おはようございます
今日は結婚式の細かい準備、二次会のこと、ハネムーンのことなどをやります。まぁ、夜は今度職場を離れる後輩の送別会を行うらしく、呼んでもらったので参加してきます。
さて、先程
「息子がRCMDで移植をすることになりましたが、ドナー候補に父親(HLA-B,C,DRB1の1つずつがミスマッチ。Hapioidenticalで、GVHD方向適合HVG不適合)と、1歳2ヶ月の妹(HLAidentical sibling)でどちらで移植をするかで大変悩んでおります」
「父親をドナーとして移植をした場合(3/8拒絶があるとだけの説明は受けました)と妹をドナーとして移植をした場合とのそれぞれのリスク、成功率などを教えていただきたく投稿しました」
とコメントをいただきました。
同種骨髄移植に関してはこちらの記事を参考にしてください。
造血幹細胞移植のイメージは?:同種骨髄移植に関する説明
さて、上の記事では書いていなかった専門用語が結構並んでおります。RCMDというのは骨髄異形成症候群の一つの疾患です。症候群=疾患の集まりですよね。
HLAというのはヒト白血球抗原で、白血球の血液型です。血小板にもHLAのA、B,Cは存在しています。
同種骨髄移植を行うときに注目するのはこの白血球の型です。
白血球の型は言ってしまえば「旗指物」です。これで敵と味方を識別しています。
このHLAは両親からもらってきます。染色体というものに遺伝子は乗っかっています。ヒトの染色体は2本ずつ、両親から一本ずつもらってきます。息子さんであればお父さんから22本+Y染色体、お母さんから22本+X染色体で46本になります。ちなみにHLAは22の常染色体のうち6番目に長い「第6染色体」に乗っかっています。
で、親が完全に一致する確率は0ですが、兄弟は25%の確率で一致します。

けど、初期研修医の時に初めて検査したあの家族は・・・HLAが兄弟全員+親が一致というすごい家族だったな…・(汗
追加して言うとHLAで重視されるものは「A、B、C、DR」ですが、他にもあります。全部合わせるのは不可能ですが、兄弟間は完全一致の可能性があります。A24などは日本人の35%くらいが持っているはずなので、これをご両親が持っていて…という確率はありますが、細かいところが一致するとは思えません。
で、GVH方向とかHVG方向と言われてもわからないと思いますが、Gはグラフト・・・すなわち骨髄とか臍帯血とか、Hはホスト・・すなわち患者さんです
GVHD(Graft versus Host Disease)は移植した骨髄が患者さん側に攻撃する病気で、GVH方向に○○というのは生着後に患者さんが攻撃を受けるリスクを、HVG方向というのはその逆で生着しないリスク…すなわち拒絶される可能性を示しています。
ここで困るのはお互いがお互いを敵と認識するのもどうかと思いますが、運が悪いと・・・一方は味方と思っているのに、もう一方は敵と認識して攻撃をかけ続けることがあります。それが非常に面倒なことです。
もう一つは骨髄異形成症候群と急性白血病の移植ではちょっと趣が違う印象があります。
同種骨髄移植って
前処置
生着まで
生着後
と分かれます。前処置でできるだけ細胞(腫瘍細胞も、患者さんの良い細胞も)を減らすことが1つめです。あくまでイメージとしてですが、入れる骨髄にとっては競争相手や敵が減るわけです。競争相手である患者さん本人の細胞が多かったら負けてしまう可能性がありますし、腫瘍細胞などが多ければ先に腫瘍細胞が増えて負けるかもしれないし、無事増えることができた(生着)としても敵が多ければ戦いに負けるかもしれない。
白血病だとそういうことを本当によく考えますが、骨髄異形成症候群は血液の不良品なので敵との戦いよりは「確実に生着させること」を考えるような気がします。もともと相手は「不良品」なので血液が増える速度は遅いです。そういうイメージを持ってください。
あと、血縁間HLA不一致移植に関して…これの情報が多いのは実は一人っ子政策をしている「中国」なんです。兄弟がいないので親からの移植をせざるを得ないということですね。そういったのも含めていろいろ情報はあるのですが、自宅のPCがそういう情報を拾えるようになっていない(すいません、大学のPCでいつもやっていたので)ので、わかる範囲で情報を提供いたします。
ちなみに僕も1回だけ血縁間HLA不一致移植をしたことがありますが、あの時はGVH方向にミスマッチで結構白血病はうまく抑えることができましたが、GVHDがやはり強いですね。
まず、難しいと思いますが血縁間非HLA一致同種骨髄移植のガイドラインがあります
http://www.jshct.com/guideline/pdf/2009HLA.pdf
ここにまず「HVG方向の不適合抗原数がGVH方向の不適合抗原数よりも多い場合(すなわちレシピエントが同型(homozygous)のHLA座を有する場合:右表のB#、C、D#)は、そうでない場合に比べて有意に生着不全が多い」と書かれています。これも元論文があります。
今回のNIPA移植を行うのであれば生着不全が多いことになります。
で、HVG方向の2-3座不一致の場合です
そのまま抜粋します。
「HLAがGVH方向には適合ないし1抗原不適合であるが、HVG方向に2ないし3抗原不適合であるドナー(表のC)からの移植は、十分な前処置を行えばHLA適合ないしHLA1抗原不適合移植に準じて行うことが可能であると考えられるが、多数例を解析した報告が無いため、臨床試験として行うなど慎重に施行されるべきである。: CⅢ(注1)
根拠:
HLAがGVH方向には適合ないし1抗原不適合であるが、HVG方向に2ないし3抗原不適合であるケースが存在する(表のC)。この場合、生着不全のリスクは上昇するが、理論的にはGVHDのリスクはHLA適合ないし1抗原不適合移植と同等である。そのため、これらに対する移植と同様のGVHD予防により移植が可能であると考えられ、一部の施設では施行されている。しかしながら、これらを多数例解析した報告は無く、その位置づけについては、今後の検討の結果を見て判断されるべきと考えられる。また、毒性を軽減した前処置(reduced-intensity conditioning, RIC)を用いる移植、いわゆるミニ移植、では生着不全のリスクが高くなるため、施行には特に慎重であるべきである」
ちなみにCⅢと書いているのは「エビデンスレベルに乏しく、専門家や権威者の意見に基づくもの」ということです。
あと僕があまりNIPA移植に関しては知りませんが、NIMA移植というのはよく言われています。
NIMAというのはIMAがお母さん由来の抗原でIPAがお父さん由来ということなんですが、お母さんのおなかの中にいる間に触れたことのないお父さん抗原に対して、何らかの免疫寛容(敵じゃないのだという認識を持つ)ことを利用した骨髄移植です。
そういうアメリカでやった骨髄移植の結果でNIMA移植とNIPA移植はNIMAの方が生着率が良いということですが、今では免疫抑制剤が良くなったのでそのNIMA効果はないのではないかという話もあります。ただ、今の時点ではIMAの方が有利という話で落ち着いているのではないかと思うのですが・・・。
小児の領域での移植と成人領域での移植は僕の中ではイメージが大きく違います。ですのであまり適当には書けないのですが、今言ったようなことがPointになってくると思います。
お子さんの体重あたりで骨髄のとる量は決まってくると思いますし、そのあたりのことは成人領域の移植を行う僕たちとは考え方が少し違うと思います。Dataで示すわけではないのですが、
1、もともと小児領域ではGVHDが起きにくい印象があること
2、MDS(おそらくRCMDなので芽球の増加はないでしょうし、あくまで染色体異常がどのレベルかによりますよね。RCMDだから血球の減少は2系統以上で0.5点・・・の移植であり(成人だったらRISTで十分)生着することを念頭に置きたい
3、HVG方向3座ミスマッチだと前処置をかなり強力にしないといけない
などから、もし妹さんの負担が許容範囲内であると小児科の先生が判断されているのであればそちらの方が良いような気がします。
あと感覚的にですが・・・成人であればSibling Donorが得られなければ骨髄バンクなどをまず探します。HLA不一致移植はそれでもダメなときにやるか、兵庫医大みたいに再発を繰り返す例にやるなどですかね・・・。小児領域はよくわからないのですが・・・。
あくまで参考程度に考えていただいて、主治医の先生とよく相談して決めていただければと存じます。
不明なことがあればまたご連絡いただければと存じます。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。