ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

夕刊のベタ記事だけど

2011年11月25日 11時16分57秒 | 法律学

 今週火曜日(11月22日)の朝日新聞夕刊2面4版に、「大学改革へ協議会」という小さな記事が掲載されました。見落としそうなくらいのベタ記事なのですが、仕事柄というべきか、非常に気になりました。中身は法科大学院の話なのです。

 平成16年度から法科大学院における法学教育が開始され、全国に74の法科大学院が設置されました。その2年後、平成18年に新司法試験が開始されました。しかし、合格率は当初から期待を裏切るほど低く、しかも年々悪化しています。当初は、(うろ覚えですが)旧司法試験の合格率が1桁台(パーセントで)ということで、少なくとも5割以上の合格率が想定されていたはずのですが(違うかもしれません)、蓋を開けてみたら、最初の年である平成18年が50パーセント弱、翌年が約40パーセントと年々落ち込み、平成21年から30パーセントを切り、2割台となっています。勿論、これは全体の数字なのですが、法科大学院によって率にかなりのばらつきがあります。そして、上位校でも5割台というところで、下位校ですと1桁台、どうかすると0パーセントの所もあります。中位や下位の学校では定員割れも起こっており、何年か前に姫路獨協大学が撤退の方針を明らかにした他、今年になって桐蔭横浜大学の法科大学院と大宮法科大学院大学とが統合すること(実質的には大宮法科大学院大学を桐蔭横浜大学が吸収合併する)も発表されました。

 法科大学院構想が議論された頃、私は大分大学教育福祉科学部の助教授で、大分県で法科大学院構想を持ち上げた所はなかったということもあり、正直に言えばよくわからなかったのですが、「またアメリカの真似か? また失敗するんじゃないか?」と思っていました。その後、大東文化大学法学部に移り、平成21年度からは大東文化大学大学院法務研究科(法科大学院)の講義も担当するようになりましたが、色々と考えさせられるところがあります。判例中心、ケーススタディ中心というのが一般的でしょうが、実はこれについて大きな問題があることを実感しているのです。

 もう一つ、大分大学時代に思ったことは、司法改革全体を見ると、かたや法科大学院、かたや裁判員制度で、双方が大きく方向性を異にしており、矛盾を否定しえないことです。単純に言えば、専門性の問題です。かたや高度な専門家の要請、かたや民主主義の観点(?)から非専門家の裁判への参加です。正反対の話が同時に進行する訳です。どの方向へ進むのかが全くわかりませんから、矛盾は避けられませんし、こうなるとどちらかは必ず失敗します。

 もっとも、法科大学院についても裁判員制度と同じ観点がなかった訳でもありません。当初、法科大学院の場合、法学部以外の学部を卒業した者にも法曹への道を大きく開くということが言われていました。たしかに、旧司法試験の場合、法学部に在籍して専門的な学習を積み重ねなければ合格できなかったのですが、実は旧司法試験の下でも他学部出身の合格者は出ていました。誰でも受験できるという点では旧司法試験のほうが門戸を広く開放していたのです。しかし、新司法試験は基本的に法科大学院修了者のみが受験できますから、かえって入り口が狭められたという点も認めざるをえないのです。

 上記朝日新聞夕刊の記事によると、文部科学大臣が「大学教育改革について話し合う協議会を設置する」ということで、法科大学院だけの話ではなさそうですが、法科大学院は一つの焦点となるでしょう。即座に廃止するということはないかもしれませんが、今年から始まった予備試験との関係もありますから、慎重な検討が望まれるところです。

コメント
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