。
【胡蝶(こてふ)】の巻】 その(7)
源氏は右近をお呼びになって、「こうして手紙を寄こす人には、よく選んでから返事を書かせなさい。一体に浮気な当世男が不都合なことをしでかすのも、男の罪とばかりではないものだ。」
「私の経験では、女が返事をしないときには、ああ無情な、何という恨めしい仕打ちかと思ったこともありました。女がじらすように返事をしないと、かえって男は熱中してくるものです。一方返事がなくて男が忘れてしまうのは少しも女の罪ではありませんよ」
さらに、
「物の便りばかりのなほざりごとに、口とう心得たるも、さらでありぬべかりける、後の難とありぬべきわざなり。」
――何かのついでのような男の言葉に、すぐ返事をするのは不必要な、また必ず後の
煩いとなることなのです。――
「すべて女のものづつみせず、心のままに、もののあはれも知り顔つくり、をかしき事をも見知らむなむ、そのつもりあぢきなかるべきを」
――たいてい、女が遠慮なく気ままに、ひとかどの通人ぶった顔をして、風情を見逃さぬというのは良い結果をもたらさないものだが――
と、源氏はつづけて右近に「兵部卿の宮や、髭黒の大将には、そのお心の程度によって、判断し、その熱心さも察した上でお返事のことなども、姫君に教えてあげてください」と、仰せられますのを、傍で玉鬘は、恥ずかしそうにお聞きになっていらっしゃる横顔が、まことにお美しい。
なでしこ(表紅梅、裏青)の細長に、この頃の花の色の御小袿を着た玉鬘は、この六条院に来てからいっそう、洗練されて上品にしかもしとやかなご様子は、華やかでお美しく、源氏は、
「他人と見なさむは、いとくちをしかべう思さる。右近もうち笑みつつ見奉りて、親と聞こえむには、似げなう若くおはしますめり、さし並び給へらむはしも、あはひめでたしかし、と思ひ居たり。」
――この美しい人を、他人の妻にしてしまうのは、どんなに残念であろうと源氏はお思いになるようです。右近もお二人をほほえましくお見上げして、殿は親と申し上げるには、ふさわしくない若さでいらっしゃる。夫婦としてお並びになった方がお似合いなのに、と思っています。――
ではまた。