1.針灸局所治療で治せない足関節周囲の痛み
症例(Y.F. 61才女性):全身の関節痛、筋肉痛で以前から当院来院している患者。元気があり、線維筋痛症や関節リウマチは否定されている。毎回、いろいろな症状を訴えるが、数回の針灸治療を行うと、間もなく改善していた。
今回はスクワットをして以来、両側足首が痛み、5分以上の歩行が困難とのこと。足関節を捻挫した覚えはないとのこと。
診察すると、内外の足関節裂間隙やアキレス腱の踵骨停止部など、半円周状に痛むとこことである。
とりあえず、足関節症とアレス腱付着部症の合併と考え、局所圧痛点に置針するも無効。置針を運動針に変更したり、太針に変更したりした。しかし30回ほど治療しても効果なかった。
2.下腿三頭筋放散痛としての足関節周囲痛
そうした状況下、栗原誠先生ブログ「鍼灸師のツボ日記;捻挫とは限らない足首の痛み(2012.7.22)」の記事を発見した。本ブログでの症例は、まさしく当患者と一致していた。
栗原先生の方法に従って下腿三頭筋を緩めるように、伏臥位で足首部に膝マクラを入れた姿勢をとらせ、寸6、2番針で腓腹筋→ヒラメ筋と刺針その状態で足首の底背屈自動運動を行わせた。あれだけ難治だった痛みが、治療2~3回で大幅に改善してしまった。
結局、本例の足首周囲痛は、下腿三頭筋の放散痛だったことになる。
3.下腿三頭筋の解剖学的特徴
上記治療で問題解決したのだが、下腿三頭筋は、腓腹筋とヒラメ筋を併せた名称である。どちらの筋の放散痛だったのだろうか。最終的にはアキレス腱となり、踵骨に停止する。膝関節90度屈曲状態で、足関節を底屈する作用はヒラメ筋により、膝関節伸展状態で、足関節を底屈する作用は腓腹筋による。
上記症例で、歩行姿勢は61才女性という点から考え、膝関節伸展位に近いだろうから、下腿三頭筋の放散痛というのは、腓腹筋の放散痛であろうと考えた。
なお運動針(直接法)は、置針した状態で該当筋の伸縮運動をさせる技法であるから、腓腹筋、ヒラメ筋それぞれに対する運動針は次に示すように異なるものになるだろう。