玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*平櫛田中・特別展

2022年11月29日 | 捨て猫の独り言

 平櫛田中(でんちゅう)は木彫の達人で、岡倉天心と深く関わる。平櫛田中彫刻美術館は玉川上水緑道に面している。玉川上水が気に入って、だいぶ前からこの土地を購入しておいたらしい。小平市に移り住んだのは1970年の98歳のときである。建てられた邸宅は大屋根の方形造りを特徴とする書院造り。設計は、国立能楽堂を設計した建築家の大江宏によるもの

 敷地内には田中が百歳のときに、20年後の制作のため取り寄せた彫刻用の原木が現在も庭先に鎮座する。なんという時間感覚だろう。ここで10年暮らして107歳で死去している。亡くなった時点では男性長寿日本一だった。邸宅は記念館となり、隣接地に彫刻美術館が建てられた。

 

 このたび美術館では小平市制60年事業として、全国各地から作品が集められて特別展が開催された。生まれ故郷の岡山県井原市の田中美術館所蔵のものが多く運びこまれている。ポスターにも使われた「幼児狗張子(1911)」はいつもなら岡山まで出かけなくては観ることのできないものだ。

 あと印象に残ったのは、最初期の作品の「樵夫(1899)」だ。これは個人蔵というから、いつでも観られるというものでもないだろう。入場者には遠方から来たと思われる方々がいた。私が何度も立ち入ったことのある記念館(邸宅)は、なぜかこの日は立ち入りできなくなっていた。小平市民としては、遠方から来ていただいた方に記念館を見てもらえないのは残念な思いだった。

 

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*トルストイ(3)

2022年11月24日 | 捨て猫の独り言

 農事経営にたずさわる田園生活者のリョーヴィンはトルストイの分身と考えられる。信仰をもたなかった彼はが少しづつ信仰を獲得してゆく様子が書かれている。「もしその無垢な幼児があなたに向かって〈お父さん、この世で私たちを喜ばせてくれる大地や水や花や草などみんな、だれがつくったの?〉ときいたときあなたはなんと答えますか?まさか〈知らないよ〉とは答えないでしょ」

 「またお子さんから〈死んだらどうなるの?〉ときかれたとき、何も知らなかったら、いったいなんというつもりですか?」リョーヴィンはあらゆるものの中に「私とは何者であるか?自分はどこにいるのか?なんのために自分はここにいるのか?」という自分の疑問に対する相互関係を探しもとめていた。「このおれも土に埋められてしまって、あとはなにひとつ残らないってことだ。これはなんのためだろう?」(11・11名古屋駅にて)

 

 「あの百姓が、神のため、魂のために生きなければいけない、といったときも、おれはびっくりすると同時にうれしかったのだ。おれはなにも発見したわけではなかった。おれはただ自分で知っていたことをはっきり認識しただけなのだ。おれは単に過去ばかりでなく、現に自分に生命を与えてくれるその力を理解したのだ。おれは虚偽から解放されて、ほんとうの主人を見いだしたのだ」

 アンナのほかに、トルストイが考える理想の女性があと一人登場している。キチイが転地療法で訪れたドイツの温泉療養地で知り合ったワーレンカです。彼女はそこで病める人たちの介護をしていました。「いったいこの人の中にはなにがあるのかしら?いったいなにがこのひとにいっさいを無視してなにものにも左右されない落ち着きを与えているのかしら、ああ、なんとかその秘密を知って、この人からそれを習いたいものだわ」とキチイは本能的な生活のほかに、精神的な生活もあるのだと気づくのです。(了)

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*サッカーW杯

2022年11月21日 | 捨て猫の独り言

 最近、東京オリンピックが開催されたようだが、私にはオリンピックの印象はうすく、ワクワク感も感動も皆無だった。国費が無駄に使われたという空しさだけが残った。4年に一度のサッカーW杯が21日に中東のカタールで開幕する。こんどは世界的規模のスポーツの祭典を楽めるだろうか。カタールとの時差は6時間だ。

  

 カタール開催には問題があることが指摘されている。大会に関連する施設の建設に携わった外国人労働者(インドやバングラデシュ)らへの劣悪な労働環境や賃金未払などの人権侵害に対して欧州ではパブリックビューイングのボイコットが相次いでいるという。またカタールが同性愛を法律で禁じていることについても抗議の声があがっているという。

 そして国際サッカー連盟(FIFA)の前会長までもが「当時の会長としてカタールを開催国に選んだのは間違いだった。カタールは国が小さすぎる。それに対して、サッカーW杯は大きすぎる」と述べている。ちなみに2026年の開催国はアメリカ・カナダ・メキシコが共催、2030年はウルグアイ・アルゼンチン・パラグアイ・チリが共催となっている。

 カタール大会ではW杯史上初めて、女性審判6人(主審・副審各3人)が選出された。そのうちのひとりが山下良美主審(36)である。8月から日本サッカー協会とプロ審判契約を結び、9月にはJ1の試合で笛を吹いた。彼女がカタールで主審を務める機会に恵まれることを期待しよう。優勝候補予想は順にブラジル、アルゼンチン、フランス、イングランド、スペイン、ドイツだ。日本は23日にドイツ、27日にコスタリカ、2日にスペインと対戦する。

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*トルストイ(2)

2022年11月17日 | 捨て猫の独り言

 トルストイのアンナ描写をいくつか取り上げてみた。「腕輪をはめたむっちりした腕も、真珠の首飾りをまいて、しっかりとすわった首も、やや乱れて波うってる髪も、小さな手足の気品のある軽々としたしぐさもいまや生きているその美しい顔も、どれ一つとして優雅でないものはなかった。しかし妙なる美しさの中には、なにかしら残酷な恐ろしいものがあった」

 「初めてのこどもは、たとえそれが愛を感じていない夫の子であっても、どんなに愛しても愛したりない深い愛情がそそがれた。ところがこの女の子はもっともつらい境遇の中で生まれたために、初めての子の場合の百分の一も心づかいがはらわれなかった」というのがトルストイの見立てである。そんなもんかと私は思う。

 「アンナの話しぶりは、自然であるばかりでなく、聡明であった。いや聡明であるとを同時に無造作で、まるで自分の考えはなんらの価値を認めないのに、相手の考えには大きな価値を与えるといったふうであった」「アンナは知性と優雅さと美貌のほかに、誠実さがあったのである。彼女は自分の境遇のついらさを、すこしも彼に隠そうとはしなかった」

  

 アンナとヴロンスキーの報われぬ激しい恋に対して、理想主義的地主貴族リョーヴィンとキチイとの幸せな結婚を配し、それによって虚偽にみちた上流社会の都会生活と、地方地主の明るい田園生活が対比される。この二組のまったく異質な夫婦に、アンナの兄のオブロンスキー夫妻がからんで、当時のロシア社会のあらゆる問題を捉えながら、ペテルブルグ、モスクワ、農村、外国を舞台に物語は展開されている。

 

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*大学三大駅伝

2022年11月14日 | 捨て猫の独り言

 6日の日曜日にテレビは朝から昼過ぎまで全日本大学駅伝を中継していた。日本生まれのこの競技名を「駅伝」としたのは、江戸時代における東海道五十三次における「伝馬制」からヒントを得たといわれる。駅伝という言葉自体は、日本書紀にも記載されているほど古いものらしい。暮れに京都で開催される高校駅伝はよくテレビで観戦する。日本ほど駅伝大会のファンの多い国はないだろう。

 

 近年では、ハワイ、オーストラリア、カナダなど海外7か国で駅伝大会が行われているという。世界陸連では国際名称を「Road relay」としている。「出雲駅伝」は1989年に当時の出雲市長岩国哲人市長が誘致した。学生陸上競技連合と出雲市の主催で10月10日のスポーツの日に出雲大社をスタートして、45.1㎞の8区間で競われる。

 11月の第1日曜日に、熱田神宮から伊勢路を伊勢神宮内宮宇治橋前までの106.8㎞の8区間で行われるのが「全日本大学駅伝」だ。学生陸上競技連合、朝日新聞社、テレビ朝日、メ~テレの主催である。6日には、つけっぱなしのテレビを、スタートとゴールを押さえて途中はところどころのぞき見していた。

 正月恒例の「箱根駅伝」を知らない人はない。千代田区から箱根町・芦ノ湖までの往復217.1㎞の10区間で競われる。21チームが参加して関東学生陸上競技連盟の主催で読売新聞社の共催だ。同シーズンに三大駅伝の優勝を成し遂げることを三冠といい、これまで成し遂げた大学は、大東文化、順天堂、早稲田、青山学院で、今度の箱根駅伝で駒沢がそれに挑戦する。出雲と全日本大学は全国大会だが箱根は地方大会にすぎない。つまり関東以外の大学には三冠を達成する権利すらない。

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*トルストイ(1)

2022年11月10日 | 捨て猫の独り言

 文豪トルストイの「アンナ・カレーニナ」を読もうと考えて、新潮社の木村浩訳による文庫本の上・中・下3冊を病院のベッドに持ち込んだ。この歳で初めてトルストイを読むことにした。5日間の担当看護士さんは目まぐるしく変わり、そのうち一度だけは夜勤の男性看護士だった。メモを取りつつ読んでいると、何をしているのかと彼は聞いてきた。

 

 読み終えることができなかった下巻は、退院後の1週間で読んだ。あまりにも有名な「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである」で始まる。読後に感じたのは、140年近く前に書かれたとは思われないほどのみずみずしさだった。それとトルストイの、とくに女性心理の洞察力の鋭さである。いくつかの夫婦喧嘩の場面で、口から出た言葉と口には出さない心理の二重描写を共感して読んだ。

 トルストイは34歳で18歳のソフィヤと結婚している。作品中に「自分の愛しているひとりの女房をちゃんと理解すれば、何千という女を知るよりもはるかにすべての女を理解できるようになるっていうからね」という文句がある。トルストイは、求道者としての自己矛盾とソフィヤ夫人との家庭的葛藤に悩まされ「残された人生の最後の日々を孤独と安らぎの中に生きるため」と家出の直後、82歳で死去している。

 アンナは夫との愛のない日々の倦怠から、青年士官ヴロンスキーの若々しい情熱に強く惹かれ二人は激しい恋に落ちてゆく。しかし嫉妬と罪の意識に耐えられず、誇り高いアンナはついに悲惨な鉄道自殺をとげる。冒頭に「復讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する」という寸鉄詩がある。つまり道をあやまった女を罰するのは人間ではなく神のなすべきことであるとトルストイは言う。その一方でアンナはトルストイの理想の女性像でもあった。 

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*三大タイトル

2022年11月07日 | 捨て猫の独り言

 11月3日の文化の日に囲碁の芝野虎丸九段(22)が、二日制七番勝負の最終局で第一人者の井山裕太名人(33)に勝ってタイトルを奪還した。これで囲碁の三大タイトルは棋聖を一力遼(25)、本因坊を井山裕太、名人を芝野虎丸で分け合うことになった。

 囲碁ファンは1月は棋聖戦、5月は本因坊戦、8月は名人戦それぞれの七番勝負を楽しむことができる。優勝賞金は棋聖戦が4500万、本因坊戦が2800万、名人戦が3000万で、それぞれ読売、毎日、朝日が主催している。賞金の額は各社の発行部数の反映だろうか。

 

 棋聖の一力は身長が184㎝あり、早稲田大学の社会科学部を卒業している。仙台の河北新報社の御曹司で同社の新聞記者でもある。棋風は序盤から意欲的に勝負を仕かけていく力戦型で早碁に強く国際棋戦で気を吐いている。井山本因坊は常に最強手で応じ、相手になにも譲らず押し切るのが井山流。

 主催の朝日は今回のタイトル奪還の翌日に、芝野について大きく紙面を割いていた。AIはウサギのごとく足早にどんどん陣地を獲得する。その影響は人間が打つ現代碁にも色濃く投影され、陣取り合戦で後れをとっても手厚く構え、あとから追いこむカメのような芝野の棋風は特異だと評している。

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*ひさしぶりの入院

2022年11月03日 | 捨て猫の独り言

 プロ野球の日本シリーズが戦われていた頃、10月24日から市内のH病院に4泊5日で手術入院しました。緊急のものではなく長期間続いていた疾患で、健康保険の自己負担割合が低いうちにという打算から、また自然治癒はあり得ず治療には手術が必要だということで踏みきりました。その日が来るまではできるだけ快適に過ごすべしというのが二番目の理由でした。

 ところがコロナの影響ということで入院は10月へとずれ込み、入院のときには1月違いで自己負担割合が高くなっていました。決断が遅かったというわけです。病名は「そけいヘルニア」で、H病院の「メッシュプラグ法」という手術を受けました。いつもの後追いですが、この病気のことについて事後の研究に励みました。

 

 「そけい部」は漢字で「鼠径部」ですが、ほとんどは「そけい」と表記されます。そけい部ぶとは、足の付け根の部分のことをいい、ヘルニアとは体の組織が正しい位置からはみ出した状態をいいます。そけいヘルニアには「外」「内」「大腿」の3つの種類があり一番多いのが「外そけいヘルニア」のようです。H病院の医師が明言したわけではありませんが私も「外」にちがいありません。

 一般には「脱腸」と呼ばれています。この言葉を聞くとなぜか「お前のかあちゃんでべそ!」を思い出します。人体は外側から皮膚、筋肉、腹膜があり腸が保護されています。指で押さえると通常はひっこむのですが、引っ込まなくなると嵌頓(かんとん)ヘルニア状態になりその部分の腸が壊死して腸閉塞という緊急事態になるといいます。

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