遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

面白古文書『吾妻美屋稀』11.「のみ升よひ升 酒問答升づくし」

2024年03月16日 | 面白古文書

久しぶりの面白古文書です。

以前にブログに紹介していた『吾妻美屋稀 五編全』の後半を順次アップしていきます。

『吾妻美屋稀 五編全』24丁、嘉永四年。12.1㎝x」17.8㎝。

今回は、「のみ升よひ升 酒問答升づくし」

酒呑みと酒嫌いが、それぞれ、一升から九升まで、狂歌を読みます。

上下で対になっている所もありますが、そのまま4分割してのせます。

酒のみ狂歌

・世の中に楽ミにのむ酒なれバ のんでくらすが壱升のとく(世の中に、楽しみに呑む酒なれば、呑んで暮らすが一生の得)

・極楽ハしま黄金と聞なれど さけなき國ハアヽなに二升(極楽は、紫磨黄金と聞くなれど、酒なき國はアヽ何にしょう)
   【紫磨黄金】紫色を帯びた純粋の黄金。

・雨風のよはをも何のいとひなく さけと聞たらいそぎ三升(雨風の、夜半をも何の厭ひなく、酒と聞いたら急ぎ参上)

・ならハねば諸芸する事かなふまじ 酒ばかりにハゐらぬお四升(習はねば、諸芸する事も叶ふまじ、酒ばかりには要らぬ御師匠)


・あひ押へ手元ミよふとむり酒を ひとつすけるも五升なりけり(相押へ、手元見ようと無理酒を、一つ助けるも後生なりけり)
  【助る(すける)】手助けする

・花のあした月のゆふべや雪のくれ のんでくらすでおもし六升(花の明日、月の夕べや雪の暮れ、呑んで暮らすで面白くしよう)
 
・身のほどを弁へてのむさけならバ 七升までのかんどうもなし(身の程を、弁(わきま)へて呑む酒ならば、七生までの勘当も無し)
【七生までの勘当】人はこの世で七回まで生まれ変われるという、その七回の生の極限までの勘当。未来永遠にわたっての勘当。
 
・陶淵明李白がやうに酒のんで すゑの世までも名をバ八升(陶淵明、李白が様に酒呑んで、末の世までも名をば発祥)
 
・酒のんでいからずなかずきげんやう わらひ上戸をふ九升といふ(酒呑んで、怒らず、泣かず、機嫌よう、笑ひ上戸を福祥と言ふ)
  

・長命の薬ともなるさけなれバ 楽しミてのめせけん壱斗(長命の、薬ともなる酒なれば、楽しみて呑め、世間一統)  【世間一統】世間いたるところ

 

酒ぎらひ狂歌


・長命の薬になるか知らねども のまずにくらす人も壱升(長命の、薬になるか知らねども、呑まずに暮らす人も一生)


・呑ときハ口に辛く酔つぶれ 苦しきものをアヽなに二升(呑む時は、辛く酔いつぶれ、苦しきものをアヽ何にしよう)

・酒のんでめうと喧嘩の挨拶に おたのミならバ急ぎ三升(酒呑んで、夫婦喧嘩の挨拶に、御頼みならば急ぎ参上)

・若い衆の酒をものまずその身をバ つヽしむ人ぞ四升なりけり(若い衆の、酒を呑まずその身をば、慎む人ぞ殊勝なりけり)

 

・酒ゆへに身を持くづす人あらば ゐけんしてやれ是も五升ぞ(酒故に、身を持ち崩す人あらば、意見してやれ是も後生ぞ)

・すけませふお合いたそとのミ過し 後ハまなこをしろく六升(助ませふ、お合いたそと呑み過し、後は眼を白黒くしよう)

・我(われ)人も色と酒とにくすおれバ これ七升のかんどうのたね(我人も、色と酒とに頽おれば、これ七生の勘当の種)【七生の勘当】前述

・呑過し喧嘩口ろんなげうちを すれバ悪名世にも八升(呑過し、喧嘩口論投打を、すれば悪名世にも発祥)
  【投打】物を投げつけて相手を打つ

・上戸にも笑ふもあれバおこるあり しかしいやなる物はな九升(上戸にも、笑ふもあれば怒るあり、しかし厭なる物は泣く性)

・酒のミといへども多くそのさけに のまるヽ人ぞ世間壱斗(酒呑と、言へども多くその酒に、呑まるヽ人ぞ世間一統) 【世間一統】前述 

 


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
遅生さんへ (Dr.K)
2024-03-16 10:55:48
「酒呑み」にとっては、「酒ぎらひ」の狂歌の幾つかが耳に痛いですね(><)
酒に関する狂歌は、昔も今も変わりませんね(^-^*)


*またまた、些細なことで恐縮ですが、「酒ぎらひ狂歌」の「七升」の記述の最後の「前術」は「前述」のミス入力かと思います。
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Unknown (ぽぽ)
2024-03-16 11:27:47
遅生さんへ
江戸時代でもかなりお酒が好まれていたようですね。(^^)
どぶろくですかね?笑
私の会社では運転前後のアルコールチェッカーを義務づけられるようになりました。法律だそうです。
私はめんどくさいからお酒はなくても良いやと思ってしまいますが、大半の人はそうではないんでしょうね。
江戸以前から続いている文化ですもね(^^)
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Dr.Kさんへ (遅生)
2024-03-16 12:45:54
酒呑みさんの泣き笑いは狂歌にピッタリですね。それに、五七調のリズムが心地良いので、深刻になりません。
酔っている限り、ご本人は幸せですから(^.^)

またまたまたまた、Drの添削を受けました。これからは、草稿の段階でチェックをお願いした方が良いでしょうか。でも、それでは、ブログ新鮮味に欠けるし・・(^^;
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ぽぽさんへ (遅生)
2024-03-16 12:49:39
江戸後期以降になると、庶民もかなりお酒を嗜んでいたようです。
ただ、現在の酒より薄かったらしいです。酒屋さんから酒を入れて家へ運ぶ貧乏徳利が大きいのはそのためだったそうです。
ビール感覚だったのでしょうか(^^:
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お酒 (ミルク)
2024-03-16 16:21:43
コメントありがとうございました。
これは、すごい。
いつも古い文を読み解いているのがすごいと思います。
わたしなど、全く読めません(;^_^A
何時の夜も酒飲みは、変わらないね~(笑)
ちなみに、🍶酒は、昔から飲みません。
相方さんは、お酒大好きで、たま~~に飲まれてました。
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ミルクさんへ (遅生)
2024-03-16 17:28:44
私も下戸なので、「酒ぎらひ狂歌」派です。
江戸の人たちも、こうやってやりあっていたかと思うと、親しみがわいてきます。
古文は、已むに已まれず、首をひねりながら悪戦苦闘しています。毎日、枕元の置き、あーでもないこーでもないと考えめぐらします。大体、30回(1か月)ほどトライすると、幸せの女神が微笑んで(憐れんで)くれます(^^;
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Unknown (クリン)
2024-03-17 09:11:45
まったく現代(の主に各家庭)と同じようなやりとりがくり広げられている気がします🐻!!
(酒のみのほうは、自己正当化・および保身のためにも言っているようなかんじですし👍、キライなほうはイヤミを言っていますし⚡)
「永遠に分かり合えない」ってうちのチットも言ってますね。。
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クリンちゃんへ (遅生)
2024-03-17 09:36:43
本当にそうですね。
酒呑みと酒嫌いの関係は、深刻な対立でもなし、かといって、寛容や無視でもなし。
両者の微妙な関係は、昔も今も変わらないところが面白いです。
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