ちょっと朴正煕をほめすぎたので,否定的な話もしておくと……。
彼の行った不正選挙は相当なものですね。
韓国人の知り合いで,年のかなり離れた兄が兵役で軍隊に入っているとき,ちょうど朴大統領の再選のときに投票をしたらしい。
上官が来て,
「これから選挙をする。朴正煕に投票する者は手を挙げろ」
(みな,手を挙げざるをえない)
「よし,全員だな。じゃあ,私が代表して投票しとくから」
こんな感じだったようです。
結局,晩年は権力にしがみつき,退き際が潔くなかったから,腹心に射殺されるという悲劇を招いたけれど,彼の見るところ,民主化勢力の中に国家運営を任せるにたる有能な人物が見いだせなかったからじゃないのかなという気がします。
また,朴正煕時代の雰囲気を伝える文章を一つ。四方田犬彦『大好きな韓国』(NHK人間講座テキスト、2002年)から、朴正煕時代の風景。
大学にはKCIAらしき人物が配置されていて、キャンパスでは私服刑事が学生の動向を見張っていた。学生達はデモを禁止されていたが、タルチュム(仮面舞踏)の上演会だという口実で人を集めた。結婚式だといつわって明洞のカトリック教会に人を集めてデモを行い、たちまちのうちに逮捕された。ソウル大学の長い藤棚の階段をターザンの真似をして、白紙を配りながら走る学生がいて、ただちに階下で刑事に連行されたが、もっていたのが白紙だったので、何も罪に問われなかった。学生は刑事達をあざけるように笑いながら、去っていった。このとき、白紙のビラは何よりも強いメッセージをもっていた。
深夜12時から朝の4時までは夜間通行禁止令が敷かれ、違反者は警察に留置された。夜に酒を呑みに行っても、12時までにちゃんと酔っ払って帰るには夕方から一気呑みをせねばならず、誰もが落ちつきなく急いで酒を呑んでいた。
日本人の観光客は中年男性ばかりだった。買春が目的でソウルまでやってきた男達は、観光名所の前で下品に笑いながら昨晩の「戦果」を大声で話していた。
野党と与党の対立が深まり、金泳三議員の資格が剥奪された。馬山や釜山で反政府デモが行われ、少なからぬ数の人間が軍隊によって殺されていた。
新聞にはこの国でいま何が起きているのか、まったく記されていなかったので、日本のTVを傍受した者からの情報を、みな口コミで共有していた。東亜日報は、検閲を受けて削られた記事の部分を白紙で、あえて出した。
朴正煕の死を聞いて、学生の一人はせいせいしたといった。もう一人は、いつ北が攻めてくるかわからないから怖いといった。開放感と虚脱感、不安と安堵が同時に襲ってきたようだった。
彼の行った不正選挙は相当なものですね。
韓国人の知り合いで,年のかなり離れた兄が兵役で軍隊に入っているとき,ちょうど朴大統領の再選のときに投票をしたらしい。
上官が来て,
「これから選挙をする。朴正煕に投票する者は手を挙げろ」
(みな,手を挙げざるをえない)
「よし,全員だな。じゃあ,私が代表して投票しとくから」
こんな感じだったようです。
結局,晩年は権力にしがみつき,退き際が潔くなかったから,腹心に射殺されるという悲劇を招いたけれど,彼の見るところ,民主化勢力の中に国家運営を任せるにたる有能な人物が見いだせなかったからじゃないのかなという気がします。
また,朴正煕時代の雰囲気を伝える文章を一つ。四方田犬彦『大好きな韓国』(NHK人間講座テキスト、2002年)から、朴正煕時代の風景。
大学にはKCIAらしき人物が配置されていて、キャンパスでは私服刑事が学生の動向を見張っていた。学生達はデモを禁止されていたが、タルチュム(仮面舞踏)の上演会だという口実で人を集めた。結婚式だといつわって明洞のカトリック教会に人を集めてデモを行い、たちまちのうちに逮捕された。ソウル大学の長い藤棚の階段をターザンの真似をして、白紙を配りながら走る学生がいて、ただちに階下で刑事に連行されたが、もっていたのが白紙だったので、何も罪に問われなかった。学生は刑事達をあざけるように笑いながら、去っていった。このとき、白紙のビラは何よりも強いメッセージをもっていた。
深夜12時から朝の4時までは夜間通行禁止令が敷かれ、違反者は警察に留置された。夜に酒を呑みに行っても、12時までにちゃんと酔っ払って帰るには夕方から一気呑みをせねばならず、誰もが落ちつきなく急いで酒を呑んでいた。
日本人の観光客は中年男性ばかりだった。買春が目的でソウルまでやってきた男達は、観光名所の前で下品に笑いながら昨晩の「戦果」を大声で話していた。
野党と与党の対立が深まり、金泳三議員の資格が剥奪された。馬山や釜山で反政府デモが行われ、少なからぬ数の人間が軍隊によって殺されていた。
新聞にはこの国でいま何が起きているのか、まったく記されていなかったので、日本のTVを傍受した者からの情報を、みな口コミで共有していた。東亜日報は、検閲を受けて削られた記事の部分を白紙で、あえて出した。
朴正煕の死を聞いて、学生の一人はせいせいしたといった。もう一人は、いつ北が攻めてくるかわからないから怖いといった。開放感と虚脱感、不安と安堵が同時に襲ってきたようだった。
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