凄まじい暑さも和らぎ朝晩に冷気を感じるようになった。朝の洗面時には水の冷たさに思わず身震いする。外を歩くと爽やかな風が肌に心地よい。この冷気は、ひと頃の暑さを懐かしく思い出すにつれ、なにかもの寂しい気分にさせられる。季節は行きつ戻りつしながら進むようだ。
この夏、我が家では十数年ぶりに屋根の吹き替えと壁の塗り替えの工事が行われた。足場が組まれ家全体が薄い黒布で覆われた状態が約一月続いた。足場が解体されて建物が蘇ると庭先のあれこれが気になりだす。まずは伸び放題の芝生を刈りこんだ。密集した茗荷の葉を取り払うと彼岸花がひときわ目立つようになった。
同居人は「松の剪定」に取りかかる。古い葉を手でしごく剪定を「もみあげ」と言う。さらに松全体を小ぶりにしたいと大胆に枝を切り落として行く。要らぬ心配だった。予想以上の見事な出来栄えにほっとする。一方の私は、庭石の小石を並べた部分が貧相でそこを何とかしたいと考えていた。そこで近隣を歩いて手ごろな石を捜した。
そして近くの元仲宿通りの先に私の欲しい石が見つかった。それは道路に面しながらも壁のない無防備な家の敷地内に無造作に積まれていた。通りがかりのものだが石を譲ってもらえないか相談した。偉丈夫な男性が出てきて、ありがたいことにただ同然で譲り受けた。自転車で1個ずつ繰り返し運んだ。ほかの庭石を見ながら我が家の庭師さんは若くして亡くなったことを思い出した。