その日 わたしは少し
気分が悪かった
机について書き物をする気にもなれない
寝床について 眠ろうとするが
頭の中を 黒い靄のようなものが渦巻き
とても眠れない
しづかな呪文など歌って
なんとかしばしの微睡を得たが
意識は夢とうつつの間を 狂おしく
奇妙な吐き気をまといながら ただよっている
お腹のあたりが
みょうに重い まるで
石でも孕んでいるように
それが 変にぐるぐると動く
わたしはあまりの不快さに
寝床から起き上がろうとした
しばしの間
意識を失ったかと思う
プロキオンの叫ぶような声を聞いた
ふと気づくと 大きな星が
わたしの顔をのぞきこんでいる
ああ プロキオン あなたでしたか
わたしは声にならぬ声でいったのだが
はたして なぜそういったのかわからない
見覚えのある顔だが
誰なのか見当もつかない
でもわかっているような気がする
星は わたしの口に手を入れると
わたしの喉の奥から黒いものを引っ張り出した
そしてそれを糸を巻き取るようにくるくると手にまいていった
静かな声が聞こえる
わるいものが あなたのお腹に棲んでいて
あなたを苦しめているのです
だいじょうぶ すぐとってあげますから
ああ プロキオン
わたしは言った
なぜあなたは なにもわからない
小鳥のようになって
わたしのそばにずっといてくれるのですか
プロキオンは笑った 悲しそうに
今にも涙を流しそうに
そして黒いものをまきとりながら
わたしに言うのだ
人々を たすけるためには
あなたを たすけねばならないからです
ああ そうでした
わたしは言った
そして目を閉じて また意識を失った
ちち ちち と
プロキオンの声がする
目を開けると わたしはいつしか
床の上に倒れていて ぼんやりと天井を見ている
起き上がると すっかり気分はよくなっていて
お腹のあたりの重みも なくなっている
わたしはプロキオンの方を見た
こいぬの星は素知らぬ顔で
瑠璃の籠の中で ちるちると鳴いている
それがだれなのか わたしは一瞬わかったような気がしたが
夢の気分が潮のようにひいていくと同時に
それをすっかり忘れてしまった
プロキオンが鳴く ちるちると鳴く
そうだ わたしは生きねばならない