犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

慰安婦映画『鬼郷』

2016-03-11 23:10:23 | 慰安婦問題

 『鬼郷』について検索したら、次のような新聞記事を見つけました。

[
チョン・ミナの世の中を照らすスクリーン]鬼郷(毎日新聞2月25日

十六歳のときに慰安婦強制動員された実話

慰安所の惨状を再現…14年かけて完成


 この小さな映画をめぐり奇跡が起こったと言うべきだろうか。大資本の映画がスクリーンを独占する現象は、昨日今日始まったことでない。大資本が製作し配給する映画ではなく、予算の少ない映画は、封切り初日から上映に困難がともない、そのため観客に見られることもなく、宣伝もされず話題にもならず、静かに死蔵されてしまうのが、昨今の韓国映画界の実情だ。スターが登場する大資本の映画ではなく、芸術映画、低予算映画、作家映画、多様性映画など、さまざまな呼び方をされるこうした映画は、あまり知られることなく、短期間劇場で上映されて消えていく運命をたどる。

 低予算映画、ソン・スク、オ・ジヘを除けばこれといった俳優、女優の出ない映画、慰安婦の実話を扱う映画、ドキュメンタリーを作ってきた無名監督の映画「鬼郷」は、劇場に出す前にすでに商業的に死亡宣告を受けたも同然だった。だが、現在驚くべきことが起きている。観客が「鬼郷を見よう」という運動を展開し、封切り初日の前売率が1位になったのだ。このような観客の反応は、大企業をも動かし、大型複合劇場も大挙して「鬼郷」にスクリーンを提供した。

 2016年の新年早々から繰り広げられた、韓国人にとって胸が張り裂ける国内外の状況が、「鬼郷」に関心を持たせた。2015年12月に妥結した韓日両国の慰安婦協議、日本軍慰安婦の象徴になった「平和の少女像」を守る行動、朴裕河の著書『帝国の慰安婦』をめぐる論争に続き、慰安婦映画「鬼郷」が慰安婦問題の中心的イシューとして登場している。慰安婦問題は1991年金学順ハルモニが日本軍慰安婦被害を最初に証言したことにより大衆的に広がり始めた。

 慰安婦は、植民地朝鮮が被った最大の苦痛の一つであり、現在の反日感情が続いている最大の原因でもある。しかし意外にも慰安婦を扱った作品がそれほど多くないということに驚く。ユダヤ人がアウシュビッツに関する映画や本を絶えず生みだし、歴史的悲劇を忘れまいと努力しているのと違い、韓国人は依然として慰安婦問題を扱うことに手に負えながる。主にドキュメンタリー映画として製作され、劇場映画では『サルビン江の夕焼け』(1965)、『母の名はチョセンピだった』(1991)、『音叉』(2014)、『最後の慰安婦』(2014)ぐらいだ。だが、これらの映画は大した反響を呼べず、大衆的に最も成功した作品はテレビドラマの『黎明の瞳』だ。『鬼郷』はおそらく最も成功した慰安婦物の映画になるだろう。

 映画製作から配給、上映に至るまで、日々奇跡の連続だ。チョ・ジョンネ監督は、2002年、ナムヌの家でボランティア奉仕活動をしたとき、姜日出(カン・イルチュル)ハルモニの絵、「焼かれる娘」を見て、映画を構想した。そして映画を完成するまで14年かかった。製作費を募って2014年からユーチューブやポータルサイトに予告映像を出すなど、さまざまな方法で約7万5千人から支援金を集めた。2015年12月から翌年1月まで、国内外のさまざまな地域を回って試写会を開き、涙の顛末記が記事になった末の今週、正式に封切りされた。

 第二次世界対戦当時、20万人の慰安婦女性がいたと推定されるが、238人しか帰還しなかった。 そして現在の生存者は46人だけだ。姜日出ハルモニは、十六歳のとき日本軍慰安婦として強制動員され、焼却命令によって命を落とす危機の中からかろうじて救出された。映画は、この実話をもとに、1943年、日本軍によって強制的に極寒の異国の地に連れて行かれた14歳のチョン・ミン(カン・ハナ)と少女たちを描く。少女たちは、わけもわからず暴悪な軍靴の下で、性奴隷として虐げられ、過酷な生活の中で、少女たちは存在自体でお互いに慰めあう。少女ウンギョン(チェ・リ)は、強姦されたため、1991年には半分気がふれてしまっている。故金学順ハルモニが初めて自身の被害を世の中に明かしたときだ。ウンギョンはムーダン(巫女)のソンヒ(ファン・ファスン)の跡継ぎとして育てられたが、かつて慰安婦生活をしたヨンオク(ソン・スク)に出会う。ウンギョンは夢の中でヨンオクの悪夢を見、彼女の魂を故郷へ連れ戻す宣託の儀式の準備をする。

 映画は現在、慰安婦問題をめぐって繰り広げられている様々な論争を映画の中に折り込んでいる。日本軍のために慰安所を運営した朝鮮人業者が登場し、純朴な少女だけでなく妓生も慰安所に連れて行かれたこと、強制性と自発性が混在している点も描かれている。チョ・ジョンネ監督は、一個人の劇的な人生遍歴より、戦場に設置された悲惨な慰安所の再現に重点を置いて、映画を歴史的な証拠とした。映画は現代的な表現技法を控えているが、見ている間じゅう涙が止まらない。帰ってこなかった少女がずっと多いこと、生きているハルモニの人生がいくらも残っていないこと、そして私たちがしなければならないことがあまりにも多いこと、そうした点で映画は、社会的な覚醒を起こすための大切な道具となる。映画の役割をめぐるもう一つの論争の種だ。

チョン・ミナ(映画評論家/ハンシン大兼任教授)


 「実話」と銘打っているけれど、証言者の姜日出さんは16歳のときに慰安婦になったのに、映画の主人公は14歳で慰安婦にされたらしい。この一点をとっても、この映画の誇張がわかります。

 姜日出さんは、腸チフスになったときに日本兵に殺されそうになったと証言し、腸チフスで死んだ人たちの死体を焼くところを見て、絵にかいたたそうですが、映画の中では腸チフスのことは伏せられ、戦争が終わるころに日本兵が御用済みになった慰安婦を生きたまま焼き殺そうとした、というふうに描かれているらしい。

 「20万人いた慰安婦のうち238人しか帰還しなかった」という記述は、20万人の大部分が日本軍に殺されたり、現地に置き去りにされたことを暗示しています。

 20万人は日韓合わせた挺身隊(勤労動員)の総数を誤解したものだということがわかっていますし、238人は、韓国政府に名乗り出て被害者登録された人の数。名乗り出なかった人や、名乗りでてももともと売春婦だった多くの人たちは、被害者認定を受けられなかった。この記事を書いた人がそうした事実を知りながら書いたのだったら悪質ですし、本当にそう信じているのなら勉強不足です。

 『鬼郷』はアメリカでの公開も決まったということですから、この悪質な宣伝映画が、「実話」として世界に広まる恐れがあります。

 嘆かわしいことです。


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6 コメント

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Unknown (その日暮らし)
2016-03-17 19:44:30
そもそも、彼らは慰安婦の大半が日本女性で朝鮮女性は一部だったという事実すら知らないですよ。
彼らの頭の中では、日本軍慰安婦は全て朝鮮から拉致された初潮前の少女達でその人数が20万人です…。

その朝鮮半島では日本軍への志願者が大勢居て、軍属としても大勢働いていたわけです。
これは不思議とよく知られた事実だそうで…。
矛盾を感じないんでしょうか?
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これ、ホントですかね (サトぽん)
2016-03-19 21:47:12
>名乗りでてももともと売春婦だった多くの人たちは、被害者認定を受けられなかった

ソースきぼんぬです。
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志願兵 (犬鍋)
2016-03-21 23:24:18
洪思翊が有名ですね。でも、現代の韓国人に知られているのかどうかはよくわかりません。

http://blog.goo.ne.jp/bosintang/e/d31e9f99b639dd43ae1cf00895408e6d
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被害者認定 (犬鍋)
2016-03-21 23:36:16
1992年に韓国政府が受け付けた「被害申告」の対象は、「女子挺身隊、女子愛国奉仕隊などの名で連行され,日本軍慰安婦生活を強要された人」でしたから、もともと売春婦だった人、自ら進んで慰安婦になった人は対象外でした。そして、集まった61証言のうち、発表されたのは13証言のみ。ソースは当時の韓国の新聞です。以前はKINDSだったか、韓国の主要紙の統合検索ができるデータベースがあったのですが、今はなくなったので探しにくいかもしれません。

http://blog.goo.ne.jp/bosintang/e/83d83a0158c1601b8749ea7bdcf8cec3

「強制連行」が条件なので、被害認定を受けるために、それらしい話を創作して証言した人が多かったんでしょう。

現在の被害申告受付は女性部が行っているようですが、被害認定の基準は発表されていないのでわかりません。キーセン出身の金学順さんや文玉珠さんが認定されているところを見ると、前職を問わないのかもしれません。
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妓生その他 (サトぽん)
2016-03-22 01:21:09
>女子挺身隊、女子愛国奉仕隊
よくワカンナイのですが、これらの名称は、制度の名ではなく「名目」ですから、前職が「売春従事者」とかは関係ないと思いますよ。戸井昌造の「戦争案内」によると、彼が在学していた時の早稲田高等学院には、「挺身隊」ってのがあったそうです。で、妓生は芸者のようなもの(乱暴ですがね)で、公娼制度が日本から移植されてからは、はっきり娼妓とは別物として扱われましたので、「売春婦」ではないです。「売春」が公許されるためには、娼妓鑑札が必要です。モグリとしても、毎日、不特定多数に体を売るとしたら、これは私娼に分類されます。

「半島女子勤労挺身隊」は、若年層の労働力確保が目的でしたから、これだけに絞ったとしたら、分かってる例としては姜徳景さんくらいしか該当しませんね。

文玉珠さんは、満州に連行されて慰安婦にさせられて帰郷してから、妓生学校に通ってますんでね。金学順さんに至っては、バージンですから、前職をうんぬんされてもってところでしょう。

で、映画「鬼郷」については、私もブログで書きました。http://satophone.wpblog.jp/?page_id=773(引っ越ししてます)。こちらにもリンク貼らせて頂きましたので、その報告も兼ねて、書き込みさせて頂きました。

いや、こんなこと書くと怒られちゃうんだろうけど、面白そうな映画だと思いますよ(笑)。
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姜徳景 (犬鍋)
2016-03-28 23:09:32
挺身隊から逃げ出して拉致されたと証言していますね。「挺身隊の名のもとに連行」とは違う気がします。

文玉珠さんの満州の話は、森川さんも裏をとるのをあきらめています。疑わしいと思いますが。

金学順さんはキーセンとしての最初の就職先が慰安所だったんですね。
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