犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

辞書の話~国語辞典

2008-01-16 00:06:18 | 辞書の話
 日本で国語辞典と言えば,一般的には「広辞苑」のステータスが高い。

 昔、広辞苑第4版が売り出されたころ結婚した友達が、結婚式の引出物に広辞苑を配った。あまりにも重いため友人の間でえらく不評を買っていました。幸い私は呼ばれていませんでしたが。

 でも,日本には広辞苑以外にも,たくさんの優れた国語辞書があります。数年前に全面改訂された浩瀚な日本国語大辞典(小学館全14巻)は別格として,広辞苑のライバルが三省堂の大辞林
 個人的に私は広辞苑より大辞林のほうが好きです。現代語が充実しているし,アクセント表示もある(韓国人に,日本語の標準的な発音を聞かれたときは,この大辞林か,やはりアクセント表示がある新明解国語辞典を引きます)。

 また講談社の日本語大辞典は,フルカラーで百科項目が充実。動植物の写真が豊富なのが嬉しい。主要な語には英訳が付されているので,和英辞典としても使えます。

 これら,大型の辞書以外に,小型辞書も百花繚乱。

 外国人から日本語の文法について聞かれたときに,まず参照するのは,集英社の国語辞典。日本語教育学の人々が中心になって編纂しているので文法面がくわしい。

 ただ,なんといっても読んで面白いのは「新明解国語辞典」(三省堂)です。主幹山田忠雄の個性が光る語釈(→リンク)が売り物で,第四版を俎上に載せた「明解さんの謎」などという本も出ました。

 同じ三省堂の「三省堂国語辞典(三国)」は,地味ですが玄人好み。主幹,見坊豪紀は,生涯を辞書編纂のための用例採集に捧げたワード・ハンター(言葉の狩人)として有名です。

 その点,韓国の国語辞典はバラエティーに乏しい。数はそれなりにあるのですが,何回も改訂を重ねた歴史のある辞書は少ない。すでにある辞書からの孫引きで,コンパクト版をでっちあげるという手法も多い。辞書づくりという地道な仕事は,性格的に合わないのでしょうか。

 見坊豪紀は自身のワードハンティングについて記した著書『ことばの海をゆく』(見坊豪紀、朝日選書、1976年)で次のように書いています。

「まずことばがあって、次に辞書がある、べきである。まず(複数の)辞書があって、次に(単数の)辞書があるとき、人はこれを「ノリとハサミの産物」と呼ぶ。しかし、主としてノリとハサミにたよる辞書というものは、世間が思うほど多くない。このことは私の経験と観察に照らして、あまりまちがわないと思う。すくなくとも、名の通った国語辞書はそうである、と私は思っている」

 見坊の言う「ノリとハサミの産物」は、『新明解』初版(71年)序文では、山田忠雄により「パッチワーク」「芋辞書」と呼ばれています。

「先行書数冊を机上に広げ、適宜に取捨選択して、一書を成すは、いわゆるパッチワークの最たるもの、所詮、芋辞書の域を出ない」

 山田が、世に「芋辞書」が多いと見ていたことは、他の版の序文などからもうかがえます。

 見坊と山田は辞書観の深刻な対立から袂を分かちましたが、こんなところにも見解の相違が表れているようです。

 韓国には、「ノリとハサミの産物」「パッチワーク」が今でも多い。これは韓国の出版界の長老(→リンク)から直接聞きました。

 今年完結が予定されている「漢韓大辞典」が壮大なるパッチワークではないことを祈ります。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
週刊文春に (スンドゥプ)
2008-01-30 09:28:45
広辞苑第六版についての記事がありました。
言葉の選択などについていろいろなルールがあるようですね。
返信する
最近は (犬鍋)
2008-01-30 23:00:54
広辞苑をまったく引かなくなりました。

手持ちの電子辞書は大辞泉。
ネットで使うのも大辞泉か大辞林。
家では三国または新明解。
返信する

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