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犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

犬鍋が禁止される?

2021-10-20 17:32:18 | 韓国雑学
 韓国には、伝統的に犬肉を食べる食文化があります。ところが、この食文化に対する風当たりが強くなっています。

「犬鍋」をペンネームにしている私としては、複雑な心境です。

 きっかけは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の発言です。先月、文大統領が金富謙首相に「もう犬の食用禁止を慎重に検討する時が来たのではないか」と話し、それを大統領府報道官が発表したのです。

 ちなみに文大統領は愛犬家として知られ、3年前に北朝鮮の金総書記から贈られたペアの豊山犬(韓国固有の犬種)を含め、複数の犬を飼っているそうです。

 韓国では、夏の暑い盛りに、夏バテを防ぐため、サムゲタン(参鶏湯、若鶏が丸ごと一羽入ったスープ)、チュオタン(鰍魚湯、どじょう汁)などと並んで、ポシンタン(補身湯、犬肉スープ)を食べる人が多かった。過去形にしたのは、今は補身湯を食べる人が少なくなったからです。

 しかし、この食文化は外国、特にイギリスから「野蛮だ」という指摘を受けてきました。韓国は、「先進国」の目をとても気にする国柄なので、国際的はイベント、たとえば88年ソウルオリンピック、2002年日韓共催ワールドカップ、2018年平昌オリンピックなどがあるたびに、メディアなどで犬肉食の是非が問われました。

 そして、犬を食べさせる店の名前を変えさせたり、目立たないところに移転させたりしてきました。

 私が韓国にいた2000年前後には、もはや「ポシンタン(補身湯)」という看板は見られなくなっていて、サジョルタン四節湯)」ヨンヤンタン栄養湯)」などと呼ばれていましたが、内実は同じ、犬肉スープです。

 そのころはまだ、「補身湯は韓国伝統の食文化だ、外国人がとやかく言うことではない」と憤慨するハラボジ(おじいさん)が結構いました。しかし、その後、犬をペットとして飼う人が増え、犬肉食に目を顰(ひそ)める人が、韓国にも増えました。

 アメリカの動物保護団体が行ったアンケート調査によると、回答対象になった韓国人の約8割が「犬肉を食べたことがない」と回答したそうです。

 犬肉食に関しては賛否両論があります。動物保護団体は反対し、犬肉生産団体は当然ながら擁護します。

 以下は、「アジア経済新聞」に載った記事です。

9月29日付アジア経済(リンク

文大統領の「犬の食用禁止検討」指示に、育犬協会は「妄言だ」と反発

育犬協会「犬肉は、キムチのようにグローバル化が可能。国が国民の食べ物を管理すべき」

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が犬の食用禁止検討を指示したことが伝えられ、大韓育犬協会が「妄言だ」と激しく抗議した。

 チュ・ヨンボン大韓育犬協会事務総長は29日朝、CBSラジオの「キム・ヒョンジョンのニュースショー」に出演し、「数百億ウォンの後援金を集めるために偽装した動物保護団体の嘘にだまされ、政治家もだまされ、国民もだまされ、今では大統領までだまされて、誤った結果が導かれようとしている」と、次のように語った。

 チュ事務総長は、犬の食用について、「長い歴史のある文化だ」、「食用犬は家畜法ができた当初から今まで一貫して家畜であり、その肉は畜産物だった。もっぱら食用の目的で食用犬を品種改良し、発展してきた。今では専業で飼育されており、世界で唯一の、誇らしいわが国の文化だ」と語った。

 さらに、「以前は、キムチのふたを開けると外国人はみな逃げていったが、今では世界ブランド化した。同じように犬肉もグローバル化が可能だと確信している」、「最高級動物性タンパク質であり、人類の食糧難を解決する唯一の代案が犬肉だと思う」とも語った。

 犬の食用に賛否両論があることについて、チュ事務総長は「食用犬と愛玩犬を別々に管理すればすべての問題は解決する。それをいっしょくたにするから問題になる」、「(今は)食用犬だけを食べており、それを個別に管理すればいい」と述べた。

 いっしょに出演したチョ・ヒギョン動物自由連帯代表は、「現職の大統領に犬の食用問題について認識いただき、歓迎の意を表したい」、「育犬協会の事務総長がおっしゃった、「嘘にだまされた」というのは同意できない話だ。これは市民運動であり、社会正義が確立される過程で、動物保護運動が付随してきたものだ。その運動の正当性をしきりに否定しようとしているが、そんなふうに社会を完全に欺すなどというのは、事実上不可能だ」と反駁した。

 さらに育犬協会が、犬肉をグローバル化できると言ったことについてチョ代表は、「これまで、けっして堂々としていられなかったために、多くの有名人や社会的に責任ある人々が、自分が犬肉を食べても、犬肉を食べると言えなかった」、「犬はすでに世界的に、そして国内においても、人間の伴侶としての地位に変わった。このような存在が、工場式システムで飼育され、残酷にされ、そして食卓に上るなら、感情的な衝突が起こる」と語った。

 一方、チュ事務総長は、「すべての犬を食用にしているわけではない」、「食用犬と愛玩犬をまず区別すべき。そして国民の食べ物の衛生管理がなっていない。43年間、国民の食べ物の衛生管理を放任した職務放棄に対し大統領が謝罪し、そして国民の食べ物を安全に管理すべき」と強く求めた。


 チュ事務総長は、「世界で唯一の、誇らしいわが国の文化だ」といいましたが、犬は中国やベトナムでもたくさん食べられていますから、これは言いすぎですね。

「犬肉が最高級動物性タンパク質で、人類の食糧難を解決する」というのもどうでしょうか。昔は農家が残飯で育て、必要に応じて食べていました。身近で手軽で安価な食肉だったわけです。2000年頃には、すでに牛肉と変わらないほど値段が上がっていましたが、「最高級」というのは言い過ぎです。このような極端な言い方をすると、ますます支持が得られなくなるでしょう。

「43年間、国民の食べ物の衛生管理を放任した」というのは、1978年の畜産法改正で、それまで畜産物の一つとして認められていた犬肉が畜産物から除外され、犬の飼育、屠畜、犬肉の流通に関する規定がなくなったことを指します。生産者たちは、元のように犬肉を畜産物として認め、きちんとした管理をすることを求めています。

 チュ事務総長は、同じ番組で、「犬の虐待は農場で起きているのではなく、すべての虐待は愛玩犬(ペット用の犬)に対して起きているのだ」とも語ったそうです。

 ペットとしての犬の扱われ方も、過去に何度も取り上げられており、当ブログでも紹介したことがあります。

愛玩犬残酷物語リンク)。

 仮に、犬肉食禁止法ができたとしても、一部の犬肉好きの人々は陰に隠れてさまざまな方法で食べ続けるでしょう。これは性売買にも言えることですが、陰で非合法に続くより、合法化してきちんと管理するほうが、問題は少ないのではないかと思います。

 余談ですが、北朝鮮では、犬肉を「甘い肉」と称し、国営テレビの料理番組が取り上げたりしているそうです。逆に、金正恩総書記は昨年、「愛玩犬を飼うのはブルジョアだ」として犬をペットにすることを禁じ、韓国のメディアは「平壌中のペットの犬が、犬肉食堂に売り払われた」と報じました。文大統領は、北朝鮮にラブコールを送り続けていますが、もし文大統領の指示で犬食が禁止された場合、金正恩総書記はどんな反応をするんでしょうか。

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2 コメント

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シェアさせて頂きます (skanno)
2021-10-21 12:27:23
犬肉食に対する「北」の現状も知ることができて、大変面白い投稿でした。ムンムンは今回は「北」に忖度しないのでしょうか。シェアさせて頂きました。有り難うございました。
返信する
北の犬肉食 (bosintang)
2021-10-21 21:28:44
ありがとうございます。
北の情報は少ないし、信頼性も欠けますが、元記事も翻訳紹介します。
返信する

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