永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(961)

2011年06月23日 | Weblog
2011. 6/23      961

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(22)

「宮は、なかなか今なむ、とも見えじ、心ぐるし、とおぼして、内裏におはしけるを、御文きこえ給へりける、御返りやいかがありけむ、なほいとあはれにおぼされければ、しのびて渡り給へりけるなりけり」
――匂宮は(六の君のところへ出かけるのが)今夜であるとは思わせまい。気の毒だ、御所からその足であちらへと思って参内なさったのですが、御文を中の君にお遣わしになったそのご返事に、何と書かれていたのでしょうか、やはり大そう可愛らしく思われたので、そっと二條院にお帰りになったのでした――

「らうたげなるありさまを見棄てて、出づべき心地もせず、いとほしければ、よろづに契り、なぐさめて、もろともに月をながめておはする程なりけり」
――中の君の可憐なご様子を見棄てて六の君のところへ行く気持ちにもなれず、あまりのいじらしさに、なにくれとなく、お約束されたり、なぐさめられたりして、ご一緒に月を見ておいでになるところに(夕霧からご催促のお手紙が)届けられたのでした。――

「女君は日頃もよろづに思ふこと多けれど、いかでけしき出ださじと、よろづに念じかへしつつ、つれなくさまし給ふことなければ、ことに聞きもとどめぬさまに、おほどかにもてなしておはするけしき、いとあはれなり」
――中の君は、このところ思い歎くことが多かったのですが、決して態度には出すまいと、万事お心に決めて、さりげなく心を落ち着けておられることなので、夕霧のお使いに対しても格別お心にとめぬ風にして、おっとりとお振舞いになっておいでなのが、ひとしおあわれ深い――

 「中将の参り給へるを聞き給ひて、さすがにかれもいとほしければ、出で給はむとて、『今いと疾く参りこむ。一人月な見給ひそ。心空なればいと苦し』ときこえおき給ひて、なほかたらいたければ、隠れの方より寝殿へ渡り給ふ」
――(お使いの)夕霧の子息の頭中将がお見えになったとお聞きになった匂宮は、そうは言っても六の君のこともお気の毒になって、やはりあちらへ参ろうと、中の君に「じきに帰って来ますよ。ひとりで月をご覧になっていてはいけません。あなたを残してゆく私の心も上の空でたいそう辛いのです」と仰せ残されて、それでもやはりきまりが悪いので、人目につかぬ物陰の方からそっと寝殿にお渡りになります――

 中の君は、

「御うしろでを見送るに、ともかくもおもはねど、ただ枕の浮きぬべき心地のすれば、心憂きものは人の心なりけり、とわれながら思ひ知らる」
――匂宮の後ろ姿をお見送りしますに、どうということもお思いになりませんが、ただむやみに涙がこぼれて、枕がいまにも浮きそうな感じがして、情けないのは私の嫉妬心だと、つくづくとご自分の心をお知りになるのでした――

◆一人月な見給ひそ=一人でお月さまをご覧になってはいけませんよ。早く老いる。不吉。
   古歌「大方は月をもめでじこれぞこの積れば人の老いとなるもの」

◆御うしろで=御後姿

では6/25に。