私は山梨に来てから10年弱くらい、朝ご飯は「ヨーグルトバナナ」で済ませていた。テレビでダイエット食として紹介されていたからである。テレビに齧りついている“ヴィジュアル系”の母が、抗精神病薬で太りやすくなっていた私に「痩せなさい!」という伝家の宝刀をちらつかせて「ヨーグルトバナナ」を突きつけてきた時、特に抗う理由も無かった。
しかし2011年12月に私は右乳房にがんが見つかり、2012年1月に腫瘍を摘出。術後からしばらく集中的な治療生活に入った。治療や先々への不安から乳がんについて色々調べていくうちに、乳製品の摂取は乳がんを引き起こしやすくなると書いてあるサイトにぶち当たった。私は妊娠出産の経験も無いし体格も割と良いほうなので乳がんになりやすい体質でもあったろうし、<乳製品→乳がん>と図式化するのは決めつけが過ぎるようにも今は思うが、素因はなるべく潰しておいたほうが良いという気持ちもあったので、がん予防に良いという納豆を摂ることにし、朝食を納豆ご飯に置き換えた。
納豆の味は嫌いではないが、別の問題が生じてきた。朝の歯磨きが手早くチャチャチャッといかなくなったのである。食後の口内や口の周りのベタつき・においをきちんと除去しておかないと、おちおち外出もできない。歯磨きは個人的にメンタルを削られる作業である。どこまでやれば良いのか分からないが、適当に済ませてしまうと後で覿面にツケが回る。今通っている歯科医院は定期検診に力を入れている医院で、歯科技工士さんはフロスや歯間ブラシ、プラウト(ポイントブラシ)の使用をお勧めになり、鏡で口元を見せてくれて歯ブラシを実際に当てて、磨き方の指導もまめにしてくださった。ものぐさな私なので、一回の指導で歯科技工士さんの仰ることを呑んだわけではなかったが、乳がんが見つかった頃から三年間加入していたネットの心療相談室【アフタークリニック】のシステム開発ご担当の方が、懇切でかつ要領を押さえた歯磨きのコツ(力を入れるところと手を抜いても良いところの配分など)を教えてくださったのもあって、少しずつ私も歯磨きが上達してきた。
いつ頃から歯磨き中に意識的にBGMをかけるようになったのかは、はっきりは覚えていない。元々は、FEBC(キリスト教ラジオ放送)を聴く時間を捻出するのが案外難しく、“ながら磨き”を始めたのがきっかけかもしれない。これが定着した。苦手で億劫なルーティンは、気分を上げながらできるように工夫したほうが断然良い。柴崎友香さんが『〈シリーズ:ケアをひらく〉あらゆることは今起こる』の「励ましの歌を歌ってください」の章で、「朝起きて顔洗って歯を磨いて、夜寝る前に風呂に入って歯を磨いてがまあまあ難関やし」と書いていらして、「それな……!」と思った(柴崎さんはADHDとのこと)。柴崎さんは、こまごまとした日常の動作にインセンティブ(行動を促す「刺激・動機・励み・誘因」)が必要なんだろうなとお考えになって、英語のincentiveを調べたという。すると、原義として「…に対して励ましの歌を歌う」とあったそうだ。ADHDでない人は「風呂に入るのも顔を洗うのも服をハンガーにかけるにも出した本を棚に戻すにも歯磨き粉の蓋を閉めるときにも、脳が励ましの歌を歌ってくれる」ことを発見した柴崎さんの叙述は凄く面白く、私が長年の経験から編み出した「歯磨きBGM」の発想も意外とイケてるのかも、、と勇気をもらった。
……と前置きが長くなったが、最近の私の歯磨きBGMの話に行こう。朝は、iPhoneでFEBCを聴きながらやおら歯磨きを始めることが多い。馬力が無さすぎる時は、当blogの「マイ・ラスト・ソングス(葬式で歌ってほしい曲)」でYouTubeを流すこともある。
在宅で過ごす昼や夕食の後は、iPhoneに同期させてあるミュージック(MacBookにCDより取り込んだ下記スクショ)の曲などを流すことが最近の定番である。
歯磨きの完了までには6分くらいはかかる。よっぽど長い曲であれば一曲でも済むが、J-POPの大体の曲は5分前後なので都合上二曲くらいかけることになる。人によって音楽の好みは異なるものだし、気分がupする曲が二曲続いているアルバムを選んだり、自分なりにプレイリストを作ったりすれば良いだろう。今はYouTubeにもいいプレイリストがあるかもしれない。
やらなきゃいけないことは、なるべく楽しくできたほうが絶対いいですよね。皆さんの日常生活が小さな楽しみで満たされますように。
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