散歩の途中に立ち寄った図書館で、週刊誌のように大きくて、絵本のような本が書架からはみ出し、縦を横にして収められていて危うく躓きそうになった。手に取ってみると、吉本ばななの「夢について」というものだった。幻冬舎から1994年に出版されている。最近還暦を迎えた著者が30歳のときに出た本だ。躓きそうになるこの日まで、この本に出会わなかったのがちょっと不思議だった。
どの左ページにも、十分な余白を保ちつつ、テーマごとに原マスミのシュールなイラストがあり、とても気軽に読める本だ。吉本は「私は昔から、あくまで日常に密着して起こる不思議な出来事、異様なものや、変わったものの中に人間性が感じられるようなものが好きです」という。たしかに夢は不思議なできごとではある。
予知夢の秘密、探偵夢、死んだ人の夢、熱のある時の夢など24項目の夢にまつわる短い話が展開される。ある男の夢の項で、インドの瞑想指導者・和尚ラジニーシ(1931~1990)を知った。この男にはすこしも胡散臭いところがないと吉本は言う。この瞑想家について機会があればもっと詳しく知りたいと思った。夢に関心を寄せた作家といえば島尾敏雄(1917~1986)がいる。島尾には、「夢の中での日常」という奇妙な題の短編や、その他エッセイを集めた「夢の系列」という本がある。断捨離を免れて本棚に残っていた。(2023年日展作品より)
「夢は無責任なものじゃないかと言われそうな気がしますが、私は必ずしもそうは思えない。夢の中の経験の、あの、でたらめと、冷たさと、そしてその場限りの気品のようなものは、実は、目覚めている時の、秩序と、熱っぽさと、因縁ごとを、批判しているのだと、私には思われて仕方がありません。私は夢を追い出したくないのです」 そして夢といえば夏目漱石の「夢十夜」がある。これは私が漱石の凄さ(才能)を最も強く感じる作品でもある。