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「型を使うかご」 高宮紀子

2016-06-25 13:16:55 | 高宮紀子
◆CAST GRASS 41×41×41 苧麻 1993

◆長郷さんの型

2000年5月20日発行のART&CRAFT FORUM 17号に掲載した記事を改めて下記します。

 「型を使うかご」   高宮 紀子(かご造形作家)

 2年前の冬、福島県の三島町という所で、ミツマタのかご作りを教わりました。初雪が降る中、素材のミツマタを集め、それらを薄く加工してかごを作りましたが、この地方に生まれた工芸とそれらをめぐる人に触れるいい機会でもありました。その時、ヤマブドウのかごを作る長郷千代喜さんという方にお会いし、使い込んだ道具を見ながらお話を聞く機会がありました。長郷さんは、卓越した素材の加工と編みの技術で有名な方です。独特の丸みのある買い物かごが人気で、遠くから人が買いにくるぐらいです。
 
 1枚目の写真は長郷さんがかご作りに使用する型で、桐(この地方名産)製、いくつかの部分に分解できるようになっています。この型にはめて底から編み、後で型を抜いてしまいます。長郷さんはいろいろな形の型をご自分で作っていますが、角が丸く使いやすい大きさの形で、どこか古風なのだけど、とてもモダンといった独特な形です。使う型が全体の形を決めるわけなのですが、いうまでもなく、作る人の長年の経験に裏付けされた技術がないと、長郷さんのかごはできません。型を使う、使わないにかかわらず、個人の技術があってこそ、美しい形のかごができるのです。

 型を使って成形をする方法はいろいろな工芸に見られます。ガラス、金属や陶芸など、他にももっとあるかもしれません。かご作りでも、型を使って成形する方法をよく使います。同じ形を大量に作る、または、ジャストなサイズにする必要があるときなどがそうです。例えば、トウのひきだしなどでは、正確なサイズが必要ですし、笠などは型があった方がその形に編みやすい、そういう時に型にはめて編みます。また、全体の形を作るため、というのではないのですが、ルーピングの組織を作る時に使われるテープなども、均一の組織の目を作るための型といえるかもしれません。

 同じ形のものを大量に作り出すといえば、思い出す風景があります。まだうわぐすりがかかっていない陶器がずらっと台に並んでいたり、切り出した下駄が積み上げられて塚のようになっていたり、まだ色がついていない張り子のだるまが並んでいる風景などがそうですが、ついつい見とれてしまいます。
 
 型を使って成形をしたものではありませんが、そういえば一時期、ファイバーを使った造形の展覧会にも、同じ大きさのものを大量に並べ、インスタレーションをする、という展示方法がありました。同じものが大量にあるということで、重なりや量の中で何か、違うものを感じさせる、その場の床や空間を埋め尽くすことで、見る人に何か印象的なシーンを提示することができる、とったものでしたが、最近では、まったく同じものを多く並べるよりは、少しずつ違うものがまざっていく、というタイプが新しいような気がします。こういう展示になると、一つずつ、よく作品をみようとして、まちがい探しではありませんが、個々に注意を向けて”見る”という姿勢がより積極的になってくるような気がします。

 かごの方法を使い、コンテンポラリーな作品を作る作家にも、型を使う人がいます。大量生産のためというよりは、唯一一個、またはシリーズの作品を作るために使われているようです。そして多くの場合、作業の可能性を広げるという目的で使われています。

 2枚目の写真は1993年の私の作品です。素材はチョマで三角の形の中は空洞で何も入っていません。この作品の最初のかけらは、ニットの編み棒を何本か、結んで形を作り、その上にネットをかけるように繊維で編んだことが初めでした。棒をとってみた所、その棒にかけた繊維の層が残って形になったのです。これは実験のつもりでやったことでした。何でそんな実験をやっていたかというと、それまで発泡スチロールの塊を型にして作品を作っていたのですが、(例えば、前回の”縫うかごの作品”などがそうです。)作品ができた後で、その型を抜くのに空間がどうしても必要になるし、中の空間をあまり複雑にはできない、という不満があったからでした。そこで、棒のようなものだと、中にも手をいれて作業ができる、と思ったのです。この実験は後日、細い鉄棒を使う成形方法へと進みます。鉄棒を結んでつなぎ、複雑な形を作り、型というより枠のようなものを作り、今までできなかった作業をすることができました。ちょうどこの時期、家の壁の塗りかえをやってもらいました。家の周りに足場を組んで作業が行われていましたが、その中の私も作品の足場を組む作業に追われていて、目的は少し違いますが、妙に励みになったものです。塗りかえの作業の足場のように、通常の形を作るというプロセスの順番、素材の重力の規制から逃れ、自由に作業を進めることができる、ということを可能にする目的がありました。

 私の枠を使った作品では、繊維という柔らかい素材でも立体を作ることができたのですが、組織構造やその素材自体が持つ力といったものを均一にならしてしまったという思いがありました。ですから、次にいろいろな素材を試していきました。その都度、新しい方法を工夫する必要が生まれました。この方法というのは、技術という程のことはない簡単なものです。ただ、この工夫に到るまでには試行錯誤が続きました。だから、大切なことはこの工夫が生まれたプロセスで、技術が形になろうとする過程を経験することなのです。最初の実験のニットの棒針から7年経ちました。「型による成形方法」の次の展開をこれからも考え続け、作り続けたいと思っています。


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