人間ドックを受けたときのこと…
いくつかの検診を済ませ、椅子にすわって採血の順番待ちをしていました。
採血台は3つあり、そのうち2つはアジュンマ(おばさん)の看護師、いちばん右は小柄でかわいらしいアガシ(おねえさん)の看護師です。
(どうせならアガシがいいな)
などと思いながら、他人の採血の様子を見るともなく見ていました。
そのとき、いちばん右の採血台でトラブルがあったようです。
「すみません。そちらでやり直していただけますか」
と言って、アガシがアジュンマのほうを指さします。
(新米なのかな?)
嫌な予感がしましたが、そのアガシが私の番号を呼びました。プライバシー保護の観点からか、名前ではなく番号で呼びます。
「今まで、採血で気分が悪くなったことはありますか?」、「アルコールでかぶれたことは?」など、お決まりの質問のあと、左の二の腕をゴムバンドで縛って、言われるがまま手を握ったり開いたり。
「ちょっとチクっとしますね」
針が刺さるところを見るのは嫌なので、横を向いて目をつぶります。
(あっ!)
アガシが小声で叫んだのを聞き逃しませんでした。
(おいおい!)
「す、すみません。針が血管にうまく入らなかったみたいなので、隣でもう一度お願いします。本当にすみません」
(しかし、2人連続で失敗するか?)
となりのアジュンマは、アガシを責めるでもなく、睨むでもなく、機械的にもう一方の腕から採血してくれました。アガシの失敗の尻ぬぐいに慣れている様子です。私は両腕に止血の絆創膏を貼られるはめに。
夕食のとき、この顛末を家族に話しました。
妻「見習いだったのね」
四女「ああいうの、実際の人間相手じゃないと、練習できないらしいよ」
犬鍋「詳しいね」
四「大学で、そういうバイトあった。大学病院の看護師さんの採血の練習台」
犬「やったの?」
四「友だちがね。私はMRIのほうをやった」
犬「MRI? もし失敗したら、命にかかわるんじゃない?」
四「まさか。でも、なんか誓約書にサインしたけど。けっこう、割のいいバイトだったよ。時給換算すると5000円以上」
犬「そっか。ぼくも練習台にされてたわけだ。じゃ、お金もらいたかったな」
大学病院のバイトと聞いて、大江健三郎の初期の作品を思い出しました。東大病院で動物実験用に飼われていた犬を大量に処分したり(奇妙な仕事)、解剖用の人間の死体を運んだりするバイト(死者の奢り)の話です。四女は読んでいないそうですが。
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