以前、私のホームページに設けている掲示板「ひろば」にも書いたことですが、今年(2011年)の8月24日、大阪高等裁判所が民法900条第4号について違憲判断を下しました。私が仕事で利用するLEX/DBにはまだ概要しか掲載されていませんが、決定(判決ではありません)を読んでみたいものです。
この決定は、10月4日の朝日新聞朝刊1面14版に掲載された「婚外子の相続差別『違憲』 大阪高裁 家族観の変化指摘」という記事で取り上げられています。1ヶ月以上経ってから新聞で取り上げられたのは何故か、という点も少しばかり気にはなりますが、やはり、正面から違憲という判断を下したことが重要でしょう。また、原審の大阪家庭裁判所も違憲の判断を示していますし、最高裁判所への特別抗告がなされず、大阪高等裁判所の決定が確定しているのです。今後、少なくとも家庭裁判所や高等裁判所のレベルでは判例になるのではないかと思われるのです。但し、合憲判断も出される可能性があります。
民法第900条第4号の合憲性は、かなり前から問題となっていました。私が中央大学法学部法律学科の学生であった頃、憲法学の教科書には書かれていなかったのですが、親族法・相続法の教科書には、この問題に関する記述があったと記憶しています(記憶違いかもしれません)。1995(平成7)年7月5日、最高裁判所大法廷は民法第900条第4号を合憲とする決定を出しました。この時、反対意見もついていました。その後も最高裁判所などで合憲の判断が続いていましたが、必ず反対意見が付されていました。また、法制審議会もこの問題を取り上げていたはずで、嫡出子と非嫡出子との区別(差別)を撤廃する趣旨の案を示していました。しかし、事が親族法であり、家族のあり方に直結しますので、論理だけでスッキリと解決できる訳ではありません。おそらく、現行の民法第900条第4号に何の問題もない、という意見もあるでしょう。むしろ、嫡出子と非嫡出子とで相続分の違いがないとすれば家族の意味がどうなるのか、ということにもなるかもしれません。
民法第900条第4号は、昨年にも話題を呼びました。或る事件で、やはりその規定の合憲性が争われたのですが、最高裁判所は上告を受理した後、事件を大法廷で審理することを決めました。これには大きな意味があります。裁判所法第10条は、次のように定めています。
「事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。」
1995年の合憲決定が判例となっているにもかかわらず、大法廷で審理するということは、判例変更の可能性が高いということです。ところが、続報がなかったのでした。これは当事者が和解したことによります。判決を待たずして事件が解決した訳です。
最高裁判所の判例が下級裁判所によって変更されるということは、おそらく想定されていないでしょう。しかし、2010年に大法廷での審理入りが予定されていたという事実を忘れることはできません。最高裁判所が自らの判例を変更する可能性は高かったのです。その意味では、既に判例変更の動きは見られたこととなります。
なお、この問題については、次の記事もお読みください。
http://blog.goo.ne.jp/compasso_2010/e/627fa822a8780cfc119f323019ea46ec
私は、1997年度から2003年度までの7年間、大分大学教育福祉科学部で憲法の講義を担当していました。それだけに、憲法問題には目を向けざるをえません。