永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(960)

2011年06月21日 | Weblog
2011. 6/21      960

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(21)

 母宮は、

「幾世しもあらじを、見奉らむほどは、なほかひあるさまにて見え給へ。世の中を思ひ棄て給はむをも、かかるかたちにては、妨げきこゆべきにもあらぬを、この世の、いふかひなき心地すべき心まどひに、いとど罪や得む、とおぼゆる」
――私の命もあといくらもありますまいに、ご一緒に暮らす間は、やはり甲斐あるさまに立派なお暮しぶりを見せてください。あなたが世の中を思い棄てられることに対しても、(私自身、尼姿でありながら)あなたのご出家をおとめするわけにもいきませんが、もし、そのようなことになりましたなら、この世では生きる張り合いも、甲斐もなくなります。それがますますわたしを罪深い者にすることでしょう――

 とおっしゃいますのを、薫は勿体なくも痛々しくて、母宮の前では、一切の物思いを断ち切った風を装っておいでになるのでした。

 さて、

「右の大殿には、六条の院の東の大殿磨きしつらひて、限りなくよろづを調へて待ちきこえ給ふに、十六日月やうやうさしあがるまで心もとなければ、いとしも御心にいらぬ事にて、いかならむ、と安からず思ほして、案内し給へば、『この夕つ方内裏より出で給ひて、二条の院になむおはしますなる』と人申す」
――右大臣(左大臣?)の夕霧家では、匂宮のお出でをお待ち申し上げますについて、六条院の東の御殿を立派に磨き込んで、調度品もあらゆるもの全てを調えておりますのに、御本人がなかなかお見えにならず待ち遠しく思っております。十六夜(いざよい)の月がそろそろ空にさし昇るころになってもいっこうに音沙汰がありません。はじめから匂宮は、六の君との御結婚に気乗りのしていらっしゃらないことですので、どうしたものか、と、夕霧は不安にお思いになって、使いをおやりになりますと、「この夕がた、御所からお退りになって二条院にいらっしゃるそうでございます」と報告がありました――

 夕霧は、

「思す人持給へれば、と、心やましけれど、今宵過ぎむも人わらへなるべければ、御子の頭中将してきこえ給へり。『大ぞらの月だにやどるわが宿に待つ宵すぎて見えぬ君かな』」
――やはり、中の君という愛人を持っておられるからだ、と、癪にさわるけれど、吉日として選んだ今夜が無駄骨になっては世間の笑いぐさになることだろうと、息子の頭中将をお使いに立てて、申し上げさせます。(歌)「大空の月さえ差し入る私の邸に、あなたさまは待つ宵を過ぎてもいらっしゃらないおつもりですか」――

では6/23に。