ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

読売新聞記事: 医療ニュース

2006年03月17日 | 報道記事

YOMIURI ONLINE 医療ニュース

福島の産科医起訴、医療現場反発

手術の死「医師個人の責任問えるのか」

 福島県大熊町の県立大野病院の産婦人科医が、帝王切開手術で妊婦を失血死させたとして逮捕、起訴された事件で、日本産科婦人科学会などが16日、会見し、「故意や悪意のない医療行為に対し、個人の刑事責任を問うのは疑問」と抗議、医療現場に波紋が広がっている。

 この事件は、女性(当時29歳)の帝王切開を執刀した医師(38)が、子宮に癒着した胎盤を無理にはがして大量出血させ、死亡させたとして、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の疑いで逮捕され、今月10日、福島地裁に起訴された。医師は14日に保釈された。

 福島地検の片岡康夫・次席検事は「血管が密集する胎盤を無理にはがせば、大量出血することは予見できたはず。はがせないものを無理にはがした医師の判断ミス」と起訴理由を説明している。

 これに対し、同学会は会見で、〈1〉胎盤の癒着は数千例に1例と極めて少数で、事前の診断は難しい〈2〉胎盤をはがすかどうかは個々のケースや現場の状況で判断すべきだ〈3〉適切な処置をしても救命できないことがある――などと反論した。

遺族「予見できたはず」

 一方、亡くなった女性の父親(55)は「事故は予見できたはずだ。危険性が高い状態で、大きな病院に転送すべきだったのに、なぜ無理に(手術を)行ったのか」と不信を隠さない。

 学会の反発の背景には、「地方の産科医不足が加速する」との懸念がある。

 起訴された医師は、03年に福島県立医大から派遣され、大野病院で唯一の産婦人科医として年間200件余のお産を手がけていた。

 同様の「1人医長」の病院は少なくない。産科婦人科学会の昨年の調査では、全国の大学病院が医師を派遣する関連病院のうち、17%は常勤の産科医が1人だけだった。東北や九州、東海・北陸では20%を超え、地方ほど診療体制が貧弱だ。

 常勤医1人では医師が24時間、拘束されて疲弊するうえ、患者の急変時などに十分な処置ができない恐れもある。就労環境の厳しさに加え、出産を巡る訴訟も多いことから産科医は年々減り、大学が医師派遣を打ち切る例も相次いでいる。

 国も、1人体制などの病院から、産科医を地域の中核病院に集める方針を打ち出しているが、多くの地域では、医師を引き揚げられる地元自治体の反対などで、医師の集約はスムーズに進んでいない。

 医療事故が起きた際の原因究明システムの課題も浮上した。米国では、州ごとに医療事故を監視する公的機関があり、専門家が調査し、医師免許取り消しなどの処分を行う。一方、日本では「医療事故の真相解明は“かばいあい体質”の医療界には期待できず、司法に頼るしかない」という患者側の声も根強く、米国のような医療事故調査の第三者機関が求められそうだ。

 福島県立大野病院の事故を巡る経過

 2004年12月 帝王切開を受けた女性が死亡

 2005年 3月 県の事故調査委員会が事故報告書を公表。これを報道で知った福島県警が捜査に着手。

 2006年 2月 県警捜査1課と富岡署が18日、執刀した医師を逮捕。

       3月 福島地検が10日、医師を福島地裁に起訴。

(2006年3月17日  読売新聞)

報道: 福島県立医大医師会の声明

2006年03月17日 | 報道記事

朝日新聞

県立病院 産婦人科医師逮捕・起訴
2006年03月17日

 「事例、治療難度高い」―産科婦人科学会

 県立大野病院に務める産婦人科医、加藤克彦被告(38)の逮捕・起訴=業務上過失致死と医師法違反の罪=に対し、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は16日、厚生労働省で記者会見を開いた。同学会の岡井崇常務理事は「癒着胎盤という今回の事例では、治療の難度が高い。医師の力が及ばなかったことに対して、刑事責任を問うのはどうか」と疑問を投げかけた。

 また、岡井常務理事は会見で、加藤被告が行った手術について「これが『過誤』というなら、すべて医療過誤になってしまう」と述べ、不当な医療行為とは考えていないという見解を示した。

 警察に異状死を届け出ることを義務づけた医師法について、同学会の稲葉憲之常務理事は「異状死の基準をどうすべきか議論すべきだと思う」と述べた。

 また、東京女子医大病院で医療事故などにあったとする患者やその家族でつくる被害者連絡会は、この日、加藤被告の逮捕・起訴を受け、厚生労働相に対し、「医療(過誤)が起きた際の行政処分の基準を明確にして、省内に調査委員会を設けてほしい」とする要望書を提出した。

 「1人責任、不当解釈」―県立医大医師会

 県立医大医師会(山本悌司会長)は16日、加藤克彦被告の逮捕・起訴に対し、「現在の社会が抱える医療の問題を、地域医療に献身してきた一人の医師の責任ととらえる検察の不当な解釈に抗議する」などとする声明を発表した。

 同医師会の会員は189人。加藤被告の起訴を受け、14日に開かれた総会で、会員の意見を声明として集約し、議決したという。

 声明は、県の事故調査報告書が県内の医師3人によって作られたことについて、「専門家の意見をもっと広く求め、その内容、判断ともに、より詳細に検証する必要を感じる」などとした。

 また、医師法の「異状死」について、あいまいな解釈が医療現場を混乱させているとして、「医学会と司法当局の両者は『異状死』を医療上避けられない『合併症による死』と明瞭(めいりょう)に区別する基準を提示していただきたい」と訴えた。

(朝日新聞・福島)

***** Yahoo!ニュース-毎日新聞、福島ニュース

大野病院医療ミス:医師起訴に抗議 県立医大医師会が声明 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届出義務)違反の罪で同院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)が起訴されたことを受け、県立医大医師会(山本悌司会長)は16日、逮捕、起訴に抗議する声明を発表した。
 同会は声明で、「現在の社会が抱える医療の問題を、地域医療に献身してきた一人の医師の責任ととらえるのは不当」と批判。そのうえで、▽癒着胎盤を予見できたとの前提で、判断を誤ったとする解釈は臨床医学的に同意できない▽医学的に起こりうる合併症での死亡で、異状死とは認められず、届出の必要がなかったと判断できる――などと指摘している。
 また、医師法21条の異状死の解釈があいまいにもかかわらず届け出義務違反で逮捕、起訴したのは医療現場の混乱を引き起こすとし、異状死と医療上避けられない合併症による死を明りょうに区別する基準の提示を、医学会と司法当局に求めた。【松本惇】

3月17日朝刊

(毎日新聞) - 3月17日13時2分更新