新・本と映像の森 318 萩尾望都『銀の三角』白泉社文庫、1994年
文庫版、310ページ、定価本体619円2013。初出、早川書房『SFマガジン 80年12月号~82年6月号』連載。
非情に複雑ないりくんだ構造の宇宙SFコミック。主人公は中央都市系(セントラル)に属する青年マーリー。
彼は聞いた歌の歌い手エロキュスを探して辺境の星へやってくる。そこで都市暴動に遭遇し、エロキュスの死に直面する。
マーリーは政府の情報機関員であり、実は過去と未来へ行き来できる時間人だった。エロキュスの歌を探してさまようマーリーは赤砂土(せきさじ)で長い髪の少女ラグトーリンに会う。
そこでマーリーはラグトーリンに殺され、再生されたクローン「マーリー2」さらに「マーリー3」が出現する。
語り手はマーリーだが、明らかに主人公はラグトーリンだと思う。彼女は何のために、何をしようとしているのか?
物語の背景は、3万年前に超新星なった「帆座X」。(これはフィクションではなく天文学的事実です)。超新星爆発で滅んだ、超能力を持つ「銀の三角人」。それは事態の解決に導けるのか。
黑髪の少女ラグトーリンは光瀬龍原作、萩尾望都絵『百億の昼と千億の夜』の少女阿修羅に雰囲気が似ている。阿修羅も破滅を救うためにあらゆる行動をする。破滅に抗う2人にボクは共感する。
2人の違いは、阿修羅が後ろ盾があるのに、ラグトーリンは何の後ろ盾もない孤独な存在だってこと、たぶん。
以上のことは宮沢賢治さん作『銀河鉄道の夜』の「第1次稿・第2次稿・第3次稿」までと最終「第4次稿」の違いに同じです。(参考文献:鎌田東二『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』<岩波現代文庫>、岩波書店、2001年12月14日、338ページ、定価本体1000円)。