犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

北口榛花選手とチェコ語

2023-09-13 22:57:18 | 日々の暮らし(2021.2~)

 この夏は、女子サッカーワールドカップ、男子バスケワールドカップ、世界陸上ブダペスト大会などが目白押しでした。

 世界陸上で、地味な競技ですが、女子やり投げの決勝は、たまたまライブでテレビ中継を見ていました。

 5投目を終えて63メートルで3位につけていた北口榛花選手が、最終6投目に66m73を投げて、逆転の金メダルに輝いたシーンは感動的でした。日本女子のトラック、フィールド種目の優勝は、五輪、世界選手権を通じて史上初の快挙だそうです。

 会場も、大歓声に沸きました。

 ブダペスト(ハンガリー)の大会で、なぜ日本人選手を応援する観客が多いのか?

 実は、北口は5年間、やり投げ強国のチェコで練習をしてきた。今回、チェコ選手はファイナルに残れなかったので、北口をチェコ選手の代わりに応援したチェコ(ハンガリーの隣国)の観客が多かったらしいのです。

 北口榛花について、くわしく報道されている記事(Number WEB 2022年8月22日2023年9月5日)を読みました。

 この記事によると…

 北口榛花が陸上を始めたのは、北海道屈指の進学校である旭川東高校に入学してから。高校3年のとき、2015年世界ユース選手権優勝。大学は日大に進むが、コーチが不在。2018年のフィンランド武者修行で、チェコ人コーチのデービッド・セケラック氏と出会った。2019年2月、単身でチェコへ渡り、セケラック氏の指導を受けるようになった。2019年世界選手権は予選落ち、2021年の東京五輪は決勝に進むも12位だったが、2022年の世界陸上(オレゴン)では銅メダル。

 セケラック氏は、「やり投げ王国」のチェコでは無名のコーチ。練習拠点は首都プラハから遠く離れたドマジュリツェという田舎町で、指導する選手はジュニアの選手が多い。

 北口は、「シニアの技術はまだ自分には早いと思った。まずジュニアとしての大事な基礎を教えてもらいたかった」と考えて、セケラック氏に師事した。

 北口は持ち前の「明るい性格」で、言葉の壁や文化の壁を乗り越えた。難解と言われるチェコ語も努力を重ねて習得し、出されたチェコ料理もなんでも食べた。ドマジュリツェの街にすっかり馴染み、町の人々にもその存在を知られ、チェコ選手と同じように応援してもらったそうだ。

 コーチの奥さん、息子さん、娘さんとも親しくなり、「家族の一員」のようになった。

 北口がチェコで愛されるのには理由がある。あるチェコ人記者は今回のゲームのあとこう語った。

「3年前に初めて彼女に会った時、チェコ語をほとんど話せず、コーチとのやりとりも英語だった。チェコ語はアジアの人たちにとっては本当に難しい言語なので、今日チェコ語でテレビのインタビューに答えているのを見て、本当に驚いた」

 チェコ人記者は早口のチェコ語で北口に質問をたたみかけたが、北口はそれらを聞き取り、時折、笑いを交えながら 、一つ一つ真摯に、そして流暢なチェコ語で答えていたそうだ。

(記事の抄訳は以上)

 チェコ語といえば、故千野栄一氏を思い出します。

 千野氏はチェコ語が専門の言語学者。30年以上前に、ある出版企画の打ち合わせで数回お会いしたことがあります。当時、東京外大教授で、朝日カルチャーセンターでも一般の人たちを相手にチェコ語を教え、レッスン後は新宿の「ライオン」というビヤホールでビールを飲むのが恒例だったとのこと。

 私は氏の書いた言語学エッセイの愛読者で、当ブログでもたびたび引用してきました。

 そのうちの一つが、

日本人にとって易しい言語、難しい言語②

 千野氏は『言葉の樹海』(青土社、1995年)で、チェコ語を(アラビア語、ロシア語などと並んで)「日本人にとって大変難しい言語」と位置づけています。

 私はチェコ語を勉強したことがないのでどれほど難しいかわからないのですが、同じ語族の「ロシア語」の難しさは、毎週、身に沁みています。

 北口選手が5年でチェコ語を流暢に操れるようになったのは、「明るい性格」に加えて、「努力を重ねた」からでしょう。

 なお、北口選手はブダペストの世界陸上に続く、9月のダイヤモンドリーグ(DL)第13戦(ベルギー・ブリュッセル)で、自身の持つ日本記録を更新する67メートル38の日本新記録で優勝。

 チェコ人選手が持つ世界記録(72メートル28センチ)の更新も夢ではありません。今後、更に飛躍することを願っています。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ついに突破、外免切り替え | トップ | 森有礼と矢田部良吉 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日々の暮らし(2021.2~)」カテゴリの最新記事