何ごともなければ、その日は芒種から夏至に展示の入れ替え作業があるはずだった。これまで作業は夕刻に行われていた。しかし展示はこの日を限りに中止されることになった。そこで最後の撤去の様子を近所の子どもたちと一緒に見届けようと考えていた。下校してきた子供たちの話では、すでに展示物は無くなっているという。現場に駆けつけると朝に見たギャラリーの様子とは一変していて、ぽつんと「ギャラリーの消える日」と題するつぎのような鈴木さんの挨拶文が掲げられていた。
「6月20日は、6月正節・芒種の最終日です。この日をもって、玉川上水オープンギャラリーの展示を最後といたします。最後の日を迎え、早朝に野草観察ゾーンを小川水衛所跡から桜橋まで歩き始めると、最初に出会ったのが、オカトラノオの花に止まっているアカシジミでした。アカシジミは年に一度、立夏に姿を見せて、その使命である子孫を残す産卵が済むと消えてゆきます。偶然ではあるのですが私を慰めてくれました。野草観察ゾーンではノカンゾウ・オカトラノオ・ネジバナが咲き、ナワシロイチゴは真っ赤な実が熟しているのです。どんな時でも、玉川上水は私の心を慰め癒してくれるのです。
玉川上水の自然は、野鳥や昆虫の生きものたちと、樹木や野草のバランスよく共生しているのが、一番良い環境を生み出します。ギャラリーの展示は、理想の姿を追い求めながら「生きもの暦」と「植物暦」を二十四節気に合わせていました。また、同時に観察会を実施してきました。それは玉川上水の自然を永遠に残したい。そんな思いが込められていました。しかし、生きてゆく中には過酷な運命に翻弄されることもあります。その対応に突然遭遇して、今日の日を迎えました。こんな苦しい時でも、玉川上水は私を見捨てません。それが玉川上水なのです。2017年6月20日」
なにごとも、いつかは終わりが来るというのは真実だった。私がこの挨拶文をカメラに収めていると、隣にいた見知らぬ男性も携帯で同じように撮影していた。玉川上水を歩く人が途中でギャラリーに立ち寄る姿を見ると私までも、なぜか誇らしい気分になったものだ。あそこに行けばいつでも季節の写真を見ることができた。その写真を見ることができなくなった。寂しい限りだ。