水の門

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一首鑑賞(100):林あまり「クリスマス劇はいつでも新しく」

2023年12月23日 10時29分28秒 | 一首鑑賞
クリスマス劇はいつでも新しく
   たとえばことし初めての雪
林あまり『最後から二番目のキッス』

 林あまりは『信徒の友』読者文芸短歌欄の選者を務めている歌人で、教会員にはその名前を見知っている方も多いに違いない。林の所属教会でクリスマスページェント(イエス様の降誕劇)の案が持ち上がった四十年ほど前、演劇部で活動していた林は教会員からお呼びがかかり、以来、台本作りや演出に深く携わることになったらしい。そしてページェントがクリスマスの恒例行事となっていくうちに、神様に喜んでいただける舞台を、また、信徒でない観客がクリスマス本来の意味を理解できる舞台を目指すようになったという(『信徒の友』2022年12月号「継承されるページェント」より)。

 ヨセフとマリヤ ステレオタイプの「夫婦」には
    したくはなくて 脚本書きつぐ

 掲出歌および上の歌は、林あまりの歌集『最後から二番目のキッス』にある連作「それでもクリスマス」から引いた。《ステレオタイプの「夫婦」にしたくはなくて》の一首からは、林がどれだけページェントに真剣に向かい合ってきたのかが伝わってくる。イエス様のご両親なら清い温かい方々だったんでしょう……と観客には他人事としてしか感じられないような「良い夫婦の見本」みたいな描き方にしたくなかったのだろう。不自然にならぬように、でも台詞の隅に人間味を漂わせる。その年々でディテールも変えて、という拘りようが結句の「脚本書きつぐ」に現れている。
 林の教会でも、コロナ禍の2020年と2021年はページェントを実施できなかったという。2022年にやっと、ダイナミックな演出は控えたミニ版ページェントの実施が叶ったようである。
 ところでこう書くと驚かれるかもしれないが、私は「降誕劇」というものは何となく知っていたが、「ページェント」という言葉を初めて聞いたのはN教会に来てからである。そして生で観たのは、2019年の【0才からのクリスマスコンサート〜えほんとおんがくのおくりもの】で、こども園の園児・卒園児の親御さんによるページェントが初めてだった。今年「こどもクリスマス会」が開催されるに当たって、ページェントは会の運営の委員会が中心になって行おうという話になり、私もいきなりだが目立つ役どころを演じた。
 こどもクリスマス会の翌日が委員会の日で、会の振り返りをした。特に、委員会外の方に役をお願いしたら小道具まで作っていただけて子ども達にも受けが良かったことや、また、台本通りに行かなかったところに配役の方の咄嗟の機転で和みの笑いが生じた場面など、とても温かい気持ちで共有できた。さらに、役は演じなかった委員が傍らに座っていて(僕の役は台詞が無い……)と嘆いた子どもに対し「立っているだけで意味がある」と励ましたり、博士役の王冠を子どもがページェント前にいじってしまって形が崩れたのを直しに来ていたり、と心安らぐ一コマがあった。台本を書き、台詞を練習し演技をするのは、ある意味、人間のわざである。でも、そうした筋書きを離れたところに、余白にこそ主の恵みが現れるんだな、ということを実感する会になったのではないだろうか。

わたしは植え、アポロは水を注いだ。しかし、成長させてくださったのは神です。ですから、大切なのは、植える者でも水を注ぐ者でもなく、成長させてくださる神です。(コリントの信徒への手紙 一 3章6〜7節)

 林の連作「それでもクリスマス」には、下の歌も含まれている。

 何人のマリヤをわたしは見送って
    冬が来るたび 年をとるたび

 園児たちは成長しいずれ卒園していってしまう。林はページェントに毎年携わり、何人ものマリア、ヨセフ、天使たち、羊飼い達、東方の博士たちを送り出していったのだろう。それは少し淋しいことかもしれない。だが、子ども達の心に蒔かれた「種」が芽を出すのがいつかは分からない。それは神様のタイミングである。私達にできるのは、見通しの立たないことに気落ちせず、いつもイエス様を見て、「植える」こと、「水を注ぐ」ことである。Aさんに働きかけたつもりが、それを見ていたBさんに神様のことが伝わって、Bさんが救われる——主の恵みとは、いつもそういう思いがけない形で実を結ぶのではないだろうか。私達が救いの計画を支配しているのではない。だから、誇れないし、誇るまい。
 新しいマリア、おいで!新しいみんな、おいで!!

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