今月のEテレ「100分で名著」は吉本隆明の「共同幻想論」だった。初回と2回を見逃し3回目から見始めた。テキストがあることを知り買いに走る。テキストは思っていたより読みやすくて前半部分を2日で読み終えた。講師は近代日本思想史専攻の先崎彰容(1975年生まれ)である。私の本棚には1968年の初版本がある。当時かなり話題を集めた本だった。しかし私が頁をめくることなく50年近くも本棚に置かれていた。
たとえば文芸評論家の粟津則雄は吉本隆明についてつぎのように述べている。「眼前の事象から原理的なものに遡行しその原理的なものによって全世界を支えようとする壮大な野望に感服する。詩人と言っても評論家と言っても言い足りぬ何か、一人の考える人間とでも言うべき何かがその口の重い職人か農業技師を思わせる風貌にも、一歩一歩歩むような語り口にもいっぱいに溢れていた」
吉本は私が愛読する島尾敏雄を高く評価している。これが私には、わがことのように嬉しい。評価する理由を述べている。「ひとつは島尾さんの作品の中に出てくる関係妄想みたいなものに関心がある。それから家というものをテーマにした小説の世界にも。また戦争体験という世界にも」「そして自分なりにこねあげるということがたいへん(私に)近しい世界だということなんです」
テキストの表紙には「戦後最も難解な本に挑む」とある。なぜ今「共同幻想論」なのかについて講師は「私たちはどのような人間関係をつくるべきか」「自分は独善に陥っているのではないか」といった問いに戻る必要があるという。共同幻想論は国家がどのようなプロセスで誕生したのかを、きわめて独自の手法で描き出そうとした本である。この「多忙な時代」に原理的・本質的な問いを立てる際に勇気をあたえてくれる本だという。