会社の若い社員の中に日本酒のコレクターがいます。
手に入りにくいレア物を、プレミアム価格ではなく、ほぼ定価で入手できるルートをもっているらしい。特に生酒が好きで、自宅には普通の冷蔵庫以外に、日本酒(と焼酎)用の冷蔵庫を別に所持しているほどです。
彼が年末、肺炎にかかり、医者から禁酒を命じられた。しかし、その前にネットで注文していた生酒が次々と届き、飲むこともできず、冷蔵庫に入りきらなくなり、仕方なく3台目の冷蔵庫を購入したんだとか。
「犬鍋さん、飲みに来てくださいよ」
そう言われては、飲みに行かないわけにはいきますまい。仕事が終わった金曜日の夜、私他2名が彼を助けに行きました。奥さんと乳児は実家に帰し、男4人で日本酒パーティーです。
つまみは枝豆、刺身、ホタルイカ…。
とりあえずはスーパードライで乾杯。
「何からいきましょうか」
「いちばんのお気に入りは何?」
「最近ハマッているのはこれです」
最初に出てきたのは、
花見ロ万
「くちまん?」
「いえ、ろまん。会津の酒です」
梨を思わせるフルーティーな香り。新春の味わいです。
「次は佐賀の酒です」
鍋島無濾過生酒オレンジラベル
こちらも生酒らしく清々しい。
「犬鍋さんは何が好きなんですか」
「久保田をよく飲むね。万寿じゃなくて千寿だけど。去年の誕生日には娘から千寿よりいいのをもらった。たしか…」
「碧寿ですか」
「それだ」
「じゃ久保田で珍しいの出しましょうか」
「万寿?」
「いえ、それよりもレアです」
出てきたのは、
久保田純米大吟醸三十周年記念酒
「なんか、すごそうだね」
このころになると、正直、味がだんだんわからなくなってきていて、申し訳ないことです。
「このまえ、獺祭のすごい高い奴を奢ってもらったよ。一本4万円だったかな」
「獺祭なら、いいのがありますよ。お燗はどうですか」
獺祭温め酒純米大吟醸…
「へぇ、こんなのがあるんだ」
そのあとも、鳳凰美田(栃木)とか、もう一度久保田三十周年とか、とっかえひっかえいろんな酒を飲み、もはや電車のない時間に。
タクシーに乗ったことはかすかに覚えていますが、目覚めたのは自宅のベッドの上、コートを着たままでした。
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