犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~初歩者タクシー

2012-02-09 23:07:08 | 韓国便り(帰任以後)

 帰りの飛行機はお昼ごろだったので、ゆっくりと朝食をとってから出発です。

 ホテルの前に止まっているタクシーは、よからぬことを考えている連中が多いので、流しのタクシーを止めました。たいていの場合、「金浦空港」と行き先を告げると、思わぬ長距離客を待たずにつかまえられたということで上機嫌になることが多い。

 ところが今回は様子が違っていました。かなり年配のアジョシは、車をあらためて脇に寄せたあと、おもむろにカーナビをセットします。

(金浦空港なのに…)

 このナビゲーターがまたうるさい。合成音声が非常に細かい指示を出す。

○○メートル先に高架道路があります。高架道路に進入してください。

100メートル先の交差点を梨大方向へ右折です。

90、80、70…。

 10メートルごとにカウントダウンするではありませんか。

5車路(=車線)の道路です。第2車線を走行してください。

 アジョシは音声に忠実に従って車線変更をします。

 ナビは漢江に出てから漢江北路を通り、ソンサン大橋を渡ることを指示します。いちばん距離の近いコースです。

 ところが橋に入るところから大渋滞が始まった。のろのろ運転をしていると、橋の真ん中で立ち往生している現代自動車がありました。渋滞の原因はこれでした。

 カーナビ、画面は詳細で音声指示も充実しているけれども、渋滞情報は反映されないらしい。これが韓国のカーナビの実力なんでしょう。

 故障車をやりすごしたあと、タクシーはオリンピック大路をスムーズに空港方面に向かいます。アジョシは相変わらずカーナビを絶対的に頼りにしている。

 空港に近づいたとき、アジョシの運転に迷いが生じました。カーナビは右の側道に行くことを指示しているのですが、道路標識は金浦空港直進となっている。アジョシ、分岐点で徐行しながらさんざん迷った末、カーナビに従いました。ところが、なんとその道は橋につながっていて、せっかく渡った漢江をもう一度北に渡ってしまったのです。

 アジョシは小声でしきりに「イサンハダ(おかしいな)」を繰り返しています。

 そのあとのカーナビは無茶苦茶でした。変な脇道を指示しては、一向に空港に近づかない。

「ちょっと道を間違えたみたいだなあ」

 アジョシは正式に間違えを認めました。アジョシ、意を決して、カーナビではなく標識を行くことにしたようです。

「初歩者(=初心者)なんで、ミアネヨー(ごめんなさい)」

 なんと、この年配のアジョシ、タクシー初心者なのでした。

 金浦空港に行き着けない初心者タクシー…。

 タクシー運転手になって間もないだけでなく、ソウルに来たのも最近なのでしょう。

 しかし、韓国のタクシー会社は、道路の研修というものをしないのでしょうか。「カーナビがあるから、それに従えば大丈夫」と言われているのでしょうか。

 ともかくも、タクシーは金浦空港に着きましたが、途中の渋滞とアジョシの迷子の影響で、ふだんなら30分で着くところが50分もかかった。フライトの1時間半前につくはずのところが、1時間10分前です。

 韓国人ならば口汚く罵っていたところでしょうが、私は人格が円満なので、そんな素振りは見せませんでした。

 ところが、これで終わらなかった。

 メーターは2万4300ウォン。私は5万ウォン札を出しました。するとアジョシ、1万ウォン札2枚と5千ウォン札を取り出した後、残りの小銭をがま口から探っている。そして、700ウォンの硬貨を選び出すと、その小銭だけを私に渡して札のほうは自分の財布にもう一度しまい込み、

「カムサハムニダ」。

 おいおい!!

「あのう、5万ウォンだしたんですけど」

 性格がいたって温厚な私は優しく誤りを正しましたが、血の気の多い韓国人だったらアジョシをボコボコにしていたかもしれません。

 とにかく、揉めてるひまはない。私はお釣りと領収書を受け取ると、長蛇の列が出来ているJALのエコノミーのカウンターに走ったのでした。

後記 あとで考えたのですが、ナビゲーターの突然の変調は、アジョシがナビゲーターに「金浦空港」ではなく、誤って「金浦空港IC(インターチェンジ)」を入力したのが原因だったようです。


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