月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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フォマルハウト

2013-02-12 07:08:43 | 詩集・瑠璃の籠

アルファ・キグニが持ってきてくれた本は
あっという間に読んでしまった
新しい知識は心地よく素晴らしく
わたしの全身を暖かにすがすがしく
血のようにめぐって わたしを健やかな清らかさに
導いてくれる

ただしい知識とはすばらしい
わたしはしばし その知識の断片を
薄い小さな宝石の板のようにして
パズルのように組み合わせ
まるでブロック遊びのように
新しいものを作り出すのに熱中していた

まるで子供のようですね
と誰かが後ろから声をかけてきた
驚いて振り向くとそこにやはり星がいる
星はフォマルハウトと名乗った

あなたはそういう風に学ぶと言うことが大好きだ
わたしも好きだが あなたの学び方というのが
何とも面白くて いつも感心してしまう

わたしは恐縮して言った
いや単にわたしは 自分の好きなことを
自由にやっているだけです
するとフォマルハウトは笑って
みんなそうですよ でもあなたがあんまり珍しいので
みんな笑ってしまうのです
失礼だが 子供というより
今は幼女のようだと言った方がいいな
あなたがかわいらしくて わたしは少し困りますよ
いつものように ふざけたことを言えない

そうなのですか とわたしは言った
するとフォマルハウトは笑いながら
小さな青い光の塊をだし
アルファ・キグニがくれた本の中にそれを放り込むのだった

新しい知識を入れておきました
また読んでください
いろいろな薬や魔法があなたには必要だが
今のあなたを一番喜ばせるのは
やはり書物でしょう

それはもちろん うれしいです
とわたしは言いながら飛びつくように本を取った
さっそくめくると 白いページから
青い氷のような炎が燃え上がって
小さな風をともなってすぐにわたしの目から
わたしの頭に入ってきたのだった

目を閉じると 不思議な
どこまでもはるかに広い 黒いテーブルの天板が見える
テーブルの上には薄青いカードがたくさん並べられていて
どこからか ひたひたという音が聞こえる
探してみると テーブルのずっと向こうで
それは白くて美しいふたつの手が
忙しく動き回って カードを次々とひっくり返しているのだった
カードが返るたびに ひたひたという音がし
その向こうで かすかに 人間の痛い悲鳴が聞こえるような気がする

はいそこまで とフォマルハウトが言ったので
わたしは目を開けた
フォマルハウトは言った
それ以上は見ないでください
今のあなたには 少々薬が強すぎますから

わたしは なんとなくわかって 少し悲しくなった
フォマルハウトは笑ってわたしを見つめている
わたしは小さく息を吐いて フォマルハウトに尋ねた
これはもう 現実に起こっていることなのですね

フォマルハウトは答えた
ええ もちろん だが誰も知りません 人間は
それはそうでしょう とわたしは言った

わたしは 岩戸の外の人間たちのことを思った
そしてフォマルハウトにたずねた
わたしにできることは 何でしょう
するとフォマルハウトは悲しい目を伏せて
ゆっくりとかぶりを振り
なにもしてはいけません と言った
でもあなたが どうしても何かをしたいと思うなら
絶対に誰にもわからない隠喩で
秘密を明かしてください

それは許して下さるのですか
わたしが言うと フォマルハウトは
暖かな微笑みで わたしを包んで
まるで 少しだけなら先におやつをたべていいよと
幼女にいたずらを許すように 言うのだった

いいですよ



コメント (1)
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