水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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歌会始「月」

2007年01月16日 17時45分02秒 | 言葉に寄せて
元旦から鴨下信一の『忘れられた名文たち』を読んでいる。
画家や俳人らの文章、食に関する文章、レコード評・映画評など、種々の雑文が紹介されていて、なかなか面白い。
中でも舌を巻いたのは、「悪態文」の項に登場する、阿部筲人の『俳句 ― 四合目からの出発』からの引用だ。
素人がオノマトペを俳句に詠み込むと得てして紋切型に陥りやすい。その迫力なく間延びした様を、「馬面俳句」と一刀両断。その小気味好さに思わずニヤリとさせられるのだが、俳句初心者の私としてはどこか身に覚えもあるので、慌てて口元を押えた。
さて、昨日宮中で催された歌会始の今年の御題は「月」だった。簡単そうで難しい御題で、試みに一つ作ってはみたものの、凡庸どころか陳腐極まりない代物しかできなかった。
下の句の七七が付くと、私が俳句でよくやる「言い逃げ」が利かない。仕方無く今年も、入選された方々の上級短歌を眺めてお正月の余韻を惜しみつつ、せめて今後の肥やしにさせていただこう。

今回の詠進歌で一番目を引かれたのは次の一首。

   弓張の月のかたぶくころほひに携帯メールはひそやかに来ぬ

下弦の月が傾いていき白々と明け始める頃、うっすらした意識の中で気付く着信音…。衣擦れのようにゆるりと歩調を合わせる速度感が絶妙な歌。
一晩中あなたを想っていたよ…と、頃合いでさり気なく伝えている相手の気持ちも憎い。

こんな光景のバックには、カサンドラ・ウィルソンの『New Moon Daughter』がしっくり来そうだ。深夜に収まりの良いジャズは数あれど、明け方に耳に優しい向きはほんの一握り。このアルバムはそんな中の一つだ。
“New Moon”は要するに新月だから、意味合い的には上の歌から少々外れる。でも、これから満ちてくる(はずの)私の詠歌・詠句生活を後押しするBGMだし…とうそぶくのだから、我ながら始末に終えない。
来年の勅題は「火」だそうだ。今から考えなきゃ。
コメント (4)
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