前回の話は、こちらから → → 電話帳で一大事 (上)
(それでは、続きを・・・)
業務部長がしきりに謝っていたのは、
「 工事をやってないお宅に、間違って請求書を送ってしまったことのお詫び」だったのだ。
しかし、間違ったのは俺じゃないはず。
二日前のことになる。
常務に「請求書の送り先の住所をしらべて出してくれんね」とバインダーノートを渡された。
それは工事部長と私でまとめた未請求一覧を、常務が工事台帳として転記したものだった。
台帳には邸名、住所、電話番号、工事明細や金額、請求書の発送状況、集金の状況までが書き込まれていた。
そのページの一つに、「渡海 〇〇」と名前が書かれていた。
じげもんなら知っておられるかもしれない、この渡海という名字は新城に多い名字なのである。
私は常務に「渡海〇〇さんは新城ですか?」と尋ねると、常務は「そうよ」と答えた。
渡海〇〇さんは、既客では無かった。台風被害補修工事が初めてのお客様だったようだ。
そこで、私は電話帳を取り出し、渡海〇〇さんを探した。
渡海〇〇という名を見つけ、そこに記された住所が新城と呼ばれる地域だったので、
間違いないとその住所を封筒に書き込んだのである。
記憶では電話帳に同姓同名はいなかったはずだ。
間違っていたとすれば、それは両工事部長か、常務の方ではないのか。
名前を間違って転記してしまったんじゃないのか?
そう思ったのだが、それは言えなかった。
まぁ、普通ならお菓子を携えて、お詫びに出向いて請求書を回収してくることで、一件落着しそうなものだが、
その送付先が、新城だったのが運が悪かったようだ。(決して新城の皆さんを侮辱するものではありません。ご理解ください)
新城は現在の杭出津一丁目で、猟師町である。
間違ったイメージかも知れないが、猟師町とくれば” 男も女も気が荒いとよく言われるのを皆さんもご存じだろう。
業務部長の話では、
●修繕工事なんかやってもらったことが無いのに、いきなり請求書を送りつけるとは何事か!と激怒されている。
●責任者を今すぐ、家によこせ!とおっしゃっている。
●先方(渡海〇〇さん)はお酒を飲んでいるようだ(電話が入ったのは、午後2時頃だったと思う)
との事。
業務部長は私の方へ歩み寄り「友〇くん、これでお菓子を買って今すぐ行ってきてくれんね」と2千円を手渡した。
”えっ、責任者に来いって言わしたとじゃなかと?”と思ったが、
2千円は業務部長が自身の財布から出してくれたので、部長から
”本来なら、私が行くべきところかもしれんが・・・すまん、お菓子代は俺が負担するから、替わりに行って来てくれ”と暗黙の了解を取られたような感じだった。
”う~ん、俺が調べて封筒に住所を書いた訳だから仕方ない、行かざるを得ないか。”
「はい・・分かりました・・行ってきます」
女性事務員の皆は、間違った先が新城だけに顔が引きつっている。 心配そうな、気の毒そうな顔でこちらを見ていた。
”聞いた内容では相手は相当激怒しとらすらしい。おまけに(昼間から)お酒を飲んどらすとやろ~、しかも、悪いことに(漁師町の)新城かよ~”
異人堂へ車を走らせ、お菓子を買った。
渡海さん宅の近くの道端に車を駐車したものの、
”行きたくね~よ~”だった(当時33歳)
私は怖かったのである。
この気持ちをご理解いただけないかもしれない。
しかし、私にとって新城とはそういうところだったのである。
お菓子の入った袋を掴み、意を決して車を降りた。
私はつぶやきながら玄関先まで進んだ。
「殺されは、せん・・・殺されは、せん・・・殺されは、せん」
怒鳴りつけられることは必至、たとえ殴られても、殺されることはない、と自分に言い聞かせながら進んだ。
玄関引き戸の前に立ち、もう一度 ”殺されはせん”
呼び鈴を押し、引き戸を開けた。
「ごめんください。〇野〇建です」
「おう、〇野さんか。あがらんね」と部屋の奥からご主人の声。
玄関へ入り、障子の引き戸を恐る恐る開けた。
続く・・・。
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