2017年に刊行されて芥川賞候補になった、温又柔(おん・ゆうじゅう)さんの『真ん中の子どもたち』を読みました。
著者の温又柔さんは、1980年台湾生まれ。3歳のときに東京へ移住。台湾語混じりの中国語を話す両親のもと、日本で育ちます。
小説の主人公は、著者の分身ですが、著者とは違って、父親が日本人、母親が台湾人、本人は日台のハーフという設定になっています。
母語とアイデンティティーの問題をあつかっていて、同じテーマのエッセイ『台湾生まれ、日本語育ち』(2016年、白水社)で日本エッセイスト・クラブ章受賞。
主人公、琴子の生まれたときの母語は、台湾語混じりの中国語(台湾國語)。4歳以降、日本語に浸って育ったので、大人になってからもっとも得意な言葉は日本語になります。
大学生のとき、思い立って、母のしゃべっていた「中国語」を習得するために、上海に語学留学。
そのときの出来事が綴られます。
上海の中国人からは、
「母親が中国人なのに、中国語が下手だね」
「母は台湾人です」
「台湾とか、中華民国なんて言う国は存在しないよ」
などといわれる。
母がしゃべっていた台湾語は、中国語の方言だが、中国では通じない。一方、母が台湾の学校で習った「國語」は、中国語だが、大陸の人たちからすると「南方なまり」の中国語。
でも、そんなことを言う「中国人」の母語は「上海語」だったりするわけですが…。
一方、日本人からは、「ハーフ」と呼ばれ、「純粋な日本人じゃない」などと言われる。
上海の学校で知り合った留学生のうち、女友達は、父親が台湾人で母親が日本人、だけど家庭内は中国語だった。もう一人は、(著者のように)両親とも台湾人だが、日本生まれの日本人という設定です。
お互い、同じような悩みを抱えるが、微妙にちがったりもする。そこに恋愛感情がからんで、小説らしいドラマが展開します。
私が韓国に駐在中には、高校の修学旅行でパスポートをとったとき、自分が日本人じゃなくて「在日」であることを知り、大学生になって「自分探し」の韓国留学に来ている若者に会ったこともあります。
韓国飲み屋事情~秘密バー
ところで、今や差別語として日本では避けられている「あいのこ」という言葉が、そのまま台湾でも使われているということを、この小説で知りました。
日本の植民地時代に、「混血児」の意味で使われていた日本語が、そのまま台湾語の中に定着したもの。
私が20年以上前に韓国にいたとき、娘たちが通う日本人学校にも「あいのこ」がたくさんいました。もちろん「あいのこ」とか「混血児」は使用禁止。「ハーフ」も「半分」という否定的なニュアンスがあるので、「ダブル」とか「ミックス」という言葉が推奨されていました。
小説に戻ると、主人公は、後半になって、「あいのこ」が「愛の子」と通じることを思いつき、ハーフであることを否定的にではなく肯定的に捉えようとします。
実は私の家族にも2人の「愛の子」がいます。一人は父親がフィリピン人、もう一人は父親がスウェーデン人。
両親は、「愛の子」たちが、バイリンガル、トリリンガル(トライリンガル)になることを望んでいますが、うまくいくかどうか。将来、血統と言語による「アイデンティティークライシス」で悩むことがないように願っています。
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