今回は、江戸時代の日本の堆朱です。
かなり年季のはいった、小さな桐箱に入っています。
ボロボロの薄絹布に包まれていたのは・・・
小さいながらも凛としたたずまいの品です。
10.0㎝ x 11.7㎝、高 8.4㎝。江戸中期。
2段の箱の高さは、上段3.2㎝、下段4.0㎝で、下段が少し高くなっています。
木箱の蓋、側面を削り模様をつけて、その上に朱漆が塗ってあります。
内側、底は黒漆塗りです。
かすかに木目が見られます。
箱の裏には、明和7年(1770)に、伊勢国、栢禪和尚から賜った、と記されています。
四方の彫りを、左回りに見ていきます。
少し斜めから見ると、彫りの様子がよくわかります。
彫りの深さは、上面が1-2㎜、側面、2-3㎜です。
この品は、中国製、それとも日本製?
中国製ならば、分厚く塗った漆層を削って模様を出すでしょう。木胎に彫刻模様を施し、朱漆を塗る方法は、やはり日本のものだと思います。この品は香箱なので、さらに日本の品の可能性が高いです。また、下段を少し大きくして安定感を出した段重は、上手品にしばしばみられます。
このような事から、今回の品は、中国の堆朱に憧れてつくられた日本流の堆朱だろうと推定されます。
明治以降、◯◯堆朱のような特産品が量産されるようになったので、木胎彫刻朱塗の日本流堆朱は多く残っています。しかし、江戸時代の物、特に年代がわかる品となると極端に少なく、今回の品は資料的に貴重だと思います。
表面に大きく彫られた文字「中有風露香」。
これは、中国北宋時代、蘇軾(蘇東坡)の詩「黄葵」にある言葉です。
「弱質困夏永,奇姿蘇曉涼。低昂黃金杯,照耀初日光。檀心自成暈,翠葉森有芒。古來寫生人,妙絶誰似昌。晨妝與午醉,真態含陰陽。君看此花枝,中有風露香。」
「君看此花枝,中有風露香。」(君看よ此の花枝、中に風露の香あり)
(花枝をみてごらんなさい。そこに香りを感じることができます。)
「中有風露香」は、禅語のひとつです。
花枝と同じで、人間も姿形をこえた中に、心や人間性を感じることができる。つまり、 物事は目に見えるものの奥に真実がある。
大変、含蓄のある言葉ですね。その言葉が、江戸中期に、日本の堆朱の香箱に彫られていることに感慨をおぼえます(^.^)
これぞ堆朱という印象をうけますね(^-^*)
本体のみならず、それに付随した箱もまた素晴らしいですね(^_^)
年号が書かれている資料は少ないですよね。貴重ですよね(^-^*)
この堆朱が作られたのは、明和7年以前であることは明確ですものね。
私の経験では、どういうわけか、江戸時代の箱は、普通の木で作られているのがほとんどです。丈夫さを優先したのでしょうか。
今回の品は桐で出来ていて、特に大切にされていたようです。残念ながら、栢禪和尚がどんな人かわかりませんでした。