ゴールデンウィークの最後に訪韓した岸田首相は、5月7日の夜、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と、会食したそうです。
会食は、漢南洞の大統領公邸で行われ、岸田夫人と尹大統領の夫人の金建希(キム・ゴンヒ)女史もいっしょだったということです。
報道によれば、晩餐のメニューは、「伝統料理」のクジョルパン、チャプチェ(春雨炒め)、カルビチム(韓牛カルビの蒸し料理)、プルコギ(焼き肉)など。
酒は、韓国の伝統酒「慶州法酒」が提供されました。
クジョルパンというのは、韓国の宮廷料理といわれています。八角形の漆塗りの木器に8種類のおかずが並べられ、真ん中の丸いところに積まれている薄いチジミにおかずを巻いて食べる料理。
私は、ソウル滞在中に「韓国の家」(韓国の伝統舞踊を見ながら韓定食が食べられる観光施設)で食べたことがあります。
また、その独特の形の器はおしゃれなので、帰国時に買い求め、日本でときどき使っています。
ところで、韓国の新聞の日本語版では、クジョルパンを九折坂と漢字表記していました。見慣れないので調べたところ、クジョルパンには「九折坂」と「九節板」の二通りの漢字表記があるようです。
標準国語大辞典は「九折坂」を、民族文化大百科事典は「九節板」を採用しています。
「九折坂」というのは日本語の九十九折り(つづらおり)と同じで、「うねうねと折れ曲がる山道」のこと。この料理の名前としてふさわしくない気がします。
「九節板」は、民族文化大百科事典によれば、料理を入れる器の名前。真ん中の丸いところを含めて、9つに分かれた「板」ということでしょうから、なるほどと思います。
朝鮮王朝の由緒正しい宮廷料理ならば、当時の文献(すべて漢文で書かれていた)を見ればいいはずですが、やはり民族文化大百科事典によれば、「調理法は1930年代以降の文献である『朝鮮料理法』、『朝鮮料理学』、『伊蔵宮定料理通告』などに記録されており、それ以前の文献には見られない」のだそう。
こうなると、「宮廷料理だった」というのがそもそも怪しい。
まあ、韓国の食堂は、10年続くと「伝統」を名乗りますから、100年前からあった九節板は、文句なしの伝統料理なんでしょう。
慶州法酒のほうも、ソウル駐在時、たまに飲みました。
韓国で米の酒は濁り酒のマッコルリが一般的で、清酒となると「清河」(チョンハ)と、「慶州法酒」ぐらいしかなかったと記憶します。
岸田さんに供されたのは、慶州法酒の中でも「超特選」。米を21%まで磨いた特別な酒なんだそうです。「獺祭2割3分」を上回る磨き方ですね。
中央日報によれば、慶州法酒が外交舞台に初めて登場したのは、朴正煕時代。1974年に訪韓した米国のフォード大統領との晩餐会に出されたとのこと。
当時、韓国では食糧不足のために米で酒を造ることを禁止していたため、韓国には、米から作った酒は密造の濁り酒(マッコルリ)しかありませんでした。
朴大統領は、1972年に、外国からの賓客にも出せるような酒を造ることを命じ、政府は、慶州大邱地域の焼酎メーカーのクムボクチュに開発を依頼して、慶州法酒を開発したそうです。
つまり、慶州法酒は「50年の歴史を持つ伝統酒」なのでした。ちなみに、「超特選」の発売は2010年4月。
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