月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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アレス

2013-02-08 06:52:55 | 詩集・瑠璃の籠

月の岩戸に閉じこもり
わたしのやっていることと言えば
詩文を書いたり 絵を描いたり
時には琴を奏でて 歌を歌ったり
窓に釣り下がる かわいいこいぬの星と話をしたり
そんなことばかりなのだが
特に外に出たいとは思わない
わたしは一人静かにここにいるほうが好きだ

でも ときどき思う
昔は こんなふうではなかったなあ
友達もいっぱいいたし
友達と話をするのも 好きだった
外を走り回って いろんな冒険をした
今は
プロキオンがそばにいてくれて
時々星が訪ねてきてくれるだけの
静かな毎日を過ごしている

ある日 変わったお客がいらっしゃった
だるまのように赤くて妙に難しい顔をした星が
小窓をたたいて ごめんくだされと
古風な発音で言う
わたしが小窓を開けると赤い星は丁寧に会釈をしてから
中に入ってきた
そして小部屋の真ん中に座り 深々と礼をして
自分の名を 「アレス」というと言った

ああ アレス 存じております
マルスとも呼ばれる方
あなたがわたしのもとに来て下さるとは思わなかった

アレスは 無駄なことをあまり言いたくない様子だった
わたしに何か言いたいようだが
それをなかなか言えないことにもどかしさを感じているのか
目を閉じたり開けたりしながら 何度も深い息をつく

何かわたしにお話があるのでは?
と言うと アレスはようやく言ったのだ

たしか あなたのご友人がおっしゃったことがある
ごみを捨ててはいけないところに ごみを捨てるなと
わたしの言いたいことは それとまったく同じなのだが
地球の人間のためを思うと 言うに言えない
しかしこのまま放っておいても 
人間はやっても無駄な努力を繰り返すだけだ
本当のことがわかったとき 
いったい今まで自分は何をしてきたのかと
大きく落胆するであろう

ああ そのことならば わたしも悩んでいるところです
言うのは簡単だが それによって
人間がどれだけ傷つくかと思うと
言うに言えない
けれども いつかは言わないと 時が流れるに従い
人々は 無駄な努力を積み重ね 真実を知った時に
突き落とされる崖が高くなる

あなたはいつ それを言うつもりですか
と アレスは真剣な顔で私に問うた
わたしは奥歯を噛み 目を閉じて考えた
そしてしばし息を止めたあと 目を開けて
アレスに言ったのだ

この地球は 愛が雨あられのように降ってくる
美しい創造の世界
木も花もあらゆる生き物も水も風も日も
大地も空も海も月も日も星も
すべてが愛にかきたてられてやってくる
奇跡の命の星
人々はここで まるで少年のように遊んでいる
豊かにも素晴らしい世界
アレスよ あなたの世界は いかなる世界ですか

するとアレスは言った
愛はあるが ここのように豊かに空から降ってきたりはしない
生命も存在したことはない
草一本も生えることのできない荒れ野が広がっている
時に山岳がある 谷がある 川はない 海もない
二酸化炭素の氷の山がある
風の言葉は冷たくも誰の耳も冷やすことなく流れる
日はふりそそぐが 月はないに等しい
寒さは空に貼りついて砂に氷の絹を敷く

さて わたしもまた 地球人類を愛しているが
ふうむ
はっきりとはまだ言えないのが もどかしいですな

アレスのことばに わたしは返した
それほどたくさん ヒントを言ってくだされば
きっとわかる人もいるでしょう
あなたの 困惑をわかってくれる人が
いずれ時がくれば 誰かが必ず言ってくれるでしょう
そのためにも今 わたしが言わなければいけないと思うことは
言っておきます

人間よ
まったくすばらしいとあなたがかんがえているものが
いずれ すべて 馬鹿になってしまう
金と汗と情熱を傾けて一心につくりあげたものが
なにも知らなかった時代の 幻の遺跡となる
このことばを 忘れずにいてほしい
いつかは だれかが 必ず真実をいうだろうから
そのときの衝撃を 少しでも軽くするために
わたしと わたし以外の使命を持った人が
できるだけの努力をすることと思う

そのあと わたしとアレスは秘密のある言葉を交わして
別れた
アレスが窓から去って行くと プロキオンがちると鳴く
わたしは深くため息をはき 少し背骨に疲れを覚えて
小部屋のすみの寝床に横たわった


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レグルス

2013-02-07 07:00:00 | 詩集・瑠璃の籠

あれ以来 少し寝付いてしまった私である
胸にある気持ちは常に誰かが支えてくれているようだし
壊れているところにも 変調はない
けれども どこか気分がすぐれず
書き物もせずに 寝ていることばかりが多くなった
ちち ちち とプロキオンが鳴く
ある一定のリズムを持って
その声はまるで何かの信号のように聞こえる
わたしは プロキオンが誰かを呼ぼうとしていると感じた

それは間違ってはいなかった
しばらくして 大きな星がわたしのところに訪ねてきた
星はレグルスだと名乗った
アルギエバとは同僚であるとも言った

先日は あなたのお体のことも考えず
少し乱暴なことを言ってしまい 申し訳ありませんでした
と これはアルギエバからの伝言です
わたしからも 深く陳謝いたします

レグルスは礼儀正しく言った
だがその声にはアルギエバと同じように
煮えくり返っているものを無理矢理隠しているという感があった

レグルスはみやげだと言って
わたしに獅子のたてがみを編んで作った
小さな香り袋をくれた
中には星の香りを秘めた小さな光が詰めてあり
それをいつも上着の内ポケットに入れておくようにと
レグルスは言った

そうしていると あなたの胸の棘が次第にもろくなってきますから
どうです 治療もすすんで 大分棘はすくなくなりましたか

わたしは少しほほえみ ええ と答えて言った

レグルスも笑った でもすぐに
微笑みの中に悲哀が染み出てきて 
彼は目を伏せ かすかに奥歯を噛んだ
わたしには 決して言えないことがあるのだなと
わたしは思った

レグルス
わたしは言った
わたしは あなたがたを苦しめているのでしょうか

するとレグルスは眼光を強め
燃える視線で瞬時にわたしを貫いたかと思うと
獅子のほえるような声をあげた
だが何も言わなかった 
言わぬまま 岩戸から静かに出て行った

香り袋のおかげで 少し力がついてきたわたしは
寝床をあげ 小窓に手をついて空を見た
プロキオンが ちるちると鳴く

無性に 子犬の頭をなでたくなった
死んでしまった わたしの犬の頭を
愛していたあの犬の頭を
もう二度とあうことはできないのだな
わたしの犬




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アルギエバ・2

2013-02-06 05:45:14 | 詩集・瑠璃の籠

人が好いという部類ではない
あなたは馬鹿だ!!
と 星は入ってくるなりわたしを怒鳴った
そして岩戸の揺れるような声でわたしに言うのだ

馬鹿を甘やかすな!!

わたしが呆然としていると
星は白い光をきりきりと燃やして
鋭利なナイフのような言葉で
わたしの心臓を切るように言った

あなたはしばらく黙っていろ
なにを見ても聞いてもなにもいうのではない
あなたがなにかをいえば
にんげんはあなたに甘えて何もしなくなる

馬鹿には馬鹿の鍛え方がある
糞にたかる蠅のようなやつらに
甘い夢などやるのではないわ!!

わたしは ただ驚いて なにも言えなかった
甘すぎるとはよく言われることだが
相当に星は怒っているようだった

凍りついたように動けないでいるうちに
ふと気づくと もう星はいなくなっていた
プロキオンが ちる と鳴く
わたしはただ驚いて胸の痛みを押さえていた
さっきの怒鳴り声のショックで 心臓の端が少し壊れたようだ
でも何かが自動的に働いて それを修復しようとしているのがわかる

アルギエバですよ

と どこからか彼の声がする

相当に怒っているようだ
やれやれ 人間め
糞にたかる蠅と言われたわ
糞のかたまりとどっちがましですかな

わたしはしばらくショックで口がきけなかったが
心臓の痛みが消えると 小さな息をついて
ようやく言った

それは あなたのほうがひどいですよ
でもあの方のほうが 怒っているようだ

岩戸の女神よ
しばらくはだまっていなされ
あのひとをこれ以上怒らせたら
何が起こるやらわからない

彼は言った
わたしはただうなずいた
反論をしようにも 今のわたしにはその力もえねるぎぃもない

アルギエバ 牙の天使
小窓の方を見ながら 
わたしはその名をつぶやいた



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アルギエバ

2013-02-05 06:44:37 | 詩集・瑠璃の籠

去れ
この愛の世界から
おまえは 永遠に
去り続けるのだ
帰ってきてはならぬ

遠ざかるほどに
虚無の風が冷たくなる
脳に無音の砂がつまってゆく
孤独が氷の影となって背に張り付く
だが帰ってきてはならない
おまえはこの
愛の世界から消えてゆかねばならない

永遠に去り続けよ
この愛の世界から
永遠に遠ざかってゆき続けよ
振り向いてはならない
神がおまえを忘れ去るまで
けっして帰ってきてはならない
ひとりゆく つぶての鳥のように
絶望を目指して 去れ
 
なにをしたと思っているのだ おまえは
この愛の世界で何をしたと
愛の腹を刺し糞をかぶせて侮辱し
煮えたぎる湯に入れて豚に食らわせた
高々と嘲笑っていたお前を
誰が許しても 私は決して許さない
二度と帰ってくるな

去れ 
この愛の世界から
永遠に去り続けよ
永遠に離れていき続けよ
愛はおまえから遠くなる 遠くなり続ける
その永遠に愛から離れ続ける道のみを
おまえにやろう

不埒者め その偽りを言って
恥じぬ口に 太い釘を打ち
十字架にはり付けてくれよう
二度と馬鹿な口がきけぬように

じいざす じいざあす
とうの昔にお前が殺した愛に
まだすがりつくつもりか ばかものめが

わが名は アルギエバ
獅子の星である



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だいこんよ

2013-02-04 07:17:29 | 月夜の考古学

おでんやで だいこんをたのむのは
おとなだけです
こどもには まだ
だいこんのあじは わかりません

たまごとかちくわとかおにくとか
こどもはそっちのほうがすき
だいこんは いつもさいごまで
のこります

たんじゅんで まっすぐで まっしろなだいこんは
にがくて あまくて たんぱくで きどらなくて
おとなは にがいことを したことがあるから
だいこんが すきなのです
にがいことを しなきゃいけないから
だいこんが すきなのです

だいこんが いなかったら
にんげんは まっすぐがわからなくなる
にがいことをしているじぶんがなおらなくなる

だいこんよ だいこんよ
だいこんよ

まっしろでまっすぐな だいこんよ



     *


2008年ごろだったか、入院していたときにノートに書いた詩と自画像です。詩の方は少し手をいれて整理しました。

おでんはわたしも好きだけど、確かに子供の頃は、大根なんて食べませんでしたね。なぜあんなものがあるんだろうってくらいに思ってた。お肉や竹輪の方がずっとおいしいのに。

でも大人になると、大根がやはりおいしい。やわらかくて、甘くて、やさしい。大根がなぜ好かれるのか、わかるような気がする。食べると、何かが心にしみてくる。

大根は、見ても、食べても、やさしいです。単純で、まっすぐで、白くて、優しくて。

生きるために大切なことを、与えてくれる。教えてくれる。大根がいる。この世界には。だから生きているんだってこともあるな。

自画像の方は、あまりわたしに似てません。でもその頃の悲しみというかつらさに耐えていた自分の硬さがでているように思う。

それにしても、なんでわたしはあのころ、こんな詩を書いていたのかなあ。
もうずっと昔のことのようで、さっぱり思い出せないのです。


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メンカリナン

2013-02-03 07:59:46 | 詩集・瑠璃の籠

途中で 夢を見ているということに気付いた
暗い店の中で ガラクタを並べた陳列台が
どこに灯っているかわからない
薄明かりに照らし出されている

鶏の声が 聞こえる
黒い 鶏の 声が
わたしは目を閉じ あああ…と
よわい息を吐く

心臓が痛い 背骨が重い
足が 折れそうに 曲がってゆく
目から滴る涙は
難破船から海に流れ出た重油のようだ
それがわたしにまきつき
わたしは油にまみれた鵜のように絶望して
暗闇に倒れるのだった

目を覚まさなければ 今すぐ
でなければまた あの暗い部屋に閉じ込められる
氷の棘が住んでいる あの暗い部屋に

だいじょうぶですか と声が聞こえた
わたしは誰かが肩に手を触れたのに気付いて目を開けた
大きな涙の粒が眼球から盛り上がって
枕に落ちた

ぼんやりとしているうちに
いつの間にかそこにいた星が
わたしの涙をその光で拭ってくれる
わたしは かすれた声でようやくありがとうと言うと
寝床から半身を起こした

星は 寝ていていいですよ
いやな夢を見たのでしょう と
やさしく言ってくれた

メンカリナンと申します
自己紹介はしますけれど
初めて会ったわけじゃありません
あなたはまだ思い出さなくていいけれど
わたしはあなたを知っていますから

そうなのですか とわたしは言った
そのことばに メンカリナンはくすりと笑った
変わりない 姿はまるで違うのに
中身はすべてあなただ

そうなのですか とわたしはまた言った
メンカリナンは笑いながら
わたしに小さな緑の石をわたすのだった
孔雀石かと思ったが色が微妙に薄い
何の石だろうと問うと メンカリナンはいった

森林輝石と言います 地上ではとれない石です
これを枕の中に入れて眠りなさい
すると悪い夢や 悪い思い出をきれいに清めてくれますから
そして 傷ついた気持ちがやわらかく安心してきますから

まあそうですか それはありがたい
わたしは悪い夢を見た後だったので
その贈り物はとてもうれしかった
メンカリナンは知っているらしく
わたしに言った

黒い鶏は もう死んでしまいました
二度と あなたをあの黒い部屋に
閉じ込めることはできません
心臓に棘を刺すこともできません

はい それは人づてに聞いて知っています
でも 思い出は 消えなくて
何度も塗りつぶしたり 海や風で洗ったりしたのですけど

わたしがそういうと メンカリナンは
瞳に深い悲哀をためながらも微笑んで
わたしをやさしく包むような声で
言ってくれるのだった

もう こわいものはいませんよ
あなたを驚かすような こわいものはいません

そうですか とわたしは言った
しかし思いはやはり さっきまで見ていた
夢の中に流れていくのだった

薄暗い店の中で あの人は何を売っていたのだろう
わたしが考えていると
メンカリナンはそれを見透かして言うのだった

馬鹿なものですよ 愛のことなんか何も知らないのに
愛だと言って 嘘を 売っていたのです
わかるでしょう 今なら

わたしは 泡のように浮かんでくる記憶を
ぼんやりとながめながら
まるで誰か知らない他人のことをいうように
ほんとうにそのとおりですと
メンカリナンに言ったのだった



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目覚めの空

2013-02-02 07:17:48 | 人間の声

わたしを愛してくれたもの
みなに感謝する

わたしに わたしをくれて
ありがとう!!!!!!!



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コスモスの少女

2013-02-01 07:53:38 | 月夜の考古学

昨日が冬に咲いてくれた花で、今日がコスモスというのは、少し季節が飛びすぎましたね。

これは、2002年11月に発行した同人誌26号の中扉に使った切り絵イラストです。
確かこの絵にはモデルになった女性がいました。このころわたしは書店のパートに勤めていて、その同じ書店のアルバイトをしていた女の子が、就職ができたことを機にアルバイトをやめるので、その記念として彼女をモデルにして描いたこの切り絵をプレゼントしたという思い出があります。

かわいい子でしたけれど、今頃どうしてるかな。いい娘さんでした、明るくて、しっかりしていて、幸せになってほしいと願える女の子。もうずいぶんと経っているから、今頃は結婚もして、子供もいたりするだろうか。

この絵の顔は、彼女にかなり似ています。似顔絵の苦手な私ですけどね、雰囲気はつかんでる。コスモスの花を描いたのは、ちょうどその季節だったからでしょう。

あれから何年経つか。わたしは彼女と別れてから、少々重い試練を味わわねばなりませんでした。ほんとうにねえ。だれかさんの言うとおりだ。まっすぐにしかいけないわたしが、真っ正直に生きようとしたら、ああいうことになるなという経験をした。でも、耐えていけた。乗り越えていけた。そして、次のステップに進むことができた。

でも友達は、そんな私を見て、まるで満身創痍だったというのですよ。ええ、血を流しながら歩いていたと。そうだったのかもしれない。もう、わからない。

彼女は、どういう人生を送っているだろう。幸せになっていてほしい。でも同じ女性として、人生の先輩として言いたいことは、少しあります。

知ってたよ。あなたが、あのとき、考えていたこと。でも、みんな、ゆるしていたよ。

きっとあなたも、同じ気持ちを味わうことがあるだろう。そのときは、できたら、正しい選択をしてほしい。

人生は、幸せになるためにあるのじゃない。

本当の幸せに気付くためにあるのだ。

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