今でも月に一度は通う病院は建物が新しくなって一年余りになる。読み書きのできる静かなコーナーが出来て、そこに設置された自販機では紙コップで百円のコーヒーや無料のお湯が手に入る。中でもトイレは快適である。washletの便器に座った時に見慣れないものを発見した。右前方の隅に可愛らしい椅子がある。ベビーチェアと名付けられている。注意書きに生後5ヶ月~2歳半までとある。支柱に座面が乗っかっただけのシンプルな構造である。子供は座るとT字型のガードを両手で掴むことになる。
そのトイレは眼科と産婦人科の中間に存在している。若い父親が幼い子供を連れて利用することを想定したものと考えられる。もちろん隣の女子トイレにもこの椅子は備え付けられているであろう。こんなものがあれば便利なのにという誰かの思いが具体化されていく。これを社会の成熟と呼ぶのだろう。
ひとりすわりできる子供が対象のベビーチェアはTOTOの製品である。創立90周年を迎えて今年の5月に東陶機器からTOTOと社名を変更している。本社は北九州市小倉にある。日本にはまだ下水道の整備されていない大正6年に水洗便器の製造に着手した。そのトイレでTOTOの製品でないものを探してみたら三菱電機のハンドドライヤーだけであった。
病院のトイレの便座に腰かけて目の前の無人のベビーチェアのガードを引いたり閉じたりしながら考える。自転車と異なりこの椅子では子供と同じ目の高さで向き合うことになる。よちよち歩きのあの人のことを思い浮かべた。自転車の 「子供のせ」 ほどにこの椅子が普及するとは考えられない。ここではトイレのベビーチェアを商品化したTOTOのあらゆることを追求しようとする心意気に敬意を表したい。