永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(951)

2011年06月03日 | Weblog
2011. 6/3      951

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(12)

 薫はまたも後悔のうちに思います。

「昔の人に心をしめてしのち、おほかたの世をも思ひ離れてすみ果てたりし方の心も濁りそめしかば、ただかの御ことをのみ、とざまかうざまには思ひながら、さすがに人の心ゆるされであらむことは、はじめより思ひし本意なかるべし、とはばかりつつ、ただいかにしてすこしもあはれと思はれて、うちとけ給へらむけしきをも見む、と、行く先のあらましごとのみ思ひ続けしに」
――亡き大君に心を打ちこんでからというもの、世俗のことなど思い捨てていた心も濁りはじめて、ただあの方のことばかりをあれやこれやと考えながら、それでも大君が承知されないようなことは、自分のはじめからの方針(お許しのないのに、無理に近づくことなど)に背くことなので御遠慮しては、ただただ何とかして大君から愛しいと思われたい、打ち解けておられるご様子も見たいと、将来のことまでも夢見ていたのに――

「人はおなじ心にもあらずもてなして、さすがにひとかたにしもえさし放つまじく思ひ給へるなぐさめに、おなじ身ぞと言ひなして、本意ならぬ方におもむけ給ひしが、妬くうらめしかりしかば、先づその心おきてをたがへむ、とて、いそぎせしわざぞかし、など、あながちに女々しくものぐるほしく、率てありきたばかりきこえし程思ひ出づるも、いとけしからざりける心かな、とかへすがへすぞくやしき」
――(大君は)いつになっても私の思いを分かってくださることもなく、そうかといって情なくはねつけるという風でもないのを頼みにしていたのだった。「(妹を)私と一心同体」とおっしゃって、こちらが望まない方(中の君)に向くようにお指図なさったことが、癪で恨めしかったので、大君のその願いを無にしてしまおうと、急いで匂宮に中の君をお逢わせしてしまったのだった。それにしても何とまあ、あの当時の、匂宮を宇治にご案内して中の君にお逢い申させたいといろいろ画策したことを思い出すにつけても、まったく馬鹿げたことをしたものだ、返す返すも口惜しい――

 思いは続くのでした。

「宮も、さりともその程のありさま思ひ出で給はば、わが聞かむところをもすこしははばかり給はじや、と思ふに、いでや今は、その折のことなど、かけてものたまひ出でざめりかし、なほあだなる方に進み、移りやすなる人は、女のためのみにもあらず、たのもしげなく、軽々しきこともありぬべきなめりかし、など、にくく思ひきこえ給ふ」
――匂宮も、あの当時のことを思い出されるならば、(六の君との結婚のことが)私の耳に入るであろうと、少しは私の手前、ご遠慮申されてもよさそうなものを。いやもう今では、あの当時のことなどすっかり忘れ、さらさらお口にもされないであろう、やはり浮気っぽい方へ移り気な男は、女に対してだけでなく、誰に対しても信頼できそうな点がなく、軽々しいところがおありになるらしい、などといっそう腹立たしくお思いになるのでした――

では6/5に。