先ほど、来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。結社の先生に添削を依頼する一筆箋を書きながら、釜無川の花火大会の先触れの花火の音が聞こえ、なかなか風情がありました。
さて、今回のテーマは「身支度」です。と言っても、私はお洒落に無頓着なので、ズッコケ路線の歌のオンパレード。ま、こんなもんでしょう。先生は最近訂正を加えられないことが多くなってきたんですが、それほど詠みぶりが上がっているとも思えないので、今回はどうなるかなぁ…。
あなたから貰ったブルーのYシャツにアイロンかけていいリハビリよ
青シャツに「ペネロペ風」と気取っても鏡を見れば「ドラえもん」です
ジャケットは一張羅でも靴だけは毎年換えて行く食事会
高原のホテルのランチに赴くに履いたヒールの靴音高し
靴下の親指の穴指摘する母のそれには底に穴開く
褒められてかいた冷汗 連休に溜まった垢とシャワーに流す
薬局が試供にくれたパックにて目尻潤い束の間憩う
コーヒーを物色する吾と喪のコート探す母いてラザウォークの午後
スカートの付属ベルトを使い回す吾に眉しかめカタログ捲る
くり大きニット好まず譲りつつ吾が着こなしにじと目を向ける
(2011年9月10日締め切り分、『樹海』2011年11月号掲載予定)
さて、今回のテーマは「身支度」です。と言っても、私はお洒落に無頓着なので、ズッコケ路線の歌のオンパレード。ま、こんなもんでしょう。先生は最近訂正を加えられないことが多くなってきたんですが、それほど詠みぶりが上がっているとも思えないので、今回はどうなるかなぁ…。
あなたから貰ったブルーのYシャツにアイロンかけていいリハビリよ
青シャツに「ペネロペ風」と気取っても鏡を見れば「ドラえもん」です
ジャケットは一張羅でも靴だけは毎年換えて行く食事会
高原のホテルのランチに赴くに履いたヒールの靴音高し
靴下の親指の穴指摘する母のそれには底に穴開く
褒められてかいた冷汗 連休に溜まった垢とシャワーに流す
薬局が試供にくれたパックにて目尻潤い束の間憩う
コーヒーを物色する吾と喪のコート探す母いてラザウォークの午後
スカートの付属ベルトを使い回す吾に眉しかめカタログ捲る
くり大きニット好まず譲りつつ吾が着こなしにじと目を向ける
(2011年9月10日締め切り分、『樹海』2011年11月号掲載予定)
最近、紅茶関係の歌を連発していましたので、勘のいい方は「あ、今度の歌稿のテーマにするつもりなんだな…」ときっと見抜いていらっしゃったことと思います。全く意外性なく、その通りです(笑)。先ほど、来月十日締め切り分の歌稿(テーマ「ドリンク」)を投函してきました。
しかし、自分で提出用に原稿用紙に清書しながら「まぁ、軽薄な歌が並んだな…」と自分でも思いました。『何となくクリスタル』かよ、おい!みたいな。(しかも、それすら 読んでないし。汗)
先月のテーマが重苦しかったので、反動というわけでもないのですが…。落差の激しいところが私らしいと言えばそうですけど。
今回は、どれが選に漏れるか、容易に察しがつくのが情けないところです…。
開封の一番茶を注ぎ分けるたび菓子は無いのと母のつぶやく
グリニッシュという味を舌に確かむとテスタバレーのダージリン買う
黒富士の卵のバウムクーヘンの味が引き立つ 熱きルフナに
吾(あ)と共に「キャラメル焙じ茶」楽しむも母は緑茶で口直しする
手土産のケーキを麦茶で食べた後ウェブで求めた紅茶が届く
空き腹に甘味と酸味が沁みていく紅茶に柚子のかけら浮かべて
着信に返り言して注ぐ茶の苦味ばしりて喉にまとわる
弟の誕生祝いに母の買うノンアルコールのビールにも酔う
催促の度重なるに苛つきてアイスコーヒー三杯呷(あお)る
湯に溶いた葛根湯の仄甘さ確かめるようゆっくり含む
入選をウェブに知りたる伊藤園 一報を待ちうかうか過ごす
(2011年8月10日締め切り分、『樹海』2011年10月号掲載予定)
しかし、自分で提出用に原稿用紙に清書しながら「まぁ、軽薄な歌が並んだな…」と自分でも思いました。『何となくクリスタル』かよ、おい!みたいな。(しかも、それすら 読んでないし。汗)
先月のテーマが重苦しかったので、反動というわけでもないのですが…。落差の激しいところが私らしいと言えばそうですけど。
今回は、どれが選に漏れるか、容易に察しがつくのが情けないところです…。
開封の一番茶を注ぎ分けるたび菓子は無いのと母のつぶやく
グリニッシュという味を舌に確かむとテスタバレーのダージリン買う
黒富士の卵のバウムクーヘンの味が引き立つ 熱きルフナに
吾(あ)と共に「キャラメル焙じ茶」楽しむも母は緑茶で口直しする
手土産のケーキを麦茶で食べた後ウェブで求めた紅茶が届く
空き腹に甘味と酸味が沁みていく紅茶に柚子のかけら浮かべて
着信に返り言して注ぐ茶の苦味ばしりて喉にまとわる
弟の誕生祝いに母の買うノンアルコールのビールにも酔う
催促の度重なるに苛つきてアイスコーヒー三杯呷(あお)る
湯に溶いた葛根湯の仄甘さ確かめるようゆっくり含む
入選をウェブに知りたる伊藤園 一報を待ちうかうか過ごす
(2011年8月10日締め切り分、『樹海』2011年10月号掲載予定)
少し早過ぎますが、来月十日締め切り分の歌稿を先ほど投函してきました。今回のテーマはずしりと重く、「差別」です。
障害を持っていると、日々の暮らしの中で「あぁ、差別されてるなぁ…」と感じることが色々あります。その時に抱く微妙な感情を詠むことで、鬱屈した気持ちを解消できている部分はかなりあって、今後もきっと折にふれ詠んでいくことでしょう。
立場的に、どうしても被害者意識の強い歌が多くなってしまっていますが、障害者自身も差別する側になりうるという視点も失わないよう気をつけました。
ふた月でクビ切り決めた抱え手に病気明かすと得心の面(おも)
障害にちらり触れると去ってゆくフォロワー絶えぬ吾がツイッター
身内にも「気が狂った」と言われたる主イエスは吾の痛み共にす
作業の手ゆっくり動かす朋を見てついほくそ笑む自らを恥ず
心病む人が取り沙汰されていて社適の事務所に身を硬くする
不器用にラベル貼る人を「障害」と吾(あ)に吐き捨てた意図を訝る
私には幻覚はないと同病の放つ口調に蔑みにじむ
賃金で全てを量る父が言う「作業所なんか辞めるべきだ」と
健常に見えると励ます優しさの底を流れる偏見を嗅ぐ
(2011年7月10日締め切り分、『樹海』2011年9月号掲載予定)
障害を持っていると、日々の暮らしの中で「あぁ、差別されてるなぁ…」と感じることが色々あります。その時に抱く微妙な感情を詠むことで、鬱屈した気持ちを解消できている部分はかなりあって、今後もきっと折にふれ詠んでいくことでしょう。
立場的に、どうしても被害者意識の強い歌が多くなってしまっていますが、障害者自身も差別する側になりうるという視点も失わないよう気をつけました。
ふた月でクビ切り決めた抱え手に病気明かすと得心の面(おも)
障害にちらり触れると去ってゆくフォロワー絶えぬ吾がツイッター
身内にも「気が狂った」と言われたる主イエスは吾の痛み共にす
作業の手ゆっくり動かす朋を見てついほくそ笑む自らを恥ず
心病む人が取り沙汰されていて社適の事務所に身を硬くする
不器用にラベル貼る人を「障害」と吾(あ)に吐き捨てた意図を訝る
私には幻覚はないと同病の放つ口調に蔑みにじむ
賃金で全てを量る父が言う「作業所なんか辞めるべきだ」と
健常に見えると励ます優しさの底を流れる偏見を嗅ぐ
(2011年7月10日締め切り分、『樹海』2011年9月号掲載予定)
今日の午前中に、来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。最近硬めのテーマが続いていたから 閑話休題、というわけでもないんですが、今回は音楽がらみの歌でまとめてみました。とは言っても、どれもだいぶ前に詠んだ歌ばかり。九首しかないし、ちょっと間に合わせ感が否めませんが…。
十代に夢中になったミュージシャン齢(とし)近くても遠い人なり
長雨をピアノ日和と喜びてこんこんと弾く「いつのまにか晴れ」
弾き始めなけりゃ後悔一生もん「平均律」の前奏曲(ぜんそう)9番
電線の五線譜たどる有明は東雲(しののめ)告げる前奏曲(プレリュード)なり
交響曲(シンフォニー)のトゥッティに揺れるスピーカー波立つ音に心やすらう
さっきまでCMソング歌ってた母の寝息をしらじらと聞く
香水の残り香まといCDが澄まし顔して戻りて来たり
雨避けのビニル袋に入れられてノブに『音楽堂』かかりおり
リクエストまだかからぬかじれて待つ大つごもりの『アコギ三昧』
(2011年6月10日締め切り分、『樹海』2011年8月号掲載予定)
十代に夢中になったミュージシャン齢(とし)近くても遠い人なり
長雨をピアノ日和と喜びてこんこんと弾く「いつのまにか晴れ」
弾き始めなけりゃ後悔一生もん「平均律」の前奏曲(ぜんそう)9番
電線の五線譜たどる有明は東雲(しののめ)告げる前奏曲(プレリュード)なり
交響曲(シンフォニー)のトゥッティに揺れるスピーカー波立つ音に心やすらう
さっきまでCMソング歌ってた母の寝息をしらじらと聞く
香水の残り香まといCDが澄まし顔して戻りて来たり
雨避けのビニル袋に入れられてノブに『音楽堂』かかりおり
リクエストまだかからぬかじれて待つ大つごもりの『アコギ三昧』
(2011年6月10日締め切り分、『樹海』2011年8月号掲載予定)
先ほど、来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。今回のテーマは「医師」。発病より十年来お世話になっている精神科の主治医についての歌でまとめました。
歌の中で言いたいことは十二分に言明されていますので、ここでは加えて申し述べることをしません。結社の先生がどのようなコメントを添えて返信くださるかが気になるところです…。
院長の在否を電話に確かめてエンジンかける診察の朝
信者より電話あるかと医師が訊く 病の元凶そこにあるがに
信心と妄想分かてぬ医師に就き父が僧侶と九年目に聞く
教会はほどほどにとの墨付に煙たがりつつ胸撫で下ろす
弟の事故を普通に話す吾(あ)に主治医の頬を涙が伝う
就業の枠広げんと福祉手帳を希望する吾(あ)に曇る医師の面(も)
病歴の申立書を繰る医師の吾が目の前に涙かくさず
病歴を仔細に問われた診察に昂ぶり眺める窓辺の桜
病気には関わりのない学歴を必ず診断書に記(き)す医師は
母からの自立を抱負に掲げよと医師が甘さを断つ十年目
(2011年5月10日締め切り分、『樹海』2011年7月号掲載予定)
歌の中で言いたいことは十二分に言明されていますので、ここでは加えて申し述べることをしません。結社の先生がどのようなコメントを添えて返信くださるかが気になるところです…。
院長の在否を電話に確かめてエンジンかける診察の朝
信者より電話あるかと医師が訊く 病の元凶そこにあるがに
信心と妄想分かてぬ医師に就き父が僧侶と九年目に聞く
教会はほどほどにとの墨付に煙たがりつつ胸撫で下ろす
弟の事故を普通に話す吾(あ)に主治医の頬を涙が伝う
就業の枠広げんと福祉手帳を希望する吾(あ)に曇る医師の面(も)
病歴の申立書を繰る医師の吾が目の前に涙かくさず
病歴を仔細に問われた診察に昂ぶり眺める窓辺の桜
病気には関わりのない学歴を必ず診断書に記(き)す医師は
母からの自立を抱負に掲げよと医師が甘さを断つ十年目
(2011年5月10日締め切り分、『樹海』2011年7月号掲載予定)
今日の午後、来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。勿論、テーマは震災です。
大地震があった先週の金曜以来、勤めの類いには出掛けていなかったのですが、今日は歌稿を出しがてら久しぶりに作業所に顔を出しました。ツイッターなどで世間に疎くならないように努めてはいても、やはり引き籠っていると世間ずれしてきてしまうものですね。対面で人と接することの大切さ、そういう場のあることの有り難さを感じて帰ってきました。
長引く罹災の余波については、引き続き詠むことになりそうです。
地震(ない)のあと長野へと発つ弟を止(とど)める術を持つ者はなし
地震(ない)を機にメールを送り交わす人ひとりふたりといるは侘しき
地震(ない)の週明けた深更(しんこう)目の冴えて二人分なる弁当作る
停電を待つ手すさびに縫い物をと構えながらもテレビに見入る
原発のニュースにぼやく声高き母に問うたび「独り言だ」と
茨城の知己案じつつ見舞い状出せず速報浴びているのみ
停電の仔細サイトに載らざると呆れる母としばし諍(いさか)う
報道に鈍い頭痛の収まらず情報源をツイッターに依る
震災の情報拡散かさなるを倦みてブログに戻るフォロワー
停電の告知みまもる間に父が「電気とまった」と電話かけくる
(2011年4月10日締め切り分、『樹海』2011年6月号掲載予定)
大地震があった先週の金曜以来、勤めの類いには出掛けていなかったのですが、今日は歌稿を出しがてら久しぶりに作業所に顔を出しました。ツイッターなどで世間に疎くならないように努めてはいても、やはり引き籠っていると世間ずれしてきてしまうものですね。対面で人と接することの大切さ、そういう場のあることの有り難さを感じて帰ってきました。
長引く罹災の余波については、引き続き詠むことになりそうです。
地震(ない)のあと長野へと発つ弟を止(とど)める術を持つ者はなし
地震(ない)を機にメールを送り交わす人ひとりふたりといるは侘しき
地震(ない)の週明けた深更(しんこう)目の冴えて二人分なる弁当作る
停電を待つ手すさびに縫い物をと構えながらもテレビに見入る
原発のニュースにぼやく声高き母に問うたび「独り言だ」と
茨城の知己案じつつ見舞い状出せず速報浴びているのみ
停電の仔細サイトに載らざると呆れる母としばし諍(いさか)う
報道に鈍い頭痛の収まらず情報源をツイッターに依る
震災の情報拡散かさなるを倦みてブログに戻るフォロワー
停電の告知みまもる間に父が「電気とまった」と電話かけくる
(2011年4月10日締め切り分、『樹海』2011年6月号掲載予定)
今朝は早くに目が覚めてしまったため、歌稿を準備していました。十日締め切りなんで提出にはだいぶ早すぎるんですが、珍しくもう十一首も揃っているし、まぁいいかな、と。昨日から明け方にかけて雪がかなり降り積もったので、投函に行くのは午後になると思いますけれど、先に公表しておきます。
今回は「作業所」を詠んだ歌でまとめてみました。三回目のテーマ設定です。ちらちらとシニカルな視点が透けて見えますが、良くも悪くもそれだけ作業所にどっかり腰を下ろしているということなんでしょう…。
工賃をジュースになぞらえ詠む吾に最低賃金ほこる口々
年金を貰うに障りあるのかと生活保護の友が五度訊く
伸びをして丈の短いシャツが出ることを憚るラジオ体操
道を行く吾の弾んだ足取りを「風に遊ぶ」と師は目を細む
編み上げたペネロペの顔見せようと今日休んでる師の卓に置く
促され編んだ雛(ひいな)の人形が棚に埋れて一年が経つ
発病から働いてないと見なす師に怒りながらも何も言えない
どか雪に口実見つけ休む吾を責めるがごとく肋が痛む
味噌作りの日が近づくとまめまめしく昼餉に汁を始める所長
豆を煮て燻された服・髪・からだ上から下まで二度洗いした
残臭に味噌作りには懲り懲りし今年ははなから休むと告げる
(2011年3月10日締め切り分、『樹海』2011年5月号掲載予定)
今回は「作業所」を詠んだ歌でまとめてみました。三回目のテーマ設定です。ちらちらとシニカルな視点が透けて見えますが、良くも悪くもそれだけ作業所にどっかり腰を下ろしているということなんでしょう…。
工賃をジュースになぞらえ詠む吾に最低賃金ほこる口々
年金を貰うに障りあるのかと生活保護の友が五度訊く
伸びをして丈の短いシャツが出ることを憚るラジオ体操
道を行く吾の弾んだ足取りを「風に遊ぶ」と師は目を細む
編み上げたペネロペの顔見せようと今日休んでる師の卓に置く
促され編んだ雛(ひいな)の人形が棚に埋れて一年が経つ
発病から働いてないと見なす師に怒りながらも何も言えない
どか雪に口実見つけ休む吾を責めるがごとく肋が痛む
味噌作りの日が近づくとまめまめしく昼餉に汁を始める所長
豆を煮て燻された服・髪・からだ上から下まで二度洗いした
残臭に味噌作りには懲り懲りし今年ははなから休むと告げる
(2011年3月10日締め切り分、『樹海』2011年5月号掲載予定)
先ほど、来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。
今回のテーマ「年末年始」は、一昨年に次いで二度目。テーマ設定をすると、ともすると似通った歌が並びがちなのですが、わりとヴァラエティに富んだ感じになったのではないかなと思います。
元上司の喪中葉書に目を伏せる 引き際知るに十年要す
作業所で年賀状書く前の夜にパステルカラーの鉛筆削る
ユニクロの帰路に母娘(ははこ)でしみじみと二人三脚の年かえりみる
起きてこぬ兄のアラーム鳴り続く大つごもりの六時は暗い
元旦にファンデーションを取り替えて家族四人で写真に納まる
プリンタが壊れて当たり年なるか 賀状の返事刷ろうとしたら
年越しの「緑のたぬき」のカップ麺 残りを食す元旦昼餉
新年は切りたての髪 晴れやかな気分でいるのは一日かぎり
ボウボウの頭で賀状取りに出てお向かいに住む美容師に会う
インフルでキャンセル相次ぐ吾が手帳シールとりどり虚しく光る
(2011年2月10日締め切り分、『樹海』2011年4月号掲載予定)
今回のテーマ「年末年始」は、一昨年に次いで二度目。テーマ設定をすると、ともすると似通った歌が並びがちなのですが、わりとヴァラエティに富んだ感じになったのではないかなと思います。
元上司の喪中葉書に目を伏せる 引き際知るに十年要す
作業所で年賀状書く前の夜にパステルカラーの鉛筆削る
ユニクロの帰路に母娘(ははこ)でしみじみと二人三脚の年かえりみる
起きてこぬ兄のアラーム鳴り続く大つごもりの六時は暗い
元旦にファンデーションを取り替えて家族四人で写真に納まる
プリンタが壊れて当たり年なるか 賀状の返事刷ろうとしたら
年越しの「緑のたぬき」のカップ麺 残りを食す元旦昼餉
新年は切りたての髪 晴れやかな気分でいるのは一日かぎり
ボウボウの頭で賀状取りに出てお向かいに住む美容師に会う
インフルでキャンセル相次ぐ吾が手帳シールとりどり虚しく光る
(2011年2月10日締め切り分、『樹海』2011年4月号掲載予定)
昨日、来年一月号の『樹海』が届きました。結社の先生も年末年始はお忙しいだろうし…と、先ほど歌稿をまとめて投函して来ました。
今回のテーマは「父」。ご一読いただければお分かりになるかと思いますが、父は一癖も二癖もある人物です。少しはしたない歌も混じっているので、先生がどれを採られてどれを落とすか、ちょっといつもとは違う興味があります。
寝入りばな電話を寄越す父曰く「病院変えた方がいいぞ」と
旧友を自宅に招きもてなすと父はコーヒー豆を吾(あ)に借る
スッポンを獲ろうと川沿いうろうろし桃泥棒と間違われる父
父の味噌「もう貰うな」と釘を刺す母の居ぬ間に腹に詰め込む
無心する父が持ち来るニジマスの干物の臭(にお)い部屋中に満つ
父作りし燻製を食べ臭うのど収めんと濃きコーヒー淹れる
急く父を「ひと月後だ」といなすため献金ぼやくと「なら辞めちまえ!」
段取りを確かむ電話三度来て父の老い見る確定申告
新番号知らせなくとも良いと言った父が確認電話で起こす
治ったか取り次がないで尋ねろと父の親切ただの野次馬
(2011年1月10日締め切り分、『樹海』2011年3月号掲載予定)
今回のテーマは「父」。ご一読いただければお分かりになるかと思いますが、父は一癖も二癖もある人物です。少しはしたない歌も混じっているので、先生がどれを採られてどれを落とすか、ちょっといつもとは違う興味があります。
寝入りばな電話を寄越す父曰く「病院変えた方がいいぞ」と
旧友を自宅に招きもてなすと父はコーヒー豆を吾(あ)に借る
スッポンを獲ろうと川沿いうろうろし桃泥棒と間違われる父
父の味噌「もう貰うな」と釘を刺す母の居ぬ間に腹に詰め込む
無心する父が持ち来るニジマスの干物の臭(にお)い部屋中に満つ
父作りし燻製を食べ臭うのど収めんと濃きコーヒー淹れる
急く父を「ひと月後だ」といなすため献金ぼやくと「なら辞めちまえ!」
段取りを確かむ電話三度来て父の老い見る確定申告
新番号知らせなくとも良いと言った父が確認電話で起こす
治ったか取り次がないで尋ねろと父の親切ただの野次馬
(2011年1月10日締め切り分、『樹海』2011年3月号掲載予定)
今朝、来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。今回は「不眠」をテーマにまとめてみました。
この手の歌は憂さ晴らし的に詠んだものが殆どなので、内容的にも語句的にも重複するような歌ばかり。推敲の段階でだいぶ手を入れて何とか格好をつけましたが、読む方は退屈でしょうね~(苦笑)。
眠剤を飲んでもしばし寝付けずに洗濯物をゆっくり畳む
妄想と不眠のイライラ消そうとしケーキ三切れをいちどきに食う
朝四時に母の寝息を聞きながら青薔薇(ブルーナイル)の写メ見て過ごす
パソコンを母に止めらる午前五時アイロンを掛け白むのを待つ
家事を終えもう一眠りしようにも母のラジオが階下に響く
真昼間は楚々と時打つ電波時計 深夜一時にひとりくだ巻く
眠れなくなると絵葉書かぞえ上げ相手を選ぶ夜更けの儀式
風邪がちて洗濯をする暁にこめかみを刺す脱水の音
納豆を飯とかき込む午前四時ほのぼの明けて眠りに落ちる
証(あかし)して昂ぶり眠れぬ夜が明けて診察を待ちつつ生あくび
(2010年12月10日締め切り分、『樹海』2011年2月号掲載予定)
この手の歌は憂さ晴らし的に詠んだものが殆どなので、内容的にも語句的にも重複するような歌ばかり。推敲の段階でだいぶ手を入れて何とか格好をつけましたが、読む方は退屈でしょうね~(苦笑)。
眠剤を飲んでもしばし寝付けずに洗濯物をゆっくり畳む
妄想と不眠のイライラ消そうとしケーキ三切れをいちどきに食う
朝四時に母の寝息を聞きながら青薔薇(ブルーナイル)の写メ見て過ごす
パソコンを母に止めらる午前五時アイロンを掛け白むのを待つ
家事を終えもう一眠りしようにも母のラジオが階下に響く
真昼間は楚々と時打つ電波時計 深夜一時にひとりくだ巻く
眠れなくなると絵葉書かぞえ上げ相手を選ぶ夜更けの儀式
風邪がちて洗濯をする暁にこめかみを刺す脱水の音
納豆を飯とかき込む午前四時ほのぼの明けて眠りに落ちる
証(あかし)して昂ぶり眠れぬ夜が明けて診察を待ちつつ生あくび
(2010年12月10日締め切り分、『樹海』2011年2月号掲載予定)
丸一日続いていた豪雨がやっと上がったので、昨日まとめておいた歌稿を先ほど投函してきました。
今回は二年ぶりに、「作業所」のテーマで歌を選びました。普段の私が一番色濃く出る題目です。9月の山梨県障害者文化展に出展した歌も二首 含めました。
かれこれ一年ほど「樹海」の支部には参加していないのですが、私がどういう立場にあるかというのは支部の方達にあまり理解されていません。今回の一連を提出したことで、私の日常が多少は伝わるのではないかと考えています。
作業所で若きの訛りに耳慣れて喉まで出かかる移住八年
作業所でジュースの瓶にシール貼り手先の冷える十月の末
ジャム瓶のシールの誤植に気付いても作業所にては黙し貼るのみ
スプーンの検品をして悴(かじか)んだ手が編み物の毛糸を慕う
マフラーの出来に売値を万と言う友の賛辞に眼の潤む
若き日に軛(くびき)負う幸説く「哀歌」 仲間に分かてず二年が過ぎた
作業所より足の遠のく子の歌が載った『みぎわ』に皆して見入る
作業所の主(ぬし)になることないと言う母の言葉に立つ瀬があらず
百円の工賃の重み噛み締める 仕事を終えてジュース買うとき
作業所は卒業しゆく場と語る師に諾(うべな)いつつ浮かぶ面々
(2010年11月10日締め切り分、『樹海』2011年1月号掲載予定)
今回は二年ぶりに、「作業所」のテーマで歌を選びました。普段の私が一番色濃く出る題目です。9月の山梨県障害者文化展に出展した歌も二首 含めました。
かれこれ一年ほど「樹海」の支部には参加していないのですが、私がどういう立場にあるかというのは支部の方達にあまり理解されていません。今回の一連を提出したことで、私の日常が多少は伝わるのではないかと考えています。
作業所で若きの訛りに耳慣れて喉まで出かかる移住八年
作業所でジュースの瓶にシール貼り手先の冷える十月の末
ジャム瓶のシールの誤植に気付いても作業所にては黙し貼るのみ
スプーンの検品をして悴(かじか)んだ手が編み物の毛糸を慕う
マフラーの出来に売値を万と言う友の賛辞に眼の潤む
若き日に軛(くびき)負う幸説く「哀歌」 仲間に分かてず二年が過ぎた
作業所より足の遠のく子の歌が載った『みぎわ』に皆して見入る
作業所の主(ぬし)になることないと言う母の言葉に立つ瀬があらず
百円の工賃の重み噛み締める 仕事を終えてジュース買うとき
作業所は卒業しゆく場と語る師に諾(うべな)いつつ浮かぶ面々
(2010年11月10日締め切り分、『樹海』2011年1月号掲載予定)
来月十日締め切り分の歌稿をまとめました。明日 投函します。
今回は一年ぶりに七首を超える歌を用意。というのも、結社の先生に障害者文化展での受賞を報告したら、お祝いの返信に「十首以上投稿するよう努力してください」とやんわり苦言が添えられていたからです。
七首どまりに慣れてしまった身には、十首のハードルはとてつもなく高く、ご覧のように箸にも棒にも引っかからないシロモノも紛れ込んでしまっています(汗)。
結社誌への選にもれた歌がどうすれば一応の形になるのか知っておきたいので、久しぶりに添削をお願いする用紙と返信用封筒も同封しました。母は結社はもう辞めたと信じているので、これも痛し痒しなんですがね…。
音のみの雷(らい)始まればパソコンを落としてドラムロールに聞き入る
病院で飼われる鈴虫鳴きしきり待合ホールの吹抜け満たす
補聴器を付けた翁が虫箱に寄りて鈴虫しげしげ眺む
唇の切れ目にリップクリームの染みて感じる秋の訪れ
一面を覆い尽くせる蕎麦の花撫で吹く風が車窓より入る
ペンションの二重の窓を越えて来る冷気に厚き布団をかぶる
クラクションが朝から断続して響く 連休最後の児らの遊びか
冷え込むと予報に長袖出してきてアイロン掛けに汗ばむ秋分
作業所の南瓜を貰いて帰り来る重みに幾度も持つ手を換えて
秋分を過ぎた明け方足元の冷えに寝覚めて湯たんぽをする
(2010年10月10日締め切り分、『樹海』2010年12月号掲載予定)
今回は一年ぶりに七首を超える歌を用意。というのも、結社の先生に障害者文化展での受賞を報告したら、お祝いの返信に「十首以上投稿するよう努力してください」とやんわり苦言が添えられていたからです。
七首どまりに慣れてしまった身には、十首のハードルはとてつもなく高く、ご覧のように箸にも棒にも引っかからないシロモノも紛れ込んでしまっています(汗)。
結社誌への選にもれた歌がどうすれば一応の形になるのか知っておきたいので、久しぶりに添削をお願いする用紙と返信用封筒も同封しました。母は結社はもう辞めたと信じているので、これも痛し痒しなんですがね…。
音のみの雷(らい)始まればパソコンを落としてドラムロールに聞き入る
病院で飼われる鈴虫鳴きしきり待合ホールの吹抜け満たす
補聴器を付けた翁が虫箱に寄りて鈴虫しげしげ眺む
唇の切れ目にリップクリームの染みて感じる秋の訪れ
一面を覆い尽くせる蕎麦の花撫で吹く風が車窓より入る
ペンションの二重の窓を越えて来る冷気に厚き布団をかぶる
クラクションが朝から断続して響く 連休最後の児らの遊びか
冷え込むと予報に長袖出してきてアイロン掛けに汗ばむ秋分
作業所の南瓜を貰いて帰り来る重みに幾度も持つ手を換えて
秋分を過ぎた明け方足元の冷えに寝覚めて湯たんぽをする
(2010年10月10日締め切り分、『樹海』2010年12月号掲載予定)
少し早過ぎかなとも思いましたが、さっき来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。今回は直球で、「盛夏」がテーマです。
しかし毎度ながら、いささか難ありの歌が目立ちます。
一首目、初句と三句が体言で切れています。
三首目、向日葵もとうもろこしも一年草です。それを影を潜める、追い越すという表現をするのはどんなもんなのか…。
四首目、「引かすに足りず」は苦しい言い回しですね。
七首目は、不自然な句跨りを避けるため、twitterで「花火」の類語をフォロワーさんに教えていただいて、それを使いました。他力本願もいいところ。
ここのところ、提出した七首全部を『樹海』に掲載してもらっていましたが、今回は一首落とされるかもしれません。自信無いです…。
冷蔵庫開けては紫蘇巻きつまみ食い贈られた弟(おと)の見ていぬうちに
炎天を行く焼芋の車より間のびした声流れて暑し
路傍にて影ひそめ居た向日葵が唐黍を越し笑むごとく咲く
猛暑にて火照る身冷ますクーラーも膝裏の汗引かすに足りず
曇天に押し込められて蝉時雨とよめく道を茹だりつつ行く
礼拝の間の暑気を払わんと冷えたおしぼり配る当番
ヘッドフォン越しに聞きやる尺玉はポップコーンが弾ける如し
(2010年9月10日締め切り分、『樹海』2010年11月号掲載予定)
しかし毎度ながら、いささか難ありの歌が目立ちます。
一首目、初句と三句が体言で切れています。
三首目、向日葵もとうもろこしも一年草です。それを影を潜める、追い越すという表現をするのはどんなもんなのか…。
四首目、「引かすに足りず」は苦しい言い回しですね。
七首目は、不自然な句跨りを避けるため、twitterで「花火」の類語をフォロワーさんに教えていただいて、それを使いました。他力本願もいいところ。
ここのところ、提出した七首全部を『樹海』に掲載してもらっていましたが、今回は一首落とされるかもしれません。自信無いです…。
冷蔵庫開けては紫蘇巻きつまみ食い贈られた弟(おと)の見ていぬうちに
炎天を行く焼芋の車より間のびした声流れて暑し
路傍にて影ひそめ居た向日葵が唐黍を越し笑むごとく咲く
猛暑にて火照る身冷ますクーラーも膝裏の汗引かすに足りず
曇天に押し込められて蝉時雨とよめく道を茹だりつつ行く
礼拝の間の暑気を払わんと冷えたおしぼり配る当番
ヘッドフォン越しに聞きやる尺玉はポップコーンが弾ける如し
(2010年9月10日締め切り分、『樹海』2010年11月号掲載予定)
先ほど、来月十日締め切り分の歌稿を投函。今回は「友」というテーマでまとめてみた。実は今日になって、過去の歌を見直しているうちに思いついたテーマだ。
百皿を超えるカレーを整えた手に感じ入り平らげる友
迷う友につられ涙と冗談を軽く届けんせせらぎのごと
教会に吾を目当てに来る友に「主(しゅ)が第一」と教え諭した
不調知りつつ愚痴止めぬ友まえに愛想笑いの頬が強ばる
責任を負えぬ他人に口を出す友と同罪うちに見つけた
人生に倦む友 道連れ欲してか楽な死にかた執拗に訊く
縁絶えた友の消息ウェブ上に見つけ密かにブックマークす
(2010年8月10日締め切り分、『樹海』2010年10月号掲載予定)
自分で気になっている点は二点ほど。まず一首目、友が百皿のカレーを平らげたように読まれてしまわないかどうか。(まぁ、そんなのありえないことは自明なんだけれど。苦笑)
もう一点は、時制の問題。三首目、「教え諭した」のより友が教会に来た方が先なのだから、「来た」としなければならなかったかのかどうか。しかし実際、友は今でも私目当てで来がちであるという持続性のあることで、こういう場合どう書くのがふさわしかったのか。同じように五首目、同罪を「見つけた」より、友が口を出したのが先なんだけれども、友が人にとやかく干渉するのは今でも続いている…といった具合。
文語だと、完了・存続の助動詞「ぬ」「つ」「たり」「り」を取り入れることで、上記の問題がクリアされるのだけれど、完了と過去が一緒くたの「た」で片付けられてしまう口語だと、これがなかなか難しい。
私は一月に、口語作歌宣言をしたけれど、先生が手直しされる時に私の意向を100%尊重してくれるわけでもなく(そんなに手をかけている余裕が無いということなんだろう)、口語と文語が微妙に混在した歌になって結社誌に掲載されることもしばしば。
まぁ、首をそろえて待つしかないか…。
百皿を超えるカレーを整えた手に感じ入り平らげる友
迷う友につられ涙と冗談を軽く届けんせせらぎのごと
教会に吾を目当てに来る友に「主(しゅ)が第一」と教え諭した
不調知りつつ愚痴止めぬ友まえに愛想笑いの頬が強ばる
責任を負えぬ他人に口を出す友と同罪うちに見つけた
人生に倦む友 道連れ欲してか楽な死にかた執拗に訊く
縁絶えた友の消息ウェブ上に見つけ密かにブックマークす
(2010年8月10日締め切り分、『樹海』2010年10月号掲載予定)
自分で気になっている点は二点ほど。まず一首目、友が百皿のカレーを平らげたように読まれてしまわないかどうか。(まぁ、そんなのありえないことは自明なんだけれど。苦笑)
もう一点は、時制の問題。三首目、「教え諭した」のより友が教会に来た方が先なのだから、「来た」としなければならなかったかのかどうか。しかし実際、友は今でも私目当てで来がちであるという持続性のあることで、こういう場合どう書くのがふさわしかったのか。同じように五首目、同罪を「見つけた」より、友が口を出したのが先なんだけれども、友が人にとやかく干渉するのは今でも続いている…といった具合。
文語だと、完了・存続の助動詞「ぬ」「つ」「たり」「り」を取り入れることで、上記の問題がクリアされるのだけれど、完了と過去が一緒くたの「た」で片付けられてしまう口語だと、これがなかなか難しい。
私は一月に、口語作歌宣言をしたけれど、先生が手直しされる時に私の意向を100%尊重してくれるわけでもなく(そんなに手をかけている余裕が無いということなんだろう)、口語と文語が微妙に混在した歌になって結社誌に掲載されることもしばしば。
まぁ、首をそろえて待つしかないか…。
少し早めですが、今朝 来月十日締め切り分の歌稿を投函してきました。
今回のテーマは「読書」。出した歌は昔ながらの紙の書籍について詠んだものばかりですが、いよいよiPhone購入を企んでいますから、そのうち電子書籍についての歌もポツポツ出てくると思います。そういう意味では、時期的にいい区切りだったかもしれません。
つまらぬと斬られた本屋で培った書(ふみ)を見る眼を支えに暮らす
翳りゆく日脚を頼りに読み進め一章終えてとっぷり暮れる
書架隅にちょこんと犬のぬいぐるみ上目遣いに蔵書を守る
朗読に声張る青年生き生きと国語の時間に覗く一面
「忘れ物届けに来たよ」という栞その語にひかれ本を取り出す
督促に中古美本が返り来る読み潰したと詫び状添えて
また貸しの本返してと言うはずが無事な顔見て安堵し忘る
(2010年7月10日締め切り分、『樹海』2010年9月号掲載予定)
今回のテーマは「読書」。出した歌は昔ながらの紙の書籍について詠んだものばかりですが、いよいよiPhone購入を企んでいますから、そのうち電子書籍についての歌もポツポツ出てくると思います。そういう意味では、時期的にいい区切りだったかもしれません。
つまらぬと斬られた本屋で培った書(ふみ)を見る眼を支えに暮らす
翳りゆく日脚を頼りに読み進め一章終えてとっぷり暮れる
書架隅にちょこんと犬のぬいぐるみ上目遣いに蔵書を守る
朗読に声張る青年生き生きと国語の時間に覗く一面
「忘れ物届けに来たよ」という栞その語にひかれ本を取り出す
督促に中古美本が返り来る読み潰したと詫び状添えて
また貸しの本返してと言うはずが無事な顔見て安堵し忘る
(2010年7月10日締め切り分、『樹海』2010年9月号掲載予定)