AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

下腿から足の筋膜症アプローチ(その2)外反母趾 ver.1.1

2024-09-28 | 下肢症状

1.外反母趾の概要
1)定義           

母趾がMP関節で小趾側に曲がり、第1中足骨と母趾基節骨の角度(HV角 Hallux  vaigus  angle)が20度を越えた状態。外反母趾は中高年の女性に多い。

 

※バニオンbunion :第1中足骨頭の内側部分の隆起。摩擦により生じた滑液包炎。発赤・腫脹・疼痛。

 

2)外反母趾の病態生理
   
深横中足靱帯(MP関節の近位部の足根骨と足根骨を結合する靱帯)のゆるみ

    ↓
足の横アーチ消失して開張足。靴幅が狭く感じる
          ↓
第2趾MP関節底部趾基部で接地し、床を蹴って前進するという習慣(接地部に鶏眼や胼胝が好発)
    ↓
歩行時に母趾屈曲力(長・短母趾屈筋収縮)を必要としなくなり、浮き趾になる。
    ↓
母趾の存在がかえって歩行の妨げになり、徐々に母趾が外反する。

 

3.外反母趾の治療
 
1)運動療法


ゴムバンドを両足の母趾にかけて離す動作に力を入れるホーマン体操が有名で、軽度から中等度の外反母趾に対して痛み軽減の効果が期待できる。
また足の趾でグーチョキパーを作って趾を開く母趾外転筋運動、タオルギャザー訓練も行われる。
日常的に鼻緒のあるサンダルを穿くと母趾と第2趾で鼻緒を挟もうとする力が働くので治療的効果がある。

2)キネシオテープによる外反母趾の矯正法

キネシオテープ矯正の直後から、外反母趾はかなり矯正されるが、変形が治るわけではない。それに加え上ゴムの収縮力が失われ、伸びきってしまうと効果もなくなるので、持続効果はせいぜい2~3時間である。皮膚に直接テープを巻くことは、接着剤が皮膚の角質層を剥がすことになるので連用にも適さない。要するにキネシオネシオテープの用途はあくまで応急処置になる。

外反母趾のキネシオテープ法はいろいろ考案されている。以下はその1例で、私が常用している方法である。

幅約2.5㎝、長さ7㎝と15㎝の2本のキネシオテープを用意する。
テーピングの始点は、母趾基節骨の内側。母趾を小趾側に外旋させながら、母趾背面へとテープを巻いてゆく。

長期連用には、矯正用インソール(クツの中敷き)の使用がよい。

 

 

3)浮き趾に対する長母趾屈筋筋力訓練

長母趾屈筋は、文字通り母趾を屈曲させる機能がある。外反母趾になると、母腹で床を後に蹴って前に進む運動がしづらくなり母趾屈筋も使わなくなって、母趾は浮き趾状態になる。
長母趾屈筋筋力を復活させるには、術者は患者の足腹側から母趾IP関節を押さえつけ、患者にこれに逆らうように母趾を強く屈曲するよう指導する。 
長母趾屈筋は起始が腓骨体下部後面、停止が母趾末節骨底。

 

4)浮き趾の針灸治療
     
外反母趾そのものに対する針灸はないので、浮き母趾を改善することで歩行時に母趾腹で床を蹴る歩行動作改善を目指す。
長母趾屈筋は、下腿部ヒラメ筋の深層で腓骨の直下にある。 座位で下腿外側ほぼ中央、腓骨下縁の陽交~懸鐘を刺針点とし、腓骨下縁をかすめるように2~3㎝直刺する。刺入後、母趾の屈伸自動運動を実施。長母趾屈筋腱に加わる牽引力を緩和させる意図がある。陽交は、長母趾屈筋の腓骨起始部で伸縮しないので、光明~懸鐘が治療穴として適切になる。
陽交(胆):外果の上7寸、腓骨前縁に外丘をとり、その後方で腓骨後縁で長腓骨筋とヒラメ筋の筋溝に本穴をとる。深部に長母趾屈筋がある。
光明(胆):外果の上5寸
陽輔(胆):外果の上4寸
懸鐘(胆):外果の上3寸

 


下腿から足の筋膜症アプローチ(その3)足底筋膜炎

2024-09-28 | 下肢症状

1.足底筋膜炎の概要 

1)解剖
①足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われている。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って足底の縦のアーチ維持に貢献している。
②足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜の付着部に牽引ストレスが作用し、また足底筋膜の微小断裂を起こす。長距離走の選手に多い。


 

2)症状
痛みの直接原因は足底を走行する脛骨神経分枝の神経痛による。
①足底部の脛骨神経分枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵骨前縁(失眠穴前方)や土踏まず部(足心穴)が、ビリビリと痛む。 

※足心穴とは何となく聞いたことのある奇穴だが、本穴がどこに位置するかを明記している資料はなかなか見つからなかった。中国の記事で<足根穴は湧泉穴の別称>との記述はあったのだが、足心と湧泉は明らかに位置が異なる。困っていたが、ついに間中喜雄訳「奇穴図譜」(医道の日本社編)に、<湧泉の後方1寸の陥凹部>と記述されているのを発見した。

※外側ばね靭帯(底側踵舟靱帯):距骨を下方から支持し縦アーチ維持に貢献。 踵骨-舟状骨を結ぶ。臨床的重要性は低い。

  
②起床直後の母趾背屈時痛
この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働いて固まるが、翌朝に固まった損傷部に体重が加わると、痂皮(カサブタ)が引き伸ばされて破れるように、微小断裂部が破れて激痛となる。

3)経過と予後
スポーツ再開までには数ヶ月の安静が必要(治癒に半年以上かかる例が10%)

3.足底筋膜炎の病態生理と針灸治療

1)治療目標

下腿三頭筋が収縮して踵を離床するタイミングは、足関節の背屈可動性に依存している。正常では、十分な足背屈ができるので、歩行時の後足は十分後方に行った時点で、踵は離床する。
この段階から足指を屈曲して床を蹴るのが生理的である。
もし下腿三頭筋が過緊張していて足の背屈可動性が不十分な場合、早い段階で踵は 離床する(したがって歩幅は狭くなる)。このような歩行を長らく続けていると、足指を屈曲させるのに強い筋力が
必要になり、足底筋膜に負担がかかる。治療は、過収縮している下腿三頭筋の緊張を緩めることになる。


 

2)治療方法

①立位で踵立ちさせた状態で、下腿三頭筋を収縮させ、圧痛(承山など)に刺針する。

乳児は、下腿三頭筋と足底筋膜は種子骨を介して連結している.。種子骨の代表は膝蓋骨であるが、運動方向を変える機能がある。つまり下腿三頭筋の長大な腱という機能で足底筋膜が存在している形になる。生後1年になると乳児も独歩行できるようになり、その頃には種子骨が踵骨と一体になり、足底筋膜と下腿三頭筋は完全に分離される。このような成長の変化から推測できるように、足底筋膜と下腿三頭筋は関連があり、下腿三頭筋が緩むと足底筋膜も緩むと考える。

 

②局所治療:刺痛を与えないようできるだけ細針を使い、足底の圧痛点に浅刺する。結構な痛みを与えるので要注意。置針した状態で、足趾の屈伸運動をすることで運動針効果をねらう。

 

③自宅療法:座位で患側下腿を健側大腿の上に乗せ、自分で下腿三頭筋を強圧、そしてねじるような力を加える。


3)足底筋膜炎のキネシオテーピングの一例