孫たち二人は祖母と7月31日に成田からアトランタへ向けて旅立つ。直行便でなくロサンゼルスで乗り換える便である。私にはこの乗り換えが身を削るほどの難事業に思える。このような状況に身を置くのはごめんだ。税関ではどこの列に並べばよいのか誰も教えてくれない。ずらりと並ぶマシーンで税関申請せねばならない。税関人の質問に英語で答えなければならない。荷物エリアを探して受け取り、そして預けなくてはならない。つぎのアトランタ便はどのターミナルの、どのゲートから出発するのか。その場所はどこなのだ。
日本の学校の給食はおいしいと毎年のようにいう。敷地内の給食室で作られているので、なおのことおいしいのだろう。献立表を見ると、よくもこれだけ考えるものだと感心するほど豊富なメニューがならぶ。7月の「主食」だけでも驚くほどの工夫だ。中華丼、マーブル食パン、そぼろごはん、ターメリックライス、うめじゃこごはん、ツナおろしスパゲティ、ガーリックライス、シュガートースト、ゆかりごはん、じゃじゃめん、さんまのかばやきごはん、ナンと続く。さらに多様な「おかず」がそれらと組み合わされる。
終業式の翌日は、さっそく自分の机の回りの整理に取りかかっていた。ほっとした様子が見える。ある程度のストレスを感じながら登校していたのだろう。目の前でときおり激烈な姉妹喧嘩が勃発する。アトランタで長い夏休み過ごしていたら喧嘩の回数はもっと多いだろうと思われる。そのことだけでも日本で暮らすことの意味があるようだ。今年はあちこち連れ回すことにした。最後の週に、東京駅から皇居周辺に出かけた。ところが引率者は、どれが丸ビルでどれが新丸ビルかさえ分からない。さて昼食はどうするかと迷走した。
東京駅の外観を眺めたあとで、あるビルの地下一階のカウンター席でサンドイッチを食べた。そのビルこそが丸ビルであることを後日知った。飲み物を補給できない状態だったが二重橋を目指した。その辺りには外国人観光客の姿しかない。東御苑にあるであろう売店で飲み物を調達するつもりだった。むし蒸し暑さの中を大手門に着くと、月・金曜は東御苑は休みで入園できない。誤算続きだ。お堀端を歩いて、毎日新聞本社の入るパレスサイドビルにたどり着いた。幸いにも見つけたコンビニが「また来たい」と思わせるほど快適だった。窓側のカウンター席から外の景色を見ながら飲食できる。ここで元気を取り戻して、北の丸公園の人通りの少ない小道を武道館まで歩いた。それは私も初めて歩く道だった。陽差しはようやく、やわらいでいた。