勿忘草 ( わすれなぐさ )

「一生感動一生青春」相田みつをさんのことばを生きる証として・・・

別れの香り

2007-10-15 00:09:54 | Weblog

◇ それは ◇

それは窓に射す日の光のなかにある
それはキンモクセイの木の影のなかにある
それは日々にありふれたもののなかにある
Tシャツやブルージーンズのなかにある
それは広告がけっして語らない言葉
嘘になるので口にしない言葉のなかにある

それは予定のないカレンダーのなかにある
時計の音が聴こえるような時間のなかにある
誰のものでもないじぶんの一日のなかにある

それは、たとえば、ちいさなころ読んだ
「シャーロットのおくりもの」のなかにある
あるいは、リンダ・ロンシュタットの
スペイン語のうつくしい歌のなかにある
名づけられないものが、そのなかにある
それが何か、いえないものがある

-長田 弘さん-

 生涯忘れることのできない別れが3つある。そのひとつ、それは、夏の陽射しと秋の風が交錯した晴れた日、「ありがとう」の言葉を遺して旅立った人との別れ。
 悲しみに時が止まっていたある日、時計の音が聴こえるような時間のなか、秋の風とともに漂う甘い香りに気がついた。ベランダから覗いた植え込みにキンモクセイがあることを始めて知った。
 その日からキンモクセイの香りは、悲しみの香りになった。窓に射す日の光のなかに香るキンモクセイが、予定のないカレンダーをあの日に呼び戻す。僕にとってキンモクセイは別れの香り。誰のものでもない自分の一日のなかで・・・。今年も、あのキンモクセイが狂おしく香る季節がやってきた。