永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(959)

2011年06月19日 | Weblog
2011. 6/19      959

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(20)

 そろそろ日が差し昇ってきて、侍女たちも上がってきましたので、あまりの長居は中の君との間に何か深いわけでもありそうに思われても煩わしいので、お出ましになろうとなさって、

「何処にても御簾の外にはならひ侍らねば、はしたなき心地し侍りてなむ。今またかやうにもさぶらはむ」
――どこに伺いましても、御簾の外のお扱いはうけたことがございませんのに、きまりの悪いことでございます。でもまた懲りずに参上いたしましょう――

 と、ちょっと恨み言をにおわせて立ち上がられます。

「宮の、などかなき折には来つらむ、と、思ひ給ひぬべき心地なるも、わづらはしくて、侍の別当なる、右京の大夫召して『昨夜まかでさせ給ひぬ、と承りて参りつるを、まだしかりければくちをしきを、内裏にや参るべき』とのたまえば、『今日は罷でさせ給ひなむ』と申せば、『さらば夕つ方も』とて出で給ひぬ。
――(薫は)匂宮が、なぜ私の留守中に来たのだろうと、怪訝に思われそうなご性質であって、それも煩わしいことですので、二条院の侍所(さむらいどころ)の長官を呼んで、「匂宮は昨夜内裏から退出なさったと承って参上したのだが、まだお帰りではなく残念なことだ。ならばこれから宮中に参ってみようか」といいますと、長官は、「きっと本日は御帰邸なされましょう」と申し上げます。薫が「それならば又夕方にでも伺いましょう」とおっしゃってお帰りになるのでした――

「なほこの御けはひありさまを聞き給ふたびごとに、などて昔の人の御心掟をもて違へて、思ひぐまなかりけむ、と、悔ゆる心のみまさりて、心にかかりたるもむつかしく、なぞや人やりならぬ心ならむ、と思ひかへし給ふ」
――(薫は)やはり、この中の君のご様子や気配をお感じになるにつけ、何で亡き大君のご意向に背いて、思慮もなく人に譲ってしまったのだろう、との後悔ばかりが日に日にまさって堪え難く、なぜ自分から求めたことでこのように悩むのかと、反省ばかりがしきりでいらっしゃる――

「そのままにまだ精進にて、いとどただ行ひをのみし給ひつつ、あかしくらし給ふ。母宮のなほいとも若くおどろきて、しどけなき御心にも、かかる御けしきを、いとあやふくゆゆし、とおぼして」
――(薫は)大君の亡きあと、ずっと引き続きご精進なさっていて、ますます勤行ばかりなさりながら、日を送っていらっしゃいます。母宮(女三宮)は、まだ若くおっとりとしたお心のうちにも、薫のこうした仏道にばかり志すご様子を、たいそう危うく不吉なこととお思いになって――

では6/21に。