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【紅葉賀】の巻 (3)
2月10日ほどに、男御子(おとこみこ)がお生まれになりました。藤壺は源氏の事で辛い心の内にも、
「弘徴殿などの、うけはしげに宣ふとききしを、空しく聞きなし給はましかば人笑はれにや、と思し強りてなむ……」
――弘徴殿女御が、このお産について呪うような口吻を洩らされているときいたので、死んだと聞いたなら、さぞ物笑いになろうと、意地にも(なさって、だんだん快方に向われました)――
源氏は人の居ない時を選んで、藤壺に子を見せて欲しいといいますが、藤壺は「むつかしげなる程なれば」――生まれたばかりで見苦しいゆえ――
(作者の筆)「と断られたのはもっとものことです。」
作者の筆は続きます。「実はまったくあきれるほど、めづらしいくらい、源氏に生き写しで、どう紛らわせようがない。藤壺はあのような過失を思うにつけ良心の呵責にさいなまれます。それにもまして、ちょっとした落度を喜ぶ世間です、どんな悪評がついてまわることでしょう」と、藤壺の心中を代弁します。
源氏はその後も何とか、王命婦に手引きを頼みますが、叶いません。
命婦「見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらむこの世の人の惑ふてふ闇」
――御子をご覧になる宮(藤壺)も物思いされるし、ご覧にならぬお方もどんなになげかれるでしょう。これこそ世の人の惑うという、子ゆえの闇なのでしょう――
「子ゆえの闇」=これからの展開に重要なことばです。
4月になって、藤壺は内裏に戻られました。若宮はしっかりとしてきて、源氏に瓜二つのお顔でいらっしゃるのも、帝は、桐壺の更衣に似た藤壺腹で、境遇の同じさゆえ、お顔も似られるのだと、二人のことは夢にもお気づきになりません。
藤壺は「理なくかたはらいたきに、汗も流れておはしける」
――どうにもならず、心苦しくて、汗も流れていらっしゃる――
源氏は「なかなかなる心地の、かきみだるやうなれば、罷で給ひぬ」
――若宮をご覧になって、かえって気が咎めて、心も乱れるようなので、退出なさいました――
自邸にての源氏は「つくづくと臥したるにも、やる方なき心地すれば、例の、なぐさめには西の対にぞ、渡り給ふ」
――もんもんとして臥せっていても、どうにもならないので、こんな折りとて、紫の上のおられる対の屋に渡られます――
ではまた。
【紅葉賀】の巻 (3)
2月10日ほどに、男御子(おとこみこ)がお生まれになりました。藤壺は源氏の事で辛い心の内にも、
「弘徴殿などの、うけはしげに宣ふとききしを、空しく聞きなし給はましかば人笑はれにや、と思し強りてなむ……」
――弘徴殿女御が、このお産について呪うような口吻を洩らされているときいたので、死んだと聞いたなら、さぞ物笑いになろうと、意地にも(なさって、だんだん快方に向われました)――
源氏は人の居ない時を選んで、藤壺に子を見せて欲しいといいますが、藤壺は「むつかしげなる程なれば」――生まれたばかりで見苦しいゆえ――
(作者の筆)「と断られたのはもっとものことです。」
作者の筆は続きます。「実はまったくあきれるほど、めづらしいくらい、源氏に生き写しで、どう紛らわせようがない。藤壺はあのような過失を思うにつけ良心の呵責にさいなまれます。それにもまして、ちょっとした落度を喜ぶ世間です、どんな悪評がついてまわることでしょう」と、藤壺の心中を代弁します。
源氏はその後も何とか、王命婦に手引きを頼みますが、叶いません。
命婦「見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらむこの世の人の惑ふてふ闇」
――御子をご覧になる宮(藤壺)も物思いされるし、ご覧にならぬお方もどんなになげかれるでしょう。これこそ世の人の惑うという、子ゆえの闇なのでしょう――
「子ゆえの闇」=これからの展開に重要なことばです。
4月になって、藤壺は内裏に戻られました。若宮はしっかりとしてきて、源氏に瓜二つのお顔でいらっしゃるのも、帝は、桐壺の更衣に似た藤壺腹で、境遇の同じさゆえ、お顔も似られるのだと、二人のことは夢にもお気づきになりません。
藤壺は「理なくかたはらいたきに、汗も流れておはしける」
――どうにもならず、心苦しくて、汗も流れていらっしゃる――
源氏は「なかなかなる心地の、かきみだるやうなれば、罷で給ひぬ」
――若宮をご覧になって、かえって気が咎めて、心も乱れるようなので、退出なさいました――
自邸にての源氏は「つくづくと臥したるにも、やる方なき心地すれば、例の、なぐさめには西の対にぞ、渡り給ふ」
――もんもんとして臥せっていても、どうにもならないので、こんな折りとて、紫の上のおられる対の屋に渡られます――
ではまた。