3泊4日の旅から帰ると、柿の葉が庭一面に敷き詰められていた。留守中に強風があったらしい。幸いなことに風向きの関係で柿の葉は公道側でなく、ほとんど庭の側に落ちていた。色づいた柿の実が姿を現し、熟するにつれてメジロやシジュウカラが柿の実を啄みにやって来る。それを観察するのは楽しい。しかしカラスが柿の木に飛来すると外へ飛び出して追い払う。
故郷の鹿児島から贈り物が届いた。「南さつま市」の笠沙(かささ)町にある「杜氏の里笠沙」の「一(いっ)どん」という焼酎だ。これまで聞いたこともない名で、贈り主によると、まず注文しそして抽選の結果手に入るのだという。薩摩弁の「どん」は軽い敬意を表す接尾語で「~さん」を意味する呼称だ。西郷さんは「せごどん」という具合いだ。豪快なラベルには初代黒瀬杜氏片平一(はじめ)の愛称をそのまま名付けたとある。
「黒瀬杜氏」は明治30年代から昭和中期にかけて、鹿児島県南部で活躍した焼酎造りの職人たちだ。その呼び名は発祥地である鹿児島県南さつま市笠沙町の地名である「黒瀬」に由来する。黒瀬杜氏が誕生したのは、焼酎が自家製だった時代が幕を閉じ、急速に産業化が進んだ時代。鹿児島には100社を超える焼酎蔵元がある。若き焼酎職人の中には、これまで焼酎業界を牽引してきた黒瀬杜氏に教えを請う人もいる。
市町村合併で「南さつま市」と「南九州市」が誕生した。このことによって若くして県外に出た私のようなものには、合理化され抽象化された名称からは、悲しいことにその土地の自然の景色を思い浮かべることができなくなっている。加世田市、笠沙町、大浦町、坊津町、金峰町が合併して「南さつま市」となったと説明されてやっと、日本海に面した吹上浜や、野間半島の野間岳や、坊津町の海水浴場などの風景が浮かぶのだ。